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これからの「正義」の話

こんにちは、ラン丸(@sign45917948)です。

これからの「正義」の話をしよう 『いまを生き延びるための哲学』
著者 マイケル・サンデル  鬼澤忍(訳)

今回は、『正義』の話を本書に基づいて解説していきます。

はじめに

1人を殺せば5人が助かる状況があったとしたら、その1人を殺すべきだろうか? 

金持ちに高い税金を課し、貧しい人びとに再分配するのは公正なことだろうか?

前の世代が犯した過ちについて、私たちに償いの義務はあるのだろうか?

本書で著者マイケル・サンデル氏はこのように「正義とは何か」について考えさせられる問いを投げかけています。

これらは全て、正解はないが決断を迫られるものばかりです。

そして、私たちの道徳観や倫理観に鋭く訴えてきます。

もちろん、こうした正解があるのか分からない問いを並べただけの本ではありません。

政治哲学をこれほど分かりやすく説明してくれる書籍は貴重です。

アリストテレスからカントやロールズといった古今の哲学者の主張を、様々な問いかけを通じて解明するなかで、単に多数派を重視するとか、自由であることが最重要であるといった考えには欠陥があることが分かるはず。

私たちが求めるべき正義とは何か。

それをどのように政治に活かせばよいのか。

哲学という学問は机上の空論では終わりません。

本書はハーバード大学史上空前の履修者数を記録したサンデル氏の超人気講義をもとにしたベストセラーです。

今回の要約では語りきれていない内容も素晴らしく、また考えさせられるものばかりです。

ぜひ、本書を手に取ってこの講義にご参加いただけたらと思います。

要点①
正義の意味を探るアプローチには、
幸福の最大化、自由の尊重、美徳の促進、の三つの視点が存在する。

要点②
功利主義の道徳原理は幸福、つまり苦痛に対する快楽の割合を最大化することである。
この考え方の弱みは、満足の総和だけを気にしてしまうため、個人を踏みつけにしてしまう場合があることだ。

要点③
自己所有権が認められれば、臓器売買や自殺幇助などの非道徳的行為もすべて容認されることになってしまう。

要点④
私たちが自らの善について考えるには、自分のアイデンティティが結びついたコミュニティの善について考える必要がある。
私たちは道徳的・宗教的信念を避けるのではなく、もっと直接的にそれらに注意を向けるべきだ。


正義の意味を探る三つのアプローチ

2004年夏に発生したハリケーン・チャーリーが通り過ぎた後、生活必需品や家屋の修理業者などが通常の価格よりもはるかに高い価格設定を行い、多くの市民がこれを非難しました。

ところが、自由市場を支持する者は、値段が高くなれば多くの売り手が参入し、復興が早くなるとして、自由市場に干渉すべきでないと唱えます。彼らに言わせれば、価格は個人が自由につけられるもので、公正な価格など存在しません。また一方で、便乗値上げは単なる幸福とか自由とかの話ではなく、不道徳なものとして反対する人もいます。

この便乗値上げをめぐる論争は、道徳と法律に関する難問を提起しています。商品やサービスの売り手が自然災害に乗じ、市場でつく価格であればいくらでも請求することは間違っているのでしょうか。売り手と買い手が持つ取引の自由に介入することになっても、法律で便乗値上げを禁止すべきなのでしょうか。

これらの問題は、個人がお互いをどう扱うべきか、法律はいかにあるべきか、社会はいかに組み立てられるべきかというテーマにあります。

つまり、「正義」に関わる問題です。

正義の意味を探るアプローチには、便乗値上げ禁止法の問題で見た三つの観点、つまり幸福の最大化自由の尊重美徳の促進、が存在します。

これらの理念はそれぞれ、正義について異なる考え方を示していて、それぞれに強みと弱みが存在します。

本書では、この幸福自由美徳という三つの考え方について検討し、正義についての諸問題を考察しています。

【功利主義】

他の三人を救うために一人の命を犠牲にしてもよいか

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