見出し画像

森永卓郎|書いてはいけない【書評】

みなさんこんにちは。
今回は、最近出版されたばかりの話題作について紹介いたします。
著書:森永卓郎の「書いてはいけない」です。

基本情報

森永卓郎(著)

出版社:三五館シンシャ

発売日:2024/3/7

この本との出会い

いつものようにamazonで新刊のチェックをしていると、予約の時点で一位にランキングしていた本作。
著者はテレビのコメンテーターなどで往年活躍されている森永卓郎氏。先日、末期癌であることを告白され、ネットニュースで話題になっていたばかりだ。
しかし、本作を購入するに至ったのはそこではない。
本書の紹介文から、私がこれまで森永氏に寄せていたイメージ(後述)とはかけ離れた、執筆に至る覚悟を感じた為である。是非とも読みたくなったのだ。

作品の魅力(ネタバレを含みます)

1つ目 : 人生を賭けた最大の告発

森永氏は東京大学を卒業後、高度成長期の日本、バブル期、バブル崩壊からの所謂「失われ三十年」を公的機関、民間企業様々な職でキャリアを積み重ね、その後経済アナリストとして、四半世紀以上活躍してきた筋金入りのエリートである。
私は朝日テレビの「ビートたけしのTVタックル」や読売テレビの「たかじんのそこまで言って委員会」で良くお見かけしていたが、その時の印象は「穏やかでユーモアがあって知的な、しかし議論の肝心なところは最後まで突っ込むことができない、遠慮がちで優しい人」だった。
それら番組の全盛期に出ていたのは、ハマコーこと浜田幸一氏や、元大阪府知事の橋下徹氏をはじめとする「根に歯に着せぬ物言いができる実務家」達ばかりであった。
そんな出演者達の中で、私には森永氏の存在が弱く、あくまで番組を成立させる上で必要なムードメーカー的なポジションにしか見えなかったのだ。
しかし、本作を読んでからは、それはただの表面的なイメージで、森永氏はこれまで忸怩たる思いを抱えながらメディア関係の仕事をしていたことを知った。
そして書かれている内容は、仮に氏がこれまでの仕事を継続しようとするなら、確実に利害関係者達に牙を向くものであり、職を失うレベルの告発ばかりである。
そこに森永氏の勇気と覚悟を感じたのである。

2つ目 : 自身の豊富な経験に基づいた、具体的な問題定義

表紙を開いた1ページ目の「まえがき」から、いきなりパワー全開の告発である。本書で氏がこれまでメディアの仕事をしてきた中で
①ジャニーズの性加害 
②財務省のカルト的財政緊縮主義
③日本航空123便の墜落事件

の3つを挙げていた。
そして3つのタブーには共通の構造があるとした。詳しくは本書をお読み頂くと良いが、本書全体を通じて森永氏の経済アナリストとしての能力が遺憾無く発揮されていると感じた。つまり事実関係を簡潔に分析しており、大変読みやすい上、限られた字数であっても事実関係の掘り下げが確実に行われているのが本書の最大の魅力である。

3つ目 : 「日本航空123便の墜落事件」に触れたこと

私は根拠のない陰謀論や、ヘイトスピーチは人類が陥りやすい行動の一つであると理解している。陰謀論の類とは距離を取り、気をつけて来たつもりである。誤った情報に人々が振り回された結果、憎悪や紛争の火種となってきたのは、人類の歴史を振り返れば明らかである。特にコロナ禍以降は、QアノンやDS(ディープステート)といった言葉が世界中で拡散された。これは今も完全に収まってはいない。
日航機123便事件は公式には事故の原因が断定され、事故としての処理が 完了しているのだが、これまでネット上の掲示板、Youtube、Xなど様々な場面で「真実は異なる」との声が多く聞かれた。このようなコメントには「日本政府の闇は深い」「国民の命をなんだと思っているんだ」といった声が聞かれる一方、「陰謀論を信じるバカ」「事故原因は調査がされ、とっくに結論が出ている」など様々な意見これまでも交わされてきた。
そのような中、テレビやラジオに出演しているような著名なタレント、コメンテーターにとって、事故の真相について追及するメリットは一つもない。迂闊な発言とられれば、本人の資質を疑われ、今後の大手メディアでの仕事が無くなる可能性があるからだ。
しかし、2017年に発売された青山透子さんの著書「日航123便墜落の新事実」によって世間は再び、事故原因そのものに疑問を感じるようになる。

事故機に登場されていた客室乗務員の同僚であった著者は、圧倒的な調査量と理論的な事実の整理によってを進めながら事故の真相に迫ったのだ。  
私も当時は本書をすぐに購入し、著書が明かす残虐すぎる場面に衝撃を受けた。そして一市民としてのやるせのない無念・無力さを感じた。しかし、著書が持つ説得力に「もしかすると、今後事故の評価があらためられる日が来るのではないか」といった期待も生まれたのだ。
しかし、そのような動きが地上波のテレビ、新聞、週刊誌から見られることは、とうになかった。
毎年の事故のあった季節に近づくと、日航ジャンボ機墜落事故の特番がテレビで放送される。被害に遭われた方の慰霊、遺族へのインタビュー、そして当時事故担当したマスコミ関係者のインタビューなどで構成されるのだが、事故原因に改めて焦点を当てた内容は一つもない。これが今の日本の報道機関の現状だ。
森永氏の「書いてはいけない」では再び事故に光を当て、彼の著名度を最大限に活用し、事故原因、隠蔽の経緯、国民を虐殺した日本政府の責任、マスコミの責任、それらの結果としての日本経済の失墜を容赦無く追及している。書かれている内容が事実とすれば、日本政府は先の大戦後も国策の為には、国民の命を軽視し、挙句に自衛隊を使って国民を大虐殺していたのである。
我々は、他国のディストピアな政治体制を優越的に批判する資格など、そもそもなかったのだ。

これだけ衝撃的な内容であるからこそ、本作は多くの人々が手にとって読むべき著作なのである。これまでテレビに出続けていた著名なメディア関係者で本件に触れ、明確に日本政府の責任に触れた人間は森永氏ただ1人である。
ただし、本書を通じて本件を初めて知る人は、内容の壮絶さに数日メンタルを病む可能性がある。そこだけは十分に注意が必要だ

最後に

森永氏は最後にこう締めくくっている。
「なんとか自分の命のあるうちにこの本を完成させて世に問いたい。そのことだけを考えた」
すい臓がんステージ4とは言え、売れっ子の経済アナリストであり、コメンテーターである。これまで仕事で築き上げた人間関係にも影響が出るリスクを覚悟の上で、「私の40年にわたる研究者人生の集大成」「私の遺言」とした本作は、老若男女、日本に住む幅広い層に読んで頂きたい内容である。



以上になります。

これまでジャニーズ問題や、政治と宗教の問題など、これまで大手メディアが十分に向き合わなかった結果、苦しんでいる人々の人生が蔑ろにされ続けきた事実があります。
本書での森永氏と逆の意見があることも承知していますし、議論を深める上では様々な視点が必要とも思います。
しかし青山透子さんの著書をはじめ、真実に真正面から立ち向かおうとする人を応援できる世の中であって欲しいですし、私も微力ながら著書を購入することでそのような方々を応援し、書評を書くことで、皆さんに知って頂けれる機会となればと思います。

最後まで読んで下さりありがとうございます。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?