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【連載小説】母娘愛 (6)

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「あなたが欲しい・・・」

 激しい口づけラッシュの合間に、裕子の耳元でささやく福田。熱い吐息交じりのその言葉が、裕子に自分のオンナとしての魅力を、認知させ歓喜もさせた。そして、抱きしめる裕子の身体から立ち上がる、熟れた女の香りで、福田のオス化により拍車がかかる。
 裕子の数少ない苦手なことのまたひとつ。オトコに対する免疫力のなさがある。大学を出てから、脇目も振らず仕事一筋に、突っ走ってきた裕子。男性経験がないわけではないが、オンナの扱いに手慣れた福田の前では、ひとたまりもなかった。
「・・・」意味のなさない言葉と、己のため息が部屋中に充満していることが、裕子の平常心を心地よく奪い去った。重なる男女。絡まる互いの足。所かまわず、裕子の身体を容赦なく蹂躙する福田の掌、そして指。
 福田の腕の中で、ただ彼にメスを捧げるだけで果てた裕子だった。あのとき、オンナの悦びというよりも、生きているという慶びに浸っていた。
 小刻みに痙攣が残る裕子に、さらに小さな声で福田は言った。「お母様には・・・内緒だよ・・・絶対に・・・」希薄な意識の中で、裕子は顎を首元に食い込ませるほど、力強く何度も縦に振って見せるのだった。
 出会ったその日に、こんな関係になったなんて、口を裂かれようが、母に話せるわけがない。

 早朝、まだ眠っていた裕子を残し、ホテル前の日比谷公園を散歩してきたという福田。今日ひと仕事終え、午後一には広島へ戻るという彼と、東京駅で別れ、目黒駅前の勤め先へ急ぐ裕子。
 信号待ちをしながら、スマホの電源を、躊躇しつつ入れる。快晴の空のもと、気持ちは曇る。予想通りだ。母・恵子からの着信履歴が、何件も入っている。とりあえず留守電を再生してみる。
「ゆうちゃん!何かあったの?返事してよ!福田さんの携帯も繋がらんし・・・」裕子は、母の声を聴きながら、昨夜、電源を切っていたことに、改めて罪悪感を抱くのであった。
「ごめんね!スマホが故障してたみたいで・・・」という裕子に、心底安心している母の声。裕子の罪悪感は、より膨らむのであった。
「どうじゃったの?福田さんのこと・・・」「うん!いい人だった!・・・けど」「けど、・・・なに?」「ごめんね!結婚は考えなおした方がいいかも・・・」「そうかい!」母の落胆する声を遮るように、「信号が変わったし・・・今夜、また詳しく電話するから・・・」と、裕子はスマホを切った。

 別れ際、福田と口裏を合わせている。昨夜は、銀座で、軽く食事して8時ごろには別れたのだと。裕子は、先ほどの母の暗く沈んだ声と、昨夜の福田との房事による気だるさを抱えながら、到着した勤め先で、入門許可のIDカードをかざした。

 

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