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逆噴射小説大賞応募作(20-21

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冒頭800字で脳細胞を揺らす文学賞「逆噴射小説大賞」に応募した作品です。現在3作品。参加するたびに増えると思います。
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CHEF

CHEF

 皮を剥いた玉ねぎを輪切りにする。分厚すぎると火の通りが悪くなるが、分厚いほうが美味い。料理には常に選択の苦しみが付きまとう。小麦粉は水でなく冷蔵庫で見つけたビールで溶いた。こうすることでさっくりとした衣になる。隠し味は砕いたスナック菓子(チリ味)だ。これが食感にもおいても、味にもおいても、良いアクセントになるだろう。片手鍋に油のプールを作り、火にかける。プールがジャグジーに変わったら、そこへ衣を

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C-Food

C-Food

 その男がレストランに現れた時、店にいた全員が確かに雷鳴を聞いた。客たちは慌てて窓の外に目をやったが、そこには美しい夕焼けがあるだけだった。それから彼らはようやく闖入者に気がついた。
 濡れた男だった。たった今、海から上がってきたかのように全身が濡れている。男の格好はどう見ても船乗りだったが、それがさらに彼を「異物」に見せていた。この町が漁業で栄えていたのは昔の話だ。今は世界中から人々が訪れる美食

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最速箒伝説 Black Bamboo

最速箒伝説 Black Bamboo

 始まりは弾圧からの逃走技術だと言われている。やがて弾圧もそれを行っていた者どもも消え去り、その技術だけが遺された。
 日本。AM12:00。晴れ。湾岸を流していた魔女のサリはすぐ前に箒乗りがいることに気がついた。サリのカスタムした樫の箒とは違う、ただの真っ黒な竹箒だ。だが丁寧に作られた箒であることは走りでわかる。
(へえ、乗り手もオールドスタイルってワケ)
 三角形の帽子に黒のケープを着た顔の見

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源平シャーク

源平シャーク

 1188
 
 瀬戸内海上

 波穏やか風爽やか。しかし、一隻の船が今まさに沈まんとしていた。
 原因は、鮫(サメ)!
 巨大な鮫がその身体を絶えず船に叩きつけている。
 船上には源義経、そして巨漢の僧兵、弁慶を含む数人の家来たち。相手が武士であれば無類の強さを誇る彼らも相手が鮫とあっては為す術もない。風にさらわれる木の葉のように船上を転がることしかできない。

 一方、船の真下、海中に突き出た

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俺らの声が聞こえるか?

俺らの声が聞こえるか?

 さっきからずっと雷の音がしているが、稲光は見えない。ここは一年中こんな天気なのだという。空が晴れたことなど一度もないらしい。
 THE BARANNSUのフロントマンであるフレドリック・カールマンに会える日が来るなんて、思ってもみなかった。しかも場所は地獄だ。これは比喩じゃなくてマジの地獄だ。ここにいるのは、ツノとかシッポとかが生えた奴らが半分、あと半分が骸骨だ。イカれてる。
 しかしこんなアホ

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