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#21.数値化すれば、売れない理由はわかる

今回は、具体的な3C-Competitor/Company同時分析方法の解説です。前回前々回、あるいはできたら#16ぐらいから読み返されるといいと思います。ボクも#16から読み返して書いてますw

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本noteは、ポートフォリオワーカー*になった、外資系IT企業マーケティングマネジャーによる、『初めてマーケティングを学ぶキミに伝える マーケティングフレームワーク活用講座』の連載企画です。

*「ポートフォリオワーカーって何?」は、こちらを参照下さい。自己紹介とともに説明しています。

前回はこちら、最初から読まれる場合はこちらからどうぞ。
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#21. 具体的な3C-Competitor/Company同時分析方法

前回のnoteで、なぜCompetitor分析とCompany分析を同時に実施するのか、理由を説明しました。端的に言ってしまうと、同じ尺度、基準で比較検討するためです。通常の3C分析のやり方、Customer→Competitor→Companyと順に行っていくやり方では、違う尺度、基準で分析を行うことになり、帰納法的アプローチではない、そのため分析になりえない、というのが理由でした。

では、同じ尺度、基準とは何でしょうか?
ボクのやり方「マーケティング・フレームワーク・フロー(MFF)」では、CVC(カスタマイズド・バリュー・チェーン」がこれにあたります。

#18で作成したCVCを再度みてみましょう。[ノートPC購入/PCスキルが高いビジネスマン]セグメントの3C Customer分析結果です。この結果では、Customer(顧客)にとっての、「重要度/重み」も数値化しています。顧客が重要視していない要素VCにいくらフォーカスしても意味がないためです。

意味のない努力、リソース(資金、時間、人的リソース)を注力するのは時間の無駄です。それに気づくための指標になります。

3C Customer分析結果(ノートPC購入/PCスキルが高いビジネスマン)

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同様に、#19では、「B2Bオフィス向けIT製品(数百万円程度)」のCVCを作成しました。ノートPCと比較してみると、一目瞭然。同じCVCフレームワークを使っていますが、「重要度/重み」が全く異なっています。

3C Customer分析結果(B2Bオフィス向けIT製品(数百万円程度))

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想定顧客ターゲットが異なるので当然です。その想定顧客のペルソナやニーズをイメージしながら、可能であればデータを拾いながら、無理なら複数名でディスカッションしながら、それも無理なら可能な限り主観的にならないように数値化を行います。

この後の、SWOT→STP→4Pも、この想定顧客の「重要度/重み」に合致するように設計するため、大変重要なベース情報になります。この「重要性/重み]が間違っていると、戦略/戦術、ひいては結果にまで影響を及ぼしかねません。こころして数値化を行いましょう。

#19では、機能一覧シートの重要性にも触れさせていただきました。3C Competitor/Company分析の一部分を、Customerの「スペック」の「重要度/重み」を理解するために、先行して行いました。これと同様の分析をCVC全体に対して実施するのが、3C-Competitor/Company同時分析になります。

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実際には、Customer分析で既に作成済のCVCにCompetitor/Company分析を追記するので、#20で示した、下記の概念図がまさにこの作業の全体像を表していると言えます。

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「スペック」以外の各CVCの調査/分析

Competitor情報の探し方

Company分析については、自社のことなので、CVCへの落とし込みは簡単にできると思います。慣れるまでは大変かもしれませんが、自社がどのように製品/サービスを提供しているか考える、ヒヤリングするだけなので、それほど難しくはありません。

問題はCompetitor(競合)の内容です。製品以外の各VCに対する競合の方針や実施内容については、なかなか情報は得られません。

こんなときの強い見方が、ネット検索!です。 当たり前ですね。

ただし、通常のネット検索ではありません。ひたすら、キーワードを変えて検索を繰す「根性ネット検索」です。サラリーマン業では1時間、2時間、下手すると3時間ぐらいは、ザラです。競合の情報をひたすらネット検索を行います。

サラリーマン業は、外資系IT企業勤務なので、競合も外資系企業がほとんどです。そのため、海外サイトの情報を得るために、英語でも、「これでどうだ!」と検索をしまくります。海外のIT系サイトで製品比較記事を見つけたときの喜びといったら、筆舌に尽くしがたいほどです。2時間、3時間作業が報われた思いになります。

とはいえ、「スペック」以外のCompetitorの情報はなかなか得るのは難しいのは事実です。競合の社長インタビューやプレス記事、口コミなど以外はあまりないのが現状です。

