小説って役に立たないじゃないですか。

そんなこと言う人って実在したんですね。

読書フレンドリー?な人しか
周りにいなかったことに、
そう言われて初めて気がついた。

いまある環境を当たり前と思ったらだめですね。

仕事のあいまの
ちょこっとした待ち時間に、
なんの気なしに
「本読みますか?」と聞いたら、
その人は「読みますよ〜」と言った。

うっかりうれしくなって
「おすすめありますか?誰がすきとか」って
返したとたんにばっさり。


「あー、そういう感じのは読まないんです。
小説って役に立たないじゃないですか。」


ウワーッ!

都市伝説が実在したみたいに
びっくりしすぎて
絶句した。


「別に仕事の役に立つわけじゃないですよね。」


こっちがダメージをうけてるあいだに
畳み掛けるタイプ。

「実用書は読みます、役に立つから。」

あんまりにも。
あんまりにもあんまりだったから
何も答えられなかったけど、
ああもう言ってやればよかった。


「日々是好日を読みなよ」って。

世の中には、「すぐにわかるもの」と、
「すぐにはわからないもの」のニ種類がある。

すぐにわかるものは、一度通り過ぎればそれでいい。けれど、すぐにわからないものは、フェリーニの『道』のように、何度か行ったり来たりするうちに、後になって少しずつじわりじわりとわかりだし、「別もの」に変わっていく。そして、わかるたびに、自分が見ていたのは、全体の中のほんの断片にすぎなかったことに気づく。
森下典子(2002).日日是好日-「お茶」が教えてくれた15のしあわせ- 飛鳥新社


ねえ、すぐに役に立つ実用書だって
大事でしょうよ。
そういう読書を否定はしない。
すきな領域なら、
ある人にとってはめちゃくちゃ面白いことも
わかるよ。

でもね、でも、
あなたが「役に立たない」と
決めてかかっていることが、
心の中でじっくり発酵して、
いつか自分を救ってくれることがあるんだよ。

なんかもう泣きたい気持ちになってきた。
役に立たないってなんだろう。

おもしろくないとか、
楽しみ方がわからないとかなら
問題ない。楽しみ方を知ればいいだけだから。

でもそうじゃなくて、
役に立つとか立たないとかで決めるのは、
それはとっても貧しいことだと思う。
その二つのものさししか
持つことができないなんて悲しいことだと思う。


そんな人にこそ、
役に立たないことがきっと役に立つのに。


ああもう言ってやればよかった。
「日々是好日を読みなよ」って。
役に立たない読書はいいもんだよって。

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