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昔、書いた落書き

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2019年11月まで、mixi、Yahoo!ブログ、Bloggerなどに載せていた 小説や詩のようなもの掘り起こして載せています。 (『ガムテープ女』が最後の作品です。)
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2022年6月の記事一覧

『シアワセの定義』

「幸せの定義ってなに?」 「うれしいことが起きることじゃないの?」 「それは定義じゃないんじゃない? 私が言いたいのは、何をもってして幸せと言えるか、よ」 「難しいな、人それぞれなんじゃないかな。 その人が幸せって思ったら幸せなんだろ?」 「例えば?」 「そうだな、、、例えばここに、リンゴが1個あるだろ? これをこうして2つに割って、と。 で、割った1つをキミにあげる。 はいどうぞ、どちらでもお好きな方を」 「ありがと、じゃこっちを頂くわ」 「キミはリンゴが好き

『男たちがいた』

勇敢な男がいた。 彼は勇敢ではあったが、腕力がなかった。 彼は勇敢にもヤツに真正面から立ち向かい、あっけなく倒れた。 頭脳明晰な男がいた。 彼は頭脳明晰であったが、傲慢であった。 彼はその頭脳でヤツの裏をかこうとして、逆に裏をかかれた。 力自慢の男がいた。 彼は腕っぷしは強かったが、頭が弱かった。 彼はその力でヤツをねじ伏せたが、その後どうしていいか分からなかった。 ずる賢い男がいた。 彼は皆に嫌われて、孤独だった。 彼はヤツの仲間になろうとして、先に死んだ者の仲間にな

『朝』

注射針が皮膚に触れた瞬間から俺の日常が始まる。 ガラス越しに見える透明な液体にパッと血の花が咲くと 腕の中に吸い込まれていく。 体中を熱い何かが全身を駆け巡る。 きっとその熱い何かこそが俺自身なのだと思う。 腕を縛っていたゴムチューブをはずすと 今開いたばかりの穴から俺の血液が一筋垂れる。 その赤を見て俺はまだ生きていることを知る。 俺は注射器を使い回すようなことはしない。 今使ったばかりの注射器を金属のゴミ箱へ放り込む。 このたった数分のために朝から晩まで汗水たらして 注

『メモ』

山積みの書類の中にそれはあった。 小さく折りたたまれた1枚のメモ。 僕は急いで書類の山に遭難したメモを救う。 書類の山が崩れ床に散乱したが構うことはなかった。 「メモ、見てくれなかったの?、、、」 会社からの帰宅途中にふいに鳴った携帯から 彼女の消え入りそうな声がしたのが1時間前のこと。 慌てて会社に引き返し、今ようやくメモを手にしたのだ。 メモを開くよりも先に彼女の携帯番号を呼び出す。 10回目のコールの後聞こえてきた彼女の声は深く沈んでいた。 「ごめんよ、得意先周り

『街角にて(ツールナイフ2)』

薄暗く人気のない街角。コートの男がひとり立っている。 その顔はうつむいているため見ることはできないが それでも鋭い目つきが鈍く光っているのは認識できる。 男はさっきから彫像のように動かない。 それはまるで、獲物が来るのをひっそりと待つ 夜行性の肉食獣のようである。 そこへひとりの少年がやってきた。 ダウンベストに両手をつっこんだまま、男がいる方へ歩いてくる。 帽子を被っているため男には気付かないようだ。 まっすぐ男に向かって歩いてくる。 男が手を伸ばせば簡単に届きそうな距離

『ツールナイフ』

叔父さんにもらったツールナイフ 大きなナイフや小さなナイフがいくつもついている そのほかにもハサミやドライバーやキリや ワインのコルクを抜くのまでついてる これワインオープナーっていうんだって 叔父さんが教えてくれた 使ってみたいな でもお父さんはダメだっていうんだ まだボクには早いんだって もっと大きくなるまで待っていなさいってさ だからボクの宝箱にしまってある でも時々こっそり出してながめてるんだ 早く使ってみたいな 大きくなるまでなんて待ちきれないよ ちょっとだけ使

『運命』

アナタはすでにボクの一部で だからこそこんなにも惹かれてしまうのだと アナタはすでにボクの一部で だからこそこんなにも分かってしまうのだと 運命というものがこの世にあるのならば それはきっと駅前のロータリーで 道行く人々に無造作に配られ続けている ポケットティッシュのようなもので 誰もが受け取らない理由が見当たらないまま 目を合わすことなく手の中に収まってしまい 捨てる理由もなく持て余すようなものなのだろう 受け取らないタイミングを逃して手に入れた ア