そこで次のアクションを取ります。有効な順番から、
1.顧客に直接教えてもらう
2.営業マンに教えてもらう
3.断片的な情報からフェルミ推定を行う
になります。

1.顧客に直接教えてもらう
ダメ元で、顧客に直接教えてもらいましょう。営業マン経由でお願いしてもいいと思います。検討した際の資料をこっそり見せてくれたりもします。その情報からヒントを得ます。

2.営業マンに教えてもらう
そんな顧客がいない場合は、顧客に対峙している営業マンに教えてもらうのが次にとるべき方法です。営業マンは、顧客に言われたCompetitorのことをプロダクトマネージャー以上に知っています。彼らから情報を吸い上げるべく、適切な質問を準備しましょう。

3.断片的な情報からフェルミ推定を行う
それでもダメな場合は、フェルミ推定です。
情報がないなかでのフェルミ推定はかなり辛いです。しかし、断片的な情報(ネット情報、顧客ヒヤリング、営業マンヒヤリング)をつなぎ合わせて、主観的にならないように推定していきます。

断片的な情報を得るためにも、Competitorの情報は根気よく探す必要があります。断片と断片をつなぎ合わせて、競合が行っている施策や戦略を少しは予想できるようになります。

B2Cカテゴリの製品/サービスは、結構多くの情報がネットに落ちているものなので、根気よく情報を探してみましょう。

こんな作業を行った想定の「ノートPC」と「ビジネスソフト」のCVCが以下になります。実際にはもっと細かく詳細な情報を入れることが多いのですが、雰囲気を掴んでいただければと思います。

ここでのポイントは量を書くことではなく、Competitor(競合)とCompany(自社)が行っている施策を忠実に書くことです。

ここで競合と自社で差があった場合、この差をどうするのか(競合と同様の方策を取るのか、はたまた独自路線を取るのか)が、この後の戦略立案に大きく関わってきます。このサンプルの情報でも競合優位性を確立しえる情報がそれなりに見えてくるはずです。

「仕入/コスト」については、Customer分析では空白でしたが、ここで調査/分析結果を記入します。最終的なバリューチェーン評価、利益が出せる事業として競争優位を確立できるかの判断指標になります。

「仕入/コスト」の「重要度/重み」についても事業の特性を見極め、他のVCの数値を見ながら、入力します。

ボク自身やったことがないので検討がつかないのですが、設備産業などは、この数値は、”5”とかではなく、"10"とか"20"が妥当なのかもしれません。全体CVCの中で「仕入/コスト」の重要度を考えて、数値化します。

(各CVCの解説は後ほど行います)

「ノートPC購入/PCスキルが高いビジネスマン向け:3C分析CVC」

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「2Bオフィス向けIT製品:3C分析CVC」

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CVCを数値化

各CVにコメントを入れることができたら、次は、このコメントを、自社を基準にしてスコアリング、つまり数値化します。数値化することにより、自社の何が勝っており、何が劣っているのかが明確になります。コメントのみを記入するよりも、差がより一層明確になります。

客観的データがある場合
コンシューマー製品/サービスの場合、明確に数値化できる場合もあります。「機能一覧シート」に示したように、機能の○✕表を自分で作成し、その各々の機能に妥当金額を設定します。販売提供価格がネット上にでているため、その機能の合計金額を販売価格にセットするイメージです。ただし、全部の機能をこのやり方でやってしまうと、膨大な時間がかかるので、実施するのは重要な機能だけで行います。

この機能はXX円、この機能はYY円として、ある場合にはプラス(+)、ない場合には加点しません。

すると、自社製品含め比較対象の価値価格比較ができあがります。販売価格50,000円前後の製品価格帯で、「販売価格=価格」と「価値価格=スペック価値」とした例を示しています。

販売価格/価値価格
A社:51,000円/48,000円
B社:50,000円/45,000円
C社:48,000円/55,000円
自社:50,000円/49,000円

この例では、価格帯は50,000円ぐらいでありながら、実際の販売価格の差には数1000円単位のばらつきがあります。一方、機能比較の○✕に基づく「価値価格」では、10,000円の差がでています。

C社のように、販売提供価格以上になってしまう製品/サービスもあるかもしれません。それはそのままでOkです。その製品/サービスが、お手頃価格で提供されている、大変お買い得な製品/サービス、と理解できたことになります。

「販売価格」と「スペック価格=価値価格」がわかったので、全体を基準に(あるいは自社を基準に)、5点評価でスコアリングを行います。

基準を全体にするのか、自社にするのかは、比較する対象数で判断すればいいと思います。この例では、サンプル数が4社あるので、全体を基準にしてますが、サンプルが自社と競合1社の場合は、自社を基準にスコアリングすればいいと思います。重要なのは、総得点数ではなく、同じ基準で自社と競合を比較することなので、そこらへんはあまりこだわる必要はありません。

