ネットには載っていない"本当に大事な情報"を求めて。海士町という、可能性の地で【No Fish No Life活動日誌 vol.7】
こんにちは!
未利用魚加工事業「No Fish No Life」のメンバーの乙川 翔太郎です。
私たち「使われないをなくす。〜自分たちで獲った資源への責任を持つ〜」というビジョンを掲げて未利用魚の加工事業に取り組んでおります。
今週は、定置網漁がメンテナンス中で漁が行えなかったため、加工作業は行いませんでした。その代わりに、以下の2点について情報収集を行い、今後の私たちの軸を決めることに多くの時間を使いました。
なぜ私たちはこの事業を行う必要があるのか
この事業を通して誰のどんな課題を解決したいのか
情報収集を進める中で新たな発見もありましたので、ぜひ共有させていただきます。
今週の活動もぜひご覧ください!
楽しんでお読みいただければ幸いです!
①現場の声から見えてきた、私たちの使命
「未利用魚を使った事業って、なぜ今必要なんだろう?」
この素朴な疑問を胸に、私たちは海士町の定置網漁を担う大敷(おおしき)の漁労長、大窪さんを訪ねました。その対話から見えてきたのは、私たちが向き合うべき本質的な課題でした。
漁業現場が抱える課題
日本の漁業現場では、毎日たくさんの魚が水揚げされています。でも実は、その約3割もの魚が十分に活用されないまま廃棄されています。
これは単なる「もったいない」という話ではありません。
私たちも実際にその光景を目の当たりにして衝撃を受けました。
私たちの豊かな食文化を支えてきた漁業。命がけで魚を獲る漁師さんたち。その努力と情熱が正当に評価されず、資源も活かしきれていない。この現状は、日本の水産業の未来そのものを危うくしている可能性があります。
未利用魚が秘めている可能性
未利用魚の活用に真剣に向き合うことで、色々な可能性が開けてきます。
漁業者の方々の努力に見合う対価を実現することで、持続可能な漁業の形を示せるかもしれない。食品ロスを減らしながら、新しい食文化を創造できるかもしれない。そして何より、日本の水産業に新しい未来を示せるかもしれない。
未利用魚の活用は、ただ一つの産業を守るという以上の意味があると考えています。私たちの食文化を次世代に継承し、健康的な生活基盤を守ることにもつながっていくと思います。
海士町という、可能性の地で
そんな中、大窪さんとの対話が、私たちの視野を大きく広げてくれました。
「離島の漁業は、単純に『獲れた魚を売る』だけでは立ち行かないんです」
本土との利益差が2,000-3,000万円にも及ぶ海士町。その最大の要因が「輸送コスト」という構造的な問題でした。
さらに大窪さんは、海士町の現状を一本の木に例えて教えてくれました。
「今の海士町には『根っこ』である一次産業と、『枝葉』である観光や飲食などの三次産業はある。でも、それらをつなぐ『幹』となる加工などの二次産業が足りていない」
その「幹」の部分を育てることで、地域全体の経済循環がより活性化できる可能性が隠れているといいます。
海士町と共に歩む未来へ
この話を聞いて、私たちは確信しました。
未利用魚の活用を通じて実現したいこと。それは海士町が抱える課題と、深く重なり合っているんだと。
イワシなどの魚が大量に水揚げされても十分に活用できていない現状。一方で、地域の飲食店や家庭では必要な魚が手に入りにくい状況。この需給のミスマッチを解消することは、未利用魚活用の理想的なモデルケースになるかもしれません。
私たちは、単に「儲かる」ことだけを追求するのではありません。海士町という地域に根差し、そこに暮らす人々と共に、持続可能な未来を築いていきたいと考えています。
確かにSDGsや環境配慮は重要なキーワードです。でも、それ以上に大切なのは、地域の人々の暮らしを支えながら、次世代に魚食文化を継承していくことだと思っています。
②消費者が抱える「本当の課題」から見えた可能性
大窪さんと話をさせていただいたことで、私たちが「なぜ海士町で加工事業を行うのか」という理由が明確になってきました。しかし、ここである重要なことを思い出しました。
それは以前、海士町アンバサダーの方からいただいた言葉です。
「未利用魚の活用は素晴らしい取り組み。でも、それだけを考えていては、作り手の自己満足で終わってしまう。」
はっとさせられる指摘でした。
確かに、漁業における課題解決は重要です。しかし、それだけでは事業として成り立ちません。事業として本当に成功させるためには、もっと本質的な問いに向き合う必要があると考えています。
誰にどんな価値を届けたいのか?
消費者が抱える本当の課題は何なのか?
