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2020年3月の記事一覧

『おむすびの転がる町』panpanya(著)

「楽園」からの6冊目のpanpanya作品集。表題シリーズはじめ「筑波山観光不案内」全5本計55p、「坩堝」「ツチノコ発見せり」「新しい土地」等、著者ならではの描写が輝く16篇。日記も併収。 今作も動物もの、旅行もの、エッセイもの、自由研究ものが味わえ大満足。特に好きなのは『筑波山観光不案内』。個人的に panpanya 史上一番好き。 以下いくつかピックアップ。 筑波山観光不案内 筑波の景色が面白すぎるし、虚実入り混じった蘊蓄が楽しすぎる。エレベーターとケーブルカーの

『皆勤の徒』酉島伝法(著)

百メートルの巨大な鉄柱が支える小さな甲板の上に、“会社”は建っていた。語り手はそこで日々、異様な有機生命体を素材に商品を手作りする。雇用主である社長は“人間”と呼ばれる不定形の大型生物だ。甲板上と、それを取り巻く泥土の海だけが語り手の世界であり、そして日々の勤めは平穏ではない―第二回創元SF短編賞受賞の表題作にはじまる全四編。連作を経るうちに、驚くべき遠未来世界が読者の前に立ち現れる。現代SFの到達点にして、世界水準の傑作。 『宿借りの星』がドストライクだったので、これも読

『魔術師ペンリック』ロイス・マクマスター・ビジョルド(著)

ペンリック19歳、婚約式のために町へ行く途中、病で倒れている老女の最期を看取ったのが、すべての始まりだった。亡くなった神殿魔術師の老女に宿っていた魔が、彼に飛び移ってしまったのだ。おかげでペンリックは、年古りた魔を自分の内に棲まわせる羽目に。ペンリックは魔を制御すべく訓練をはじめるのだが…。ヒューゴー賞シリーズ部門受賞の“五神教シリーズ”最新作登場。 キャラが魅力的なファンタジーサスペンス。中篇3つが納められた、結構なボリュームの一冊。 色々事件が起こるが、陰鬱ではなく、

『ずっとお城で暮らしてる』シャーリイ・ジャクスン(著)

あたしはメアリ・キャサリン・ブラックウッド。姉のコンスタンスといっしょに、他の家族が皆殺しにされたこの屋敷で、ずっと暮らしている……。惨劇の起きた資産家一族の生き残り。村人から忌み嫌われ、外界との交流も最低限に止める彼女たちは、独自のルールを定めて静かな生活を送っていた。しかし従兄チャールズの来訪をきっかけに、美しく病んだ箱庭世界は大きな変化をむかえる。“魔女”と称された異色作家が、超自然的要素を排し、無垢な少女の視点から人間心理に潜む悪意が引き起こす恐怖を描く代表作。 な

『息吹』テッド・チャン(著)

「あなたの人生の物語」を映画化した「メッセージ」で、世界的にブレイクしたテッド・チャン。第一短篇集『あなたの人生の物語』から17年ぶりの刊行となる最新作品集。人間がひとりも出てこない世界、その世界の秘密を探求する科学者の、驚異の物語を描く表題作「息吹」(ヒューゴー賞、ローカス賞、英国SF協会賞、SFマガジン読者賞受賞)、『千夜一夜物語』の枠組みを使い、科学的にあり得るタイムトラベルを描いた「商人と錬金術師の門」(ヒューゴー賞、ネビュラ賞、星雲賞受賞)、「ソフトウェア・オブジェ

『時間衝突』バリントン・J.ベイリー(著)

異星人との戦争で過去の遺産がことごとく失われた地球。異星人が遺した遺跡を調べていた考古学者たちのもとに、驚くべき資料が届けられた。300年前に撮られた一枚の写真に、現在よりはるかに古びた遺跡の姿が写っているのだ。遺跡は年とともに新しくなっているというのか?彼らは異星人の技術を用いてタイムマシンを開発し、過去へと旅立つ。アイデア派の鬼才が放つ究極の時間SF。 時間の流れは宇宙全体を覆うものではなく局所的なもので、さらには一方向でもない。なので運が悪いと正面衝突する。というアイ

『SF飯』銅大(著)

時は人類を過保護すぎるほど守ろうとした機械知性“太母”が“涅槃”へと旅立ったあとの時代。中央星域の大商家の若旦那マルスは、人柄はよいもののだまされやすく、勘当されて辺境の宇宙港へと流れてきた。行き倒れた若旦那を救ったのは、祖父の食堂“このみ屋”を再開させようとがんばる少女コノミ。ふたりは食材の不足、単調なメニュー、サイボーグや異星人という奇天烈な客にめげず、創意工夫でお腹と心を満たしていく! タイトルに惹かれ手に取る。21エモン的ファンタジーSFで結構面白かった。しかしタイ

『天冥の標VII 新世界ハーブC』小川一水(著)

“救世群”が太陽系全域へと撤いた冥王斑原種により、人類社会は死滅しようとしていた。シェパード号によって“救世群”のもとから逃れたアイネイア・セアキは、辿りついた恒星船ジニ号でミゲラ・マーガスと再会する。しかし混乱する状況のなかジニ号は小惑星セレスに墜落、かろうじて生き残ったアイネイアとミゲラは、他の生存者を求めてセレス・シティへと通信を送るのだったが―さらなる絶望を描くシリーズ第7巻。 お話は前巻の直後から始まり、引き続き地獄なのだが、地下に巨大シェルターが発見され、そこで

『世界史を大きく動かした植物』稲垣栄洋(著)

一粒の小麦から文明が生まれ、茶の魔力がアヘン戦争を起こした――。人類は植物を栽培することによって農耕をはじめ、その技術は文明を生みだした。作物の栽培は、食糧と富を生み出し、やがては国を生み出した。人々は富を奪い合って争い合い、戦争の引き金にもなった。歴史は、人々の営みによって紡がれてきたが、その営みに植物は欠くことができない。人類の歴史の影には、常に植物の存在があったのだ(本書の「はじめに」より)。 1ページで3回は「へぇ~」と唸る素晴らしい蘊蓄本。 堅苦しい本かと思いき

『宿借りの星』酉島伝法(著)

その惑星では、かつて人間を滅ぼした異形の殺戮生物たちが、縄張りのような国を築いて暮らしていた。罪を犯して祖国を追われたマガンダラは、放浪の末に辿り着いた土地で、滅んだはずの“人間”たちによる壮大かつ恐ろしい企みを知る。それは惑星の運命を揺るがしかねないものだった。危機に立ち向かうため、マガンダラは異種族の道連れとともに、戻ったら即処刑と言い渡されている祖国への潜入を試みる――。『皆勤の徒』の著者、待望の初長編。 解説=円城塔 ついに読み終わってしまった。あまりに楽しいので毎

『天冥の標 Ⅵ 宿怨 PART1~3』小川一水(著)

西暦2499年、人工宇宙島群スカイシー3で遭難した《救世群》の少女イサリは、《非染者》の少年アイネイアに助けられた。二人は、氷雪のシリンダー世界を脱出するた めの冒険行に出発するが――。 一方、太陽系世界を支配するロイズ非分極保険社団傘下の、MHD社筆頭執行責任者ジェズベルは、近年、反体制活動を活発化させる《救世群》に対し、根本的な方針変更を決断しようとしていた。 大いなる転換点を迎える第6巻 イサリと石工のルーツのお話。 救世群が一線を超えてしまい、全面戦争に突入してし