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【新国立劇場 初台アート・ロフト】いま、ここ vol.2 ~植物とシェイクスピアの世界~

■「いま、ここ」とは

時間をかけて、ゆっくりと、丁寧に。
ささやかだけど大切なものを生み出し、「明日」へ繋げていく。

新国立劇場 初台アート・ロフトが発信する「いま、ここ」は、
様々な職人さんの手仕事を取材しながら、人の幸福や生き方について
哲学していくシリーズです。

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■今回の「いま、ここ」

シェイクスピアの作品には、様々な植物が登場します。シェイクスピアは、植物をしばしばドラマの重要なシーンに登場させ、その動作やセリフを強く印象付けています。
今回、造園やグリーンレンタルを営む野沢園さんのお話をうかがい、日々の生活にも、劇の表現にも欠かせない植物の世界に誘います。


タイターニア: お休みなさい、わたしの腕でだきしめてあげるから。…
      ヒルガオが甘いニオイニンドウにやさしくからみつくように。
Titania  Sleep thou, and I will wind thee in my arms………
     So doth the woodbine the sweet honeysuckle Gently entwist;
                 『夏の夜の夢』4.1.40-43

ひるがお

ヒルガオ Woodbine
ヒルガオ科のつる性植物。夏にアサガオに似た桃色の花を咲かせ、昼になっても花がしぼまないことからこの名がある。薬用植物であり、民間では利尿薬として利用した。

ニオイニンドウ

ニオイニンドウ Honeysuckle
スイカズラ科の落葉つる性低木。5~6メートルぐらい伸び、芳香の強い  ラッパ状の花が枝先に多くつき、5~7月に開花する。「蜜を吸わせる植物」というもとの名前が示すとおり、花の筒には蜜がある。

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■緑を楽しもう、グリーンジョイ!Greenjoy
生命力あふれる「野沢園」

世田谷に広大な農場を持ち、140余年ただ一筋に緑をはぐくみ、オーナーから職人まで光るこだわりを持って植物と向き合っています。「わたしたちはけっこう大事にするんです。」皆さん胸を張っておっしゃいます。

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マリアンの鼻は霜焼けにかかり、焼けたリンゴがシューシューいうと、夜な夜な楽しくフクロウが歌う、ホーホー、ホーホー、ホーホー、息吹きかけて And Marian’s nose looks red and raw,When roasted crabs hiss in the bowl,Then nightly sings the staring owl : ‘ Tu-who;Tu-whit, To-who’ - A merry note,              『恋の骨折り損』第五幕第二場

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クラブアップル Crab(野生リンゴ)
バラ科リンゴ属。和名をヒメリンゴと呼ぶのがクラブアップル。リンゴの 原種に近い品種。本来栽培リンゴはApple、野生リンゴはCrabである。


ここで育てられた観葉植物たちはグリーンレンタルとして色々な場所に貸し出されて行きます。オフィス内の観葉植物や企業イベントや学校行事、テレビ番組やライブ会場の装飾など、その用途は多岐にわたります。
園内にはビニールハウスがいくつもあり、配達エリアごとに分けられています。それぞれの担当の職員さんが毎日(お正月も交代で!)見回って、水やりや植物の様子をチェックしているのだとか。

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植物たちがレンタルされる場所はさまざま。室内なのか屋外なのか、日当たりはいいのか、風通しはあるかなど、それぞれのレンタル先の環境を見極めて、それに近しい状態で育てていくそうです。

「同じ種類でも育てた環境で個性は変わりますから。レンタル先で、長く元気でいてもらうために考えています」

職員さんの言葉に、命を扱うお仕事なんだとあらためて気づかされました。

■命を使い捨てない
植物を再生させるための農場

園内を見て回ったあとは、裏通りを挟んだところに建つビニールハウスに案内されました。そこは、地方に設けられた再生用の農場に出荷される植物が待機する場所でした。

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野沢園さんは八丈島と茨城県牛久に再生用の農場を持っており、そこで生き返らせた植物を再利用しているそうです。
手間もコストもかかるため、再生まで手掛ける会社は他にないそうです。

「普通は傷んでしまったら処分するんですけどね。でも、手をかけてやればまた生き返る子もたくさんいますから」

職員さんたちは、植木の葉にやさしく触れながら案内してくれました。経歴も専門もさまざまだけど、自然や植物が好きだという点は共通しているといいます。

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年に一度、処分した植物たちのための供養祭もしているそう。庭の中には石碑の姿がありました。

■芸術と植物
自然の時間に生きること

絵画や文学をはじめとして、人は芸術の中に植物の姿を多く取り入れてきました。必ずと言っていいほど植物がモチーフとして登場するシェイクスピアの作品はその代表です。精霊や偉大なる生命の象徴として登場する植物たちは、ときにイタズラや悪さをし、ときには助言をしたりして人に寄り添います。

芸術家たちは植物をどのように捉えたのか。

今回印象的だったのは、職員の皆さんの大らかな人柄です。
植物について質問すると、みんなが嬉しそうに答えてくれました。小さく芽吹いた若葉を触れ、撫でる手のやさしさでした。そして、こっそりと挿し木して育てているご自慢の鉢を紹介してくれる笑顔でした。

「この子を育てて4、5年経つけど、ようやく花を咲かせてくれたの」

それは、効率ばかりを求められる社会が忘れてしまった時間感覚に感じました。
日光を浴びて、気持ちよく風に揺れる植物たちのように。ここで働く人々も自然体でありました。
芸術家たちは、ヒト社会には求められない何かを求めて、ヒトの隣に植物を描いたのかもしれません。
ひとつとして同じカタチのない自然界。そこに何かの救いがあるように感じられます。

