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『洞窟の奥はお子様ランチ』(毎週ショートショートnote)

光が差し込まぬ洞窟を松明の明かりだけで進むうちに
時間の感覚はとうに失われていた。
「私、おかしくなっちゃったのかな?」
唐突に後ろを歩く妻の声。
「さっきからいい匂いがしてるの」
実は俺も先ほどから空腹を刺激する良い匂いを嗅いでいた。
俺の頭がおかしくなってしまったかと思っていたが
そうでもないようだ。
それとも、夫婦でおかしくなっているのか?

「あ!」
突然、目の前に広い空間が現れた。
吹き抜けのような高い天井からは太陽の光が差し込んでいる。
足元に広がる地底湖の色に躊躇しながら掬って飲んでみると
それは何とデミグラスソースだった。
妻が匂いにつられて目の前の大きな岩の塊を口にした。
「みて、これハンバーグよ」
その横にはチキンライスの山がそびえ立ち
頂上には旗まで立っている。
「こっちは大きなエビフライよ」
俺たちは目の前の料理をかたっぱしから口に詰め込んだ。

その時、壁が割れて何かが襲い掛かってきた。
それは人間の何倍もの大きさのエビだった。

(410文字)

<あとがき>
洞窟を彷徨う夫婦が疲労と空腹でおかしくなって
周りの土を食べてしまうという話かと思いきや、
ふたりの前にエビフライにも使われた大きなエビが!!
となると、目の前の料理も本物ってこと?

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