マガジンのカバー画像

感想

362
運営しているクリエイター

#エッセイ

『私は幽霊を見ない』藤野可織(著)

怪談探索エッセイ。怪談というより、怪談を追い求める日常を描いている。 クレイジー沙也加ほどではないが、この人も天然ぽいので、普通に読んでて楽しい。ニコラス・ケイジ好きで常に画像を収集してるとか想像のなかで猫を飼ってるとか面白エピソードがこの本の半分。このエア猫がキーボードの上でぐっすり寝ているので仕事ができないくだりは噴いた。 残り半分は、聞いたまたは体験した怖い・不思議な話の紹介。不可解な話もおおく、微妙に怖かったりするので、怪談好きも少しは楽しめるのではないかな。身も

『ワイルドサイドをほっつき歩け』ブレイディみかこ(著)

『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』シリーズが良かったので、コロナ禍のイギリスが描かれてるであろう本作に手を出したのだが、メインテーマはブレグジットだった。コロナ直前まで。 また、ちょっとブルーでは息子・学校が主軸だったが、本作ではおっさん(作者の友人たち)が主人公。 また、ちょっとブルーとエビソードがややかぶりしているのだが、補完してる感じで余計に楽しめた。 おっさんと呼ばれているが、60超えがほとんど。死とか病気とかそんな話が多いのだが、恋の話もちらほらあり面

『カラハリが呼んでいる』マーク・オーエンズ,ディーリア・オーエンズ(著)小野さやか,伊藤紀子(訳)伊藤政顕(監修)

『ザリガニの鳴くところ』が良かったので新作小説も読んでみよう、と手に取るが新作でも小説でもなく、若い頃、動物学者時代のボツワナ滞在フィールドワークドキュメンタリーエッセイであった。やられたと思いつつ読むと、驚くほど面白い。若い二人の無謀っぷり、砂漠の過酷さ、ライオンやハイエナなどと寝食をともにする距離感に驚きっぱなし。 極力人間の手の入ってない自然を調査するため、鉱山で働いて金をため、家財道具や車も売っぱらってアフリカへ調査へ向かう若い夫婦の行動力が恐ろしい。とりあえず行こ

『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』ブレイディみかこ(著)

人種も貧富の差もごちゃまぜの元底辺中学校に通い始めたぼく。人種差別丸出しの移民の子、アフリカからきたばかりの少女やジェンダーに悩むサッカー小僧……。まるで世界の縮図のようなこの学校では、いろいろあって当たり前、でも、みんなぼくの大切な友だちなんだ――。優等生のぼくとパンクな母ちゃんは、ともに考え、ともに悩み、毎日を乗り越えていく。最後はホロリと涙のこぼれる感動のリアルストーリー。 イギリスでの子育て随筆。本場の日本人差別はどんなものかな?と期待して読んだが、チンク呼び程度で

夜中に読んではいけない飯テロ本『海と山のオムレツ』カルミネ・アバーテ(著)関口英子(訳)

生唾なしには読めない! 美味しい食を分かち合うことの歓び。食べることはその土地と生きてゆくこと。舌を燃やし、思い出を焼きつくすほど辛い唐辛子、庶民のキャビアと呼ばれるサルデッラに腸詰サラミのンドゥイヤ……。南イタリア、カラブリア州出身の作家が、アルバレシュという特殊な言語と食文化を守ってきた郷土の絶品料理と、人生の節目における家族の記憶とを綴る自伝的短篇集。 寝る前に読んでしまい腹の音が止まらない。第1話『海と山のオムレツ』がいきなり最高で、具だくさんのオムレツを挟んだパン

『面白いとは何か?面白く生きるには?』森博嗣(著)

本書では、「面白さ」が何なのか、どうやって生まれるのか、というメカニズムを考察し、それを作り出そうとしている人たちのヒントになることを目的として、大事なことや、そちらへ行かないようにという注意点を述べようと思う。 同時に、「面白さ」を知ること、生み出すことが、すなわち「生きる」ことの価値だという観点から、「面白い人生」についても、できるだけヒントになるような知見を、後半で言及したい。 ――「はじめに」より タイトル通りのことが滔々と語られる。もやっとした概念を綺麗に言語化す

『翻訳地獄へようこそ』宮脇孝雄(著)

『死の蔵書』や『異邦人たちの慰め』など、エンターテインメントから文学まで多様な作品を訳してきた宮脇孝雄が、数多くの翻訳実例も引用しつつ、翻訳のやり方を実践的に紹介。読めば読むほど翻訳者の苦悩と翻訳の奥深さがじわじわ伝わってくる一冊です。悩める翻訳者と海外文学ファン必読。地獄で仏の実践翻訳ゼミナール。 作者が翻訳本を読んでいて見つけた誤訳を解説するエッセイ集。ミシュランマンスーツの誤訳(着ぶくれしてミシュランマンみたいになってる人を、ミシュランのスーツを着た人と訳した)は笑え