第十五章 何かの間違い!①
「珀ちゃんってば、香夏子さんとずっと浮気しまくってたのね。それを思うと、やっぱりすこーしむかつくわ……」
「しょうがないだろ。千尋がオレを振るのが悪い」
「だって……にしても、その瞬間他の女に走るのもどうかと思うけど」
「行くところがなかったんだから、今更何言われてもごめんとしか言えないよ。千尋、ごめんな。機嫌直せよ」
食卓にて。
「あのさあ……オレのせいだから、何も言える立場にないけど。せっかく、また元に戻れたんだから、無駄な喧嘩で労力使うなよ」
「分かってる!けど、よっしいには言われたくないもん」
「だよな……いや、そうなんだけどさ」
「オレが猛と舞ちゃんの事、千尋に言わなかった責任もあるんだよ。オレがちゃんと話してれば……」
「もう、堂々巡りになるからその話はいいって」
うーん……キリがない。
終わりよければ、全て良しってか?
まあ、香夏子さんとの事は水に流そう……。
香夏子さんは、きっといい人だと思うから。
「オレ、風呂入ってくるわー」
よっしいが、洗面所へ入っていった。
「おし、千尋おいで」
珀ちゃんが、いつかのようにあたしをお姫様抱っこした。
寝室。
「久しぶりだな、珀ちゃんと二人きりでの寝室」
「千尋、大音量で想い出の曲、聴いてたんだって?」
「あー!よっしいってば、余計な事を……」
「千尋ー……本当に、千尋の気持ち疑ってごめん。愛してるよ」
「あたしも。珀ちゃんが大好きなの。珀ちゃん、もう他の女のところへは行かないでね」
「それはオレのセリフ!もう、にゃんちとは顔も合わせないで」
また、ラブラブになったあたし達。
もう、障害なんてないよね……?
「オレ、ちょっと猛と話してくるわ」
「え?うん、分かった。先寝ちゃうよ?」
「うん、おやすみ」
おやすみのチュー。
寝室を出る前に、部屋の灯りを消して、間接照明をつけていった珀ちゃん。
――「猛」
「珀も風呂入って来いよ。千尋は、もう寝たの?」
「うん、寝た」
「つうか、何ビールなんか飲んでんだよ。オレの前で飲むなっつうの」
「色々あったな」
「ん?うん。千尋が、オレの恋の為に自分の気持ちを抑え込んでまでって……正直思ってなかったから、結構感動した。あいつ、本当に成長したな。もう、オレらなしでも立派にやっていけるんじゃない?」
「ああ、それもそうだけど。あのさ、オレ、ずっと言ってなかった事があるんだよな。千尋には当然、猛にですら……」
「……今度は何だよ」
「オレ、香夏子妊娠させちゃった」
「……はっ?!」
「香夏子はさ、来年の春に結婚すんの。もう婚約までしてて。オレとは、割り切って遊んでくれてたんだけど……やらかした」
「お前……同じ男として言うけど、最低な男だな」
「分かってる。マジで最低だ。香夏子は、堕ろすべきだって言ってる」
「……それでいいのか?」
「ところが、だよ。こっからが本題なんだけど……その相手の、婚約者にばれた」
「……で?」
「婚約破棄。結婚話はお流れ。学校しばらく休んでたのも、それ色々あったから」
「て事は、妊娠させちゃったのは、お前が千尋と付き合う前?」
「当然。香夏子はオレの事好きだって。けど、高校生の子どもは産めないって。結婚もできない歳の人の子どもは産めない。オレ、マジバカだから、どうしていいか全く分かんない。どうしよ」
「お前ってヤツは……」
猛は黙って立ち上がり、寝室の襖をそっと開けた。
千尋が、ちゃんと眠っているかを確認しているようだった。
そして座り直し、
「オレにもビール飲まして」
そう言うのだった。
「ああ」
グラスに、ビールを注いでやる。
「……お前も、香夏子さんが好きなの?千尋より?」
「まさか。千尋を裏切りたくないし、傷つけたくない。けど、香夏子は身体も傷つくし、オレが結婚ぶち壊した。責任取らなきゃいけないって気持ちもある」
「オレ的には……千尋を泣かしたら、お前殺すって感じだけど……香夏子さんって人の事考えると……けど、やっぱり、今のお前にはまだ無理だよ。例えそっちを選んだとしても、経済力も何もない、婚姻届にも判を押せないガキなんだ。香夏子さんの力になってあげる事はできないよ。手術を受けて……精神的に助けになってあげろよ」
「……そうだな。うん、それがいい。やっぱり、猛は頼りになるよ」
「お前さ、マジでいい加減にしろよ?例え、それが千尋と付き合う前だったにしろ……千尋の泣き顔を見たいのか?」
「……千尋には言うなよ?」
「バカか。口が裂けても言えるかよ」
「正直、千尋と別れたってなってたから……悩んでたんだ。オレにも、本当にどうしていいか分かんなかったから」
オレ達は、朝までビールを飲み続けた。
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