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『街角にて(ツールナイフ2)』

薄暗く人気のない街角。コートの男がひとり立っている。
その顔はうつむいているため見ることはできないが
それでも鋭い目つきが鈍く光っているのは認識できる。
男はさっきから彫像のように動かない。
それはまるで、獲物が来るのをひっそりと待つ
夜行性の肉食獣のようである。

そこへひとりの少年がやってきた。
ダウンベストに両手をつっこんだまま、男がいる方へ歩いてくる。
帽子を被っているため男には気付かないようだ。
まっすぐ男に向かって歩いてくる。
男が手を伸ばせば簡単に届きそうな距離に近づいたとき
ようやく少年は男に気付いたように足を止めた。
「おじさん、ここで何をしているの?」

男は少年を見下ろした。
「人を待っているんだよ」
そう言うと男は黒い革の手袋をはめた右手を
コートのポケットに差し入れた。
コートの右ポケットには細くて丈夫な紐が入っている。

「誰を待っているの?」
少年が聞いた。

「子供を待っているのさ」
男はポケットから紐を取り出すとだらりと垂らした。

「おじさんの子供?」
さらに少年が聞いた。

「いや、違うよ」
男は紐の垂れている方の先を左手に巻きつけ始めた。
「君のように1人で歩いている子供を待っているんだよ」
すでに男の両手の間で紐はぴんと張られている。

「へぇぇそうなの」
少年は怖がる様子もなく言った。
「僕もおじさんのように1人でいる大人を探していたんだよ」

少年はダウンベストに突っ込んだままの手の中の
ツールナイフをぎゅっと握り締めた。
「だって使っていないナイフが、まだこんなにあるんだもの」

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