第十五章 何かの間違い!⑤
いつの間に冬が来たのか気付かなかったが、もう外は結構寒い。
夜ともなると、ストーブが恋しくなる。
そんな時の、珀ちゃんの温もりはありがたかった。
やはり、どんな暖房器具も人の体温の温もりには適わない。
毎日、元気よく登校する。
「千尋、今日オレ補習受けなきゃだから先帰ってて」
「分かったあ」
もうすぐ、テスト週間だものね。
一応、今のところ、よっしいのノートを借りる気満々なので、まだ焦ってはいない。
帰り道。
ある人に、ばったり逢った。
「香夏子さん?」
「あ……こんにちは、千尋ちゃん。今、帰り?」
「はい。て、もしかして……」
香夏子さんのお腹は、大きい。
明らかに、妊婦さんだ……。
「そう言えば、結婚決まってるんでしたっけ?できちゃった婚ですか?素敵!おめでとうございます!」
「ありがとう……今、定期健診の帰りなの」
「へえ!じゃあ、結婚早まったんですか?」
「いや……とりあえず、籍入れるだけかな。式は、挙げられなくなっちゃった」
「そうなんですか。でも、こういう理由なら、それはそれで幸せですね。赤ちゃん産まれたら、ぜひ逢わせてください!赤ちゃん、大好きですから!」
「……ええ、そうね。もう少し先の話だけれど……」
「家まで一人で帰れます?送りましょうか?」
「ううん、いいの。大丈夫。千尋ちゃん、優しいのね。珀があなたを選んだ気持ち、分かる気がする」
「えっ?何をそんな……珀ちゃんったら、今日は補習受けてるんですよ?もっと真面目に勉強しなくちゃですよねえ。人の事言えないけど。じゃ、また!本当に転ばないように気をつけて!」
へえー……。
香夏子さん、妊娠したのか!
すごい!
妊婦さんと話すのなんて、産まれて初めてだっ!
ふふ、これで珀ちゃんももう香夏子さんの部屋には、二度と行けないわね。
ライバル減って、安心したあ。
いいなあ、香夏子さん。
幸せそう……。
夕飯の食卓にて。
「あ、ねえ。今日ね、香夏子さんに逢ったの」
二人の動きが、一瞬止まった。
「え、何で?どこで?」
「道歩いてたらばったり。てか、香夏子さん、妊娠してたんじゃあん!珀ちゃんってば、何も話してくれないんだから!いいなあ、香夏子さん!チョー幸せそうだったよ!定期健診の帰りだったんだって」
「へえ、そう……」
よっしいは何も言わず、黙々とご飯を食べ続けている。
「……何よ?やっぱり、いくら何でもショックなの?自分と関係あった人が結婚とか妊娠したーとかって……」
「そんなんじゃないよ」
「そう?けど、うらやまー!あたしも早く子ども、欲しくなっちゃった……て、まだいくら何でも早過ぎるかあ……珀ちゃん、結婚したら子ども何人欲しい?」
「オレ?オレは……分からない」
「何よ、それ。つまんないの!千尋の思うようにしたらいいとか、言ってくれないのー?」
「千尋の思うようにしたらいいよ」
「……同じセリフ言われても、嬉しくない。よっしいは?何人欲しい?」
「オレは……一人くらいでいいんじゃない?」
「自分も一人っ子だから、一人は嫌だなあ……つまらないじゃない。あたし、たくさん欲しいな♪珀ちゃんに似てる子ども、たくさん♪」
「……なんか、全然腹空かない。ちょっと散歩してくる」
「え、珀ちゃん?なんか怒っちゃった?」
「違うよ」
珀ちゃんは、あたしのおでこに優しくキスをして、出て行った。
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