『水と細胞』

さらさらと流れる水のところどころに ゆるやかに時が溜まる場所があり 僕の中の忙しくない細胞は その場所にとどまりたくて仕方がない しかし忙しい細胞は前しか見ていないから そんな場所があることさえ気付かずに 流れていこうとするんだね 僕はその細胞たちをなだめながら なんとか調和を保とうとしているのだけれども こんこんと湧き出る水は 少しでも多くの時間を海へ導こうとやっきになって そこにとどまることを許そうとしないのだ そうでなくとも僕の細胞は次々と生まれ

『素顔』

「あなたに見て欲しいものがあるの」 いっしょに暮らし始めたばかりの部屋で 彼女が剥いてくれたリンゴを食べていたとき、 背中越しに彼女の声が聞こえた。 「何?」 男が振り向くと、彼女はさっきまでリンゴを剥いていた 果物ナイフを手に男に近づいてきた。 「な、何をするんだ」 慌てる男に、彼女は宥めるように言った。 「大丈夫、そこに座って見てて」 そういうと持っていた果物ナイフで自分の首を切りつけた。 首をぐるりとあまり深くない傷が走ったが 不思議と血は出なかった。 声もなく、た

『ホットドッグ早食い大会』(後編)

ゼッケン2番。彼はひたすらホットドッグを口に放り込んでいく。 右隣にいる前回チャンピオンの日本人は自分のペースを守りながら 順調にホットドッグを口に運んでいるように見える。 しかしその顔をよく見ると、ちらりちらりと隣を見ているのが分かる。 明らかに動揺している。それほど今回のチャレンジャーはすさまじかった。 なにしろ、噛むこともせずに次々とホットドッグを平らげているのだ。 何なんだこいつは? 観客だけでなく、他の出場者でさえ手を止めて見入っている。 開始から7分が経過

『ホットドッグ早食い大会』(前編)

今年もやってきた『ホットドッグ早食い大会』。 毎年あのイエローモンキーに優勝を持っていかれて 正直この街の人間として怒りは頂点に達している。 今年こそは、と意気込んでみるがいつも2位どまり。 しかし、今年は秘策があるんだよ。 吠え面かくなよ、ファッキンジャップ!! おっと、日本人にもファッキンジャップくらいは 分かるんだったな、危ねえ、危ねえ。 で、その秘策ってぇのが不思議な話でさ 数日前のことなんだけど、俺はあるバーにいたんだよ。 そこで一人の黒人が酔っ払いにからまれて

『配達男のおはなし』

配達男はハートを配達する仕事をしている。 ハートを両手いっぱいに抱えてふわりと空を飛ぶ 。 そして目当てのカップルを見つけると ハートをひとつ、ぽとりと落とす。 ハートはカップルの頭上でくるくると回りだす。 配達男はそれを確認すると次のカップルのもとへと向かう 。 配達男はこの仕事が好きだった。 今日もいつものようにハートを配達するため ふわりふわり空を飛んでいた。 でも今日はいつもよりハートの量が多かった。 こんなときは数回に分けて配達しているのだが 今日はどう

『天を支える』

雲ひとつない青空を仰ぎながら、両手を高く掲げた 自分が天を支えているような錯覚におちいり そのまま動けなくなった 目を閉じた方がいいかな? その途端、世界中の情報が耳に飛び込んでくる そしてボクはすべてを理解した 今まさにボクは地球だった ボクの足は大地と直結して深く根を張り 伸ばした両腕は天が落ちないように支え続けている すべてを見通してやろうと両目を開けると 世界中の涙が溢れ出てきた 少しでもココロが癒されるのならば 少しでも痛み

『ゴンという名の犬』

犬の名前はゴン、ありふれた名前。 ゴンがこの家に来たとき、この家には家庭があった。 旦那さんとその奥さん、そして娘さんが一人。 ゴンはまだ生まれたばかりで、ゴンという名前は娘さんがつけてくれた。 ゴンが来てしばらくして、娘さんがいなくなった。 『およめさん』というものになったらしい。 ゴンは娘さんの代わりにこの家にやってきたのだった。 娘さんのいなくなった家でゴンはすくすくと大きくなった。 ゴンの体が大きくなり家の中で飼えなくなると、 庭に大きな犬小屋が置