全体を基準にスコアリングすると、こんな感じになるのではないでしょうか。

「価格」/「スペック」スコアリング
A社:51,000円→3 /48,000円→4
B社:50,000円→3/45,000円→3
C社:48,000円→4/55,000円→5
自社:50,000円→3/49,000円→4

これだけ見ると、C社が一番よさそうです。

では、C社が一番売れているかというと、そんなこともないのが現状です、一番売れているのは、一番「スペック=価値価格」が低いB社だったりします。

この理由は、ちゃんと説明ができます。

この比較はCVCの「価格」「スペック」だけを見ているからです。ポーター教授が言うように、製品/サービスの販売結果は、全体的なバリューチェーン(CV)の総和の結果です。そのため、「価格」「スペック」だけ優れていても、それを顧客が「それほど重要と考えていない場合」は、販売結果に結びつかないことは往々にしてあります。

このことは、CVCの全体分析が終了すると、より明確になるはずです。

顧客の重要度とマッチしており、総和としてのCVCが優れていれば、「価格」「スペック」が劣っていても、うまく販売できる道はあります。この点からも、適切なバリューチェン構築が必要となります。

ここは、とても重要なので、「ケーキ屋さん」を例にさらに説明したいと思います。

評判のケーキ屋さんなどがテレビで特集されることがたまにあります。ケーキはちょっとした贅沢品です。だからこそ、そこまで「価格」VCの「重要度/重み」は高くありません。「スペック」としてケーキのおいしさは重要ですが、好みや味覚の個人差もあり、”4"か"5"がついていれば、競合との差は重要でないかもしれません。

すると、ケーキ販売では何が重要なVCなのでしょうか? 

話題性やブランドなど目に見えない「プロモーション」VCの「重要度/重み」が高くなってくるのでは、と予想します。

例えば、「現在のSNSで女子高生に人気」といったコメントがされた場合、(ほんとかうそかはおいておいて)、”味”といった「スペック」よりも、”流行っている”といった「プロモーション」の「重要度/重み」が、特定顧客にとっては重要かもしれません。

その”ケーキ”を食べたというインスタをあげ、「いいね」をもらうのが、おいしさよりも、重要だったりするからです。また、流行りのケーキを食べる(食べた)という行為に満足する場合もあるでしょう。

このように、「価格」「スペック」VCのスコアにだけ目が向きがちですが、それ以外のVCの「重要度/重み」の方が、自社が提供する製品/サービスの想定顧客とって重要な場合が普通にあります。

VCの重要性は、人それぞれです。それだからこそ、その個人の集合体である「ペルソナ」を、想定顧客に置き、可能な限り、その「ペルソナ」の「重要度/重み」を理解しようと調査/分析を行います。

「価格」「スペック」以外の公開情報がない場合の他のVCのスコアリングの仕方については、「客観データがない場合」を参照下さい。何度も何度もしつこく言って耳にタコ状態だと思いますが、客観データが一番「正」であり、もっとも信頼すべきデータになります。

「ノートPC/PCスキルが高いビジネスマン向け」に行った3C分析(Customer, Competitor/Company)をもとにしたスコアリング例を下記に示します。

(CVCの解説は後ほど行います)

「ノートPC購入/PCスキルが高いビジネスマン向け:3C分析CVC+スコアリング」

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客観的データがない場合
全てのCVCのし終わったところで、頭の中では、自社と競合の各CVでの得点がイメージされていることでしょう。

「XX部分はウチの方がいいから、このCVはウチの方がポイント高いはず」「YY部分は競合のは市場受けいいよね、どうしてもウチは勝てないよな」

と、脳内ディスカッションをしながらも、「だから、ウチはX点で、競合はY点が妥当かな」など、イメージできると思います。

この得点記入作業は、悲観的でも、楽観的でもダメで、なるべく公平に判断する必要があります。顧客に見せるわけではないので正直に記入します。この現状分析が後ほど重要になってきます。

「客観的データがある場合」と比べると、あまり書くことがありません。マーケティングマネージャーとして、あるいは別のポジションであれ、なるべくフラットに、客観的にスコアリングするだけです。データが限られている以上、自分の経験や業界知識を総動員して、公正にスコアリングを行います。