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シーザー : 全世界に平和がまもなく訪れる。今日を幸いある日となしえれ                       ば、オリーブが世界の隅々まで生い茂るであろう。
Caesar  The time of universal peace is near.Prove this a prosp’rous day,                  the three-nook’d world Shall bear the olive freely.
                『アントニーとクレオパトラ』4.6.4-6


オリーブ

オリーブ Olive
モクセイ科の常緑高木。花は黄色味を帯びた白色で、芳香があり5~6月頃咲く。実は秋に黒紫色に熟し、オリーブ油を含む。夏の乾燥期、草一つ見えない時期でも、オリーブは水分と養分を吸収し生育を続けている。

シェイクスピアは、自然や神の存在を基本としその中で人間社会の姿を描いています。だからこそその作品は普遍的であり、偉大であり続けています。

シェイクスピアの作品が次々と書かれた16世紀末から17世紀初めは、園芸のルネッサンスといわれ、植物研究も盛んで優れた本草書が数多く出版されました。そうした時代の流れが、シェイクスピア作品における植物描写に影響があったとされます。

「作品のなかに花を描いた文学者は古今東西数かぎりなく、むしろ描かなかった人の方が珍しいぐらいだろうが、シェイクスピアのように花を描いた人は他に類がないのではないだろうか。かれは、花が美しいとか、それをどう思ったかといったことを漠然と描くのではなく、花姿、生態、習性、花期など、当時の植物額、また本草学の知識をきちんと踏まえて、実に巧みなことばで表現し、花をまるで一つの小道具のように劇のなかにうまく収めている。」(『シェイクスピアの花』安部 薫著より)

ジュリエット: もう行っておしまいになるの? まだ朝にならない。
               あなたの脅えていらっしゃる耳に聞こえたのはナイチンゲール、                   ヒバリではありません。毎晩むこうのザクロの木で鳴くの。   Juliet     Wilt thou be gone? It is not yet near day;It was the nightingale,                 and not the lark,Nightly she sings on yond pomegranate tree
                   『ロミオとジュリエット』3.5.1-4

ザクロ

ザクロ Pomegranate
ザクロ科の落葉小高木。東地中海、小アジア原産で、有史以前からの果樹。秋に熟し、種子の外皮を食用とする。

クランマー: 姫の御世には、万人が自ら育てたブドウの木の下で、 平和に                      食事をし、また隣人相あつまっては楽しく泰平を謳歌するでありましょう。
Cranmer   In her days every man shall eat in safety   Under his own       vine what he plants, and sing The merry songs of peace to       all his neighbors.        『ヘンリー八世』5.4.34

ブドウ

ブドウ Grape(実), Vine (木)
ブドウ科 (Vitaceae) のつる性落葉低木である。また、その果実のこと。ブドウの歴史は人類の歴史とともに始まったといわれ、栽培も紀元前4,000年頃とされている。

オフィーリア : これがローズマリー、忘れな草よ。
                         ね、お願い、わたしを忘れないで。
Ophelia  There’s rosemary, that’s for remembrance;
                  Pray you, love, remember.            『ハムレット』4.5.175-176

ローズマリー_l

ローズマリー Rosemary
シソ科に属する常緑性低木。生葉もしくは乾燥葉を香辛料、薬(ハーブ)として用いる。花も可食。水蒸気蒸留法で抽出した精油も、薬として利用される。


いま、世界はデジタルに浸され自然からインスピレーションを得ることから離れてしまいました。しかし、デジタルだけで世界は成立しません。   人と人が出会い、目に見えないエネルギーが交信するひとつの「生の場」を共有できるのが、まさに「劇場」です。そして、目に見えないことに気づかせてくれるのが自然であり、グリーンは自然の世界・宇宙を凝縮して、我々に何かを伝えてくれているのではないでしょうか。

*本文中のシェイクスピア劇の和訳は、『シェイクスピアと花』金城盛紀著(東方出版)より引用させていただきました。

(シェイクスピアに関する書籍のご紹介)

シェイクスピア本ビジュアル

『シェイクスピアのハーブ』1996年発行 著者:熊井明子 発行:誠文堂新光社
シェイクスピアの作品に登場する164種のハーブを、あらゆる角度から研究した話題の書。シェイクスピアの故郷、香りのシェイクスピア劇場、シェイクスピアのハーブ、シェイクスピアの香り辞典など、花と香りと色にせまる。
『シェイクスピアの花』1979年発行 著者:安部薫 発行:八坂書房
「オフィーリア」と名付けられたピンクのバラ、「夏の夜の夢」の惚れ薬はパンジー。シェイクスピアの作品に現われる花々を興味深いエピソードを交えて紹介。
『シェイクスピアと花』1996年発行 著者:金城盛紀 発行:東方出版
シェイクスピアの作品に現れた全154種の植物を、オールカラー写真を付して、作品と関連させて解説。何げなく出てくる植物と作品の根幹との関係を明らかにし、作品でどのような意味づけをされているか検討する。
また、著者の金城氏(神戸女学院大学名誉教授)は、英国から導入された植物を集め「シェイクスピア・ガーデン」を神戸女学院に開園。
『シェイクスピアの故郷』2000年発行 著者:熊井明子 発行:白石書店
ウィリアム・シェイクスピアの故郷、ストラトフォード・アポン・エイヴォンは、訪れるたびに新しい発見がある町。そのストラトフォードを中心に、文化的遺産と自然の素晴らしい調和の数々を紹介。

*新国立劇場5階情報センター閲覧室では、こちらでご紹介した本を含めて、多数のシェイクスピアに関する書籍をご用意しています。
また、シェイクスピア劇銅版画集展を開催しています。*

初台アートロフトロゴデザイン単独カラーアイコン用


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