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『カラハリが呼んでいる』マーク・オーエンズ,ディーリア・オーエンズ(著)小野さやか,伊藤紀子(訳)伊藤政顕(監修)

『ザリガニの鳴くところ』著者が聞いた大地の息遣い もうひとつの全米ベストセラー!若き日のディーリア・オーエンズと夫が、美しく過酷なカラハリの自然と暮らした研究の日々を綴る、ネイチャー・ライティングの傑作。

ザリガニの鳴くところ』が良かったので新作小説も読んでみよう、と手に取るが新作でも小説でもなく、若い頃、動物学者時代のボツワナ滞在フィールドワークドキュメンタリーエッセイであった。やられたと思いつつ読むと、驚くほど面白い。若い二人の無謀っぷり、砂漠の過酷さ、ライオンやハイエナなどと寝食をともにする距離感に驚きっぱなし。

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極力人間の手の入ってない自然を調査するため、鉱山で働いて金をため、家財道具や車も売っぱらってアフリカへ調査へ向かう若い夫婦の行動力が恐ろしい。とりあえず行こう、というノリ。調査地も向こうで決めるし、頑張ってたらどこかから補助金がでるだろう、という超見切り発車。

カラハリ砂漠を調査対象にした後も、テントもなしに車に寝泊まり、便利道具もなにもないので、目視で動物を尾行し生体をしらべるも、だだっ広い砂漠(人里まで片道3日)なので当然無理が出てくる。中古のローバーは故障しまくるし、野火に焼かれるし、拾ったドラム缶は水を全部漏らしたりして、よく生きてるなの連続。とある奇跡の出会いで助かるのだが、話を盛ってないとすると、本当に休止に一生でヒヤヒヤした。

なので序盤の調査はかなりスローペース。ライオンやハイエナをちょくちょく見失うので、生態の一片しかわからない。それでも他所(雨が十分降る所)と生態が結構違って面白い。後半、調査が認められてゆき、装備が充実してくると全貌がわかってきて、二重にカタルシスがある。野生動物たちの逞しさに感動した。

終盤は生態のお話だけでなく、動物・環境保護の話にもなってくる。保護区のあるボツニアはわりと力を入れているのだが完璧ではない。砂漠でウランの鉱脈を探していたり、口蹄疫防止の柵が砂漠を横断してヌーたちの水場への道を塞いでいたり(それで何万頭も死ぬ)、保護区の外ではハンターが動物を狩り放題だったり、密猟者は保護区の中でも平然と狩りをする。
それらに関する提言もまとめられているが、それらがどうなったのか、現在ではどうなのか、といった事が解説にあまり書かれていないのは残念。

※ 解説は超ネタバレなので事前に読まないように。でも巻末にディセプション・バレーの地図があるよ。

とはいえ、単純に生態調査のお話だけでも、読み物として十二分に面白い。
全く雨の降らない乾季(さらに現地人が狩りのために火を付け植物が全て燃える)の凄まじさ(動物たちは半年以上水が飲めない。獲物の水分だけで生きる。旱魃だとそれが数年にも及ぶ! 雨季もドラム缶が吹っ飛ぶほどの嵐!)、他所では群れないハイエナがカラハリでは群れを作る理由、ボーンズ(二人が骨折手術をしたライオン)の一生については予想を超えたドラマであった。

ちなみに、本筋に関係ない話も色々笑えて良い。
二人が普段何食べてるのか、現地で雇った助手の顛末とか、ボツワナに牧場作ってるのがイギリスだとか(お前らどんだけ牛肉好きなんだよ。アイルランドで足りないのかよ)、こんな艱難辛苦の冒険をともにした夫婦でも離婚するのかとか、調査対象に影響を与えないため、キャンプ地では下草も刈らないくせに、小動物や鳥には餌付けしていたりとか、別の意味でも楽しめた。

#読書感想 #読了 #ネタバレ #海外小説 #エッセイ


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