出来上がったら、それを同僚に見てもらい、どう思うか意見をもらいます。そこで意見がまとまれば作業終了です。

「2Bオフィス向けIT製品:3C分析CVC+スコアリング」

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顧客の「重要度/重み」x 「スコア」で評価

顧客の「重要度/重み」が重要であるのは何度も述べてきたとおりです。その「重要度/重み」に対して、競合や自社はどのぐらい応えていることが出来ているのかを、「重要度/重み」を「スコア」で掛け合わせ、判断します。つまり、

「重要度/重み」x 「スコア」=「重み得点」

で計算します。それにより、VC毎に顧客の「重要度/重み」に、競合、自社がどれだけ対応できているかが判断できるようになります。

さらに、その各VCの「重み得点」を合計し、
✔顧客視点”からの「販売の強さ」:
「仕入/コスト」VC 
”事業としての強さ”をみる「利益」:「仕入/コスト」VC 含
を判断します。

すると、低い「重要度/重み」のVCに5点満点で対応するよりも、高い「重要度/重み」のVCに5点満点で対応する方が、より「販売の強さ」「利益」に影響することがわかると思います。

具体的に今まで見てきた「ノートPC」と「B2Bソフト」の結果を見てみましょう。

「ノートPC購入/PCスキルが高いビジネスマン向け:3C分析 重み得点」

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このケースの(想定)顧客は、PCスキルが高いため、「スペック」と「価格」が重要でした。そこで、「スペック」を「自社」「競合(レノボ)」「競合(国産PC」で比較してみると、同価格帯のなかで「競合(国産PC」のみIntel製CPUにこだわり、スペックが低いという結果になっていました(あくまでも仮説ですが、結構あたっていると思ってます)。

その結果、AMD Ryzenを採用した、「自社」「競合(レノボ」)の「重み得点」25点に対して、12.5点と、半分の差をつけられています。

この結果を見ると、一目瞭然。このカテゴリの(想定)顧客は、まず「競合(国産PC)」は選択しないと判断できます。自分の「重要度/重み」を実現してくれていないことが、「重み得点」により明確だからです。

実際の顧客がこのように数値化して判断しているとは思いませんが、なぜ「競合(国産PC)」を選択しないかの理由は、購入候補の比較において、無意識にこのような計算をしているからです。

同様に、「価格」についても、「競合(国産PC)」は低スペックでありながら1万円程度高いという状況です(仮説です!)。

「競合(国産PC)」は、この顧客層が全く重要視していない「サービス」を充実させています。そのため、重み得点は3社中トップの”5"でありながら、全体評価では、例えば「スペック」の「重み得点」”25"に見劣りしてしまいます。

顧客の「重要度/重み」に即して、VCを注力しなければ、全体バリューチェーンに貢献することもなく、無駄な事業投資になりかねません。VCとスコアを掛け合わせることで、それがより明確にわかります。

このサンプルでは、「競合(レノボ)」の圧勝です。自社工場による注文生産により、大量仕入を行うことで、コストも最小化できています。「販売の強さ」と相まって、事業としての強さ、「利益」も3社中一番高い得点を得ています。

「2Bオフィス向けIT製品:3C分析重み得点」

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こちらは、自社と競合、2社の比較です。「スペック」はほぼほぼ同じで、「価格」は自社の方がいいのに、「競合」が圧倒的に強い結果になっています。

実はこのサンプルは、ある自社製品がどうしても「競合」に勝てない時に分析した内容を思い出しながら作成しました。海向こうの外人(本社のVP:事業責任者)が、「製品も価格もウチの方がいいのになんで日本では売れないんだ(怒!」という、叱咤激励(?)に、理路整然と反論、もとい、説明するために調べた内容になります。

本社VPの言うように、「スペック」「価格」に差は、ほとんど無いのですが、それ以外のVCに差がありすぎます。「流通」の「重要度/重み」が一番重要な状況で、競合との差がありすぎるのが、売れない最たる理由ではあります。

それ以外にも、「サービス」や「プロモーション」など、そこまで高くない「重要度/重み」での差も、ボディブローのように効いてきて、実際の販売実績に影響を与えていると考えました。

数十年もこのマーケットで販売しているベンダーと、ぱっと出のベンダーの力の差、蓄積の重みの差を示す、いいサンプルだと思います。

雑感

たくさん書いてしまいました。まだまだ書き足りない点があると思いますが、とりあえずは、ここで公開しておこうと思います。

ボクの書いている「マーケティング」の内容は、かなり専門的なため、あまり「スキ」をもらえないのが悩みです。どこにも出ていない、いいこと書いているんですけどね。。。




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