その答えを探すため、私たちは実際に現場の声を聞きに行くことにしました。
パーソナルトレーナーが語る、現代人の「見えない課題」
そこで訪ねたのが、都内でパーソナルジムのトレーナーとして活躍するHさん。彼との対話は、私たちの視野を大きく広げてくれました。
「実は、多くの人が気づいていない大きな課題があるんです。」
それは、私たちの「脂質」に対する誤解でした。
「『脂質を減らせば健康になる』。この考え方自体が間違っているんです。人は1日30-45gの脂質摂取が推奨されています。なぜなら、脂質はホルモンの材料として不可欠だから」
Hさんの言葉は、私たちの常識を覆すものでした。
見落とされている「脂質不足」という危機
Hさんによると、適切な脂質摂取ができないと、思いもよらない問題が起きる可能性があるといいます。
魚由来の脂質が秘める可能性
「その中でも、特に魚由来の脂質が理想的なんです」
その理由は、オメガ3脂肪酸(EPA・DHA)の存在。これには以下のような驚くべき効果があるとのこと。
消費者が抱える「現実の壁」
しかし、ここで大きな壁に突き当たります。
「理想は分かっていても、実践が難しいんです。良質な魚は高価。脂質とタンパク質のバランスが悪いものが多い。調理も手間がかかる。結局、価格、タンパク質、脂質、手軽さ、この全てを満たす商品が見つからない」「僕のお客さんにも魚からの脂質摂取を勧めたいのに、おすすめできる商品がほぼないんです。」
Hさんが直面している課題
未利用魚が解決する「負」
この対話から、私たちは新しい可能性に気づきました。
未利用魚を活用した「魚由来の脂質を手軽に摂取できる」商品。これは、実は想像以上に幅広いニーズに応えられる可能性を秘めているのではないかということです。
日々の栄養を気にしているトレーニーの他にも、健康や美容を意識している方々にとっても、肌のツヤやコンディションに深く関わるこれらの栄養素を、手軽に毎日の食事に取り入れられる可能性があります。
また、忙しい現代人の食卓にも、魚を食べたいけれど調理が大変、でも健康は気になる。そんな課題に対して、手軽で栄養価の高い選択肢を提供できるかもしれません。
さらに、給食や病院食、社員食堂といった大量調理の現場でも、未利用魚は大きな可能性を秘めており、コストを抑えながら栄養価の高いメニューを提供することができます。そのことにより、多くの人々の健康的な食生活を支えることにつながるはずです。
「良質な脂質を手頃な価格でお手軽に」
このシンプルな価値提案は、実は多くの人が抱える「負」を解決できるかもしれません。そして何より、これは単なる商品開発にとどまらない可能性を秘めています。人々の健康的な生活を支えながら、未利用魚という資源を活かし切る。そんな未来への一歩を、私たちは目指していきたいと考えています。
③見えてきた、これからの道筋
深めるべき「課題」の本質
消費者が抱える課題の一端は見えてきました。しかし、まだ本当の意味での「明確な負」は特定できていません。
トレーニーの方々にとっての一番の負は何か
美容を気にする女性にとってこの商品は必要不可欠になり得るのか
子育てをしている親にとって困っていることは何か
まだまだ、聞くべき声がたくさんあります。これからも様々な人の声に耳を傾け、消費者の「明確な負」をより具体的に特定していきます。
誰のどんな負を解決したいのか?
この問いに関しては、妥協せず探り続けます。
ビジネスが持つ本当の意味
今回の調査で改めて実感したのは、ビジネスとは単なる「お金を稼ぐ」ためのものではないということです。「誰かの課題を解決する」活動であり、その解決の対価としてお金が発生するのだと気づきました。
ビジネスは「儲ける」ためでなく「誰かの課題を解決する」ものであるという認識を今後も忘れずに取り組みます。
見えてきた、二つの軸
「プロダクトである未利用魚」と「消費者が抱える負」。この二つの視点を一本の軸で解決できることこそが本当の意味での社会貢献なのではないか、と感じています。
そして、この事業が海士町からも真に応援されるためには、「この事業が実現する未来が、海士町にどう役立つのか?」という視点が欠かせません。地域との関わりを大切にしながら、活動を続けていきたいと思います。
これからの展開に向けて
以前アンバサダーの水谷さんからいただいた言葉が今も心に響きます。
「本当に大事な情報はネットには載っていない」
確かに、今回の調査でも、ネットだけでは解決できない「わからない部分」が次々と浮かび上がってきました。これからも「足を動かし続ける」という姿勢を大切に、多くの方を巻き込みながら活動を進めていきたいと思います。
これからも【No Fish No Life】の応援、よろしくお願いします!