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『皆勤の徒』酉島伝法(著)

百メートルの巨大な鉄柱が支える小さな甲板の上に、“会社”は建っていた。語り手はそこで日々、異様な有機生命体を素材に商品を手作りする。雇用主である社長は“人間”と呼ばれる不定形の大型生物だ。甲板上と、それを取り巻く泥土の海だけが語り手の世界であり、そして日々の勤めは平穏ではない―第二回創元SF短編賞受賞の表題作にはじまる全四編。連作を経るうちに、驚くべき遠未来世界が読者の前に立ち現れる。現代SFの到達点にして、世界水準の傑作。

宿借りの星』がドストライクだったので、これも読んでみたが、これも素晴らしいの一言に尽きる。中編集だが、どれもめちゃくちゃ良い。独自だが、なんとなくイメージできる不思議な造語で、遥か未来の人間たちの様子が描かれ、その世界がひたすら魅惑的。

一番好きなのは書下ろしの『泥海の浮き城』。ハードボイルド探偵モノとして普通に面白い。異形だけど。『洞の街』と混ぜて発酵させると、『宿借りの星』になるかんじ。

大森望が後書で、この世界をわかりやすく解説しているのだが、ARだとかナノマシンだとか、普通の言葉に置き換えられると、途端に魅力が無くなってしまう。わかりやすいが実に野暮であった。わかならい方がましかも、と思える。なので、この人の本は、どういう内容かを説明しても野暮にしかならず、とにかく読んでくれ、と言わざるを得ない。内容もあいまって実に他人に勧めづらい(笑)

ちなみに、他作がないか調べていて知ったが、『BLAME! THE ANTHOLOGY』にも寄稿していた。既読だが、造語や雰囲気など、特徴ゼロだったので、この本の作者だと全くむすびつかなかった。
なので、皆勤の徒や宿借りの星が好きな人が、このアンソロジーを読むとがっかりしてしまう事必至。
とはいえ、小川一水や飛浩隆など、異常に豪華なメンツが寄稿してるので、BLAMEファン兼SFファンは必読だよ。

皆勤の徒

遠い未来の社畜のお話。製臓業という生業がすさまじい。社長も怖すぎる。SAN値がガリガリ下がる。ビジュアルもさることながら、平気で従業員を使いつぶす様が恐怖。こんな未来嫌だ、と思いつつもページをめくる手が止まらない。

洞(うつお)の街

月面で暮らす人々のお話。しかし当然異形のお話。さらに、月といっても、コロニーや地下都市ではなく、何でも飲み込む肉の底なし沼のような穴の淵に、崖を廻るように家々を立てており、空からは異形の生物が降ってくる世界。そんな世界で甘酸っぱい青春ものっぽくお話が始まるので、ギャップでにやけてしまう。

泥海(なずみ)の浮き城

泥の海で浮き沈みする巨大生物を住処とする虫型異形達のお話。巨大生物は城と呼ばれるほど大きく、虫たちからすると大都市にしか見えない。そんな街で主人公は事件を調査してゆく。
3篇目なので、異形にもだいぶ慣れ、普通のハードボイルド探偵モノに思えてくるので面白い。キャラ達は人間味に溢れながら、それでも異形なので、特異な社会が身近に楽しめる。一粒で二度おいしい感じ。
さらにギャグも豊富。ヅラネタが最高だった。
こういう作品がアニメ化されると嬉しいなぁ。

百々似(ももんじ)隊商

ナノマシン大災害後の世界のお話。一連のの世界について、なにがあったかなんとなくわかる。とはいえ、説明だけの話ではなく、主人公がなんなのか、最後は何を言ったのかなど、想像が止まらない。トリにふさわしい余韻。

#読書感想 #読了 #ネタバレ #SF #酉島伝法

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