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川合 径/OKINAWA CACAO

法人名/農園名:株式会社ローカルランドスケープ/OKINAWA CACAO
農園所在地:沖縄県国頭郡大宜味村
就農年数:6年
生産品目:カカオ、チョコレート製造販売
HP:https://okinawacacao.com/

no.46

「国産カカオを実現」共通言語であるチョコレートで沖縄の魅力を世界へ発信

■プロフィール

 千葉県出身。1996年に明治大学農学部に進学して都市緑化やランドスケープに関する技術を学ぶ。卒業後は環境関連企業への就職を希望していたが、当時は選択肢が少なく、半導体商社に入社。営業マンとして働きながら、渋谷の街で若者が花を育てる街づくりプロジェクトなどを展開。

 起業家精神を学ぶために2年にわたって通っていたビジネススクールの講師から「修行をしないか?」との誘いを受けて、2008年には株式会社アントレプレナーセンターに転職。自立型人材育成・起業家育成の仕組みである「ドリームプラン・プレゼンテーション」の事務局長を8年間つとめる。

 国内外の各地を訪れたり、東日本大震災の被災地で復興に励む若者の姿を見るうちに、「自分も地域の現場にコミットして、貢献したい」と考えるようになった。基地問題や格差社会など、さまざまな課題を抱える沖縄でカカオを栽培し、沖縄産チョコレートのブランド化を思い立つ。

 2016年3月、株式会社ローカルランドスケープを設立し、大宜味村(おおぎみそん)の田嘉里(たかざと)集落で1反弱の農地を借り受ける。ビニールハウスと露地で、ベトナム産のカカオ2,000粒のポット栽培を開始。

 収穫できるようになるまでの4、5年間は、市販されている地元素材を加えることで、沖縄らしいチョコレートブランドを作ろうと、外部委託で製造し、空港やホテルなどで販売を進める。

 2018年9月からは自社製造に切り替えて、2019年7月には、国頭村(くにがみそん)に「OKINAWA CACAO STAND」をオープン。栽培適地ではない沖縄でのカカオ栽培は失敗を重ね、台風や害虫被害も相次ぎ、カカオの鉢は当初の2,000鉢から10分の1まで減ったが、2021年1月初めて60個の実がなる。

 2022年5月には、カフェスペースを併設した製造工房兼カフェ「オキナワ カカオ ファクトリー&カフェ」をオープン。翌年1月には沖縄産カカオのチョコレートを初めて試作した。従業員も、社員3人、パート2人に増えた。

■農業を職業にした理由

 学生時代から環境活動や地方創生への関心が強く、起業を目指す人材の育成や支援を行う会社で仕事をした。さまざまな地域の課題解決の現場に直面するうちに、「東京から応援しているだけでは限界がある」ことを痛感し、自分も現場に出て、持続可能な地域社会の確立に貢献したいと考えるようになる。

 2012年、妻から貰ったバレンタインのチョコレートがきっかけで、カカオもコーヒーのように産地によって風味が異なることに興味を持つ。カカオ栽培は、年間平均気温が27度と高く、南北の緯度20度の亜熱帯地域が適しているとされるため、日本での栽培は困難だと知る。

 しかし「不可能を証明した人がいるのか?沖縄でコーヒーが作れるなら、カカオだってできるはず」という思いで、2015年後半から沖縄での事業拠点探しを始める。

 前代未聞の申し出に、どこも相手にしないなか、唯一、農地を貸してくれたのは、北部やんばる地域にある大宜味村(おおぎみそん)だった。 会社を設立した2016年には、田嘉里(たかざと)集落に借りた1反弱の畑にビニールハウスを建てて、ハウスと露地でベトナム産のカカオ2,000鉢の栽培をしながら、約2年間は人材育成のコンサルタントとして食い繋いだ。

 カカオは実ができるまで、4年以上かかり、いくらで売れるのかもわからない。そのため自分でチョコブランドを作ることを決意し、地元のシークワサーやカラキと呼ばれる沖縄シナモンを使ったチョコレートの販売を兼業。

 しかし、製造を外部委託するとほとんど利益が残らないため、2018年以降は自社製造をスタートした。この間も、台風でビニールハウスが大きく破れたり、ドクガの幼虫被害に遭うなどのトラブルが続いて、2,000鉢から始めたカカオの鉢は200鉢まで減少した。

 それだけ失敗を重ねながら試行錯誤を続けたが、2021年1月、とうとう60個ほどの実を収穫。この間も、沖縄の食材を使ったチョコレートブランド「OKINAWA CACAO」はお客様の評価を少しずつ広げ、2022年5月には古民家を改築したカフェ併設の工房をクラウドファンディング等で資金調達して設立。

 琉球大学で採集された蜂蜜を使ったグラノーラや、今帰仁村(なきじんそん)のスイカなど、地元素材を使ったドライフルーツのチョコレートがけなどのメニューが人気を呼んでいる。

■農業の魅力とは

 大学の農学部を卒業しましたが、農業をやりたくてチョコレート事業を始めた訳ではありません。前職でさまざまな課題解決に取り組む起業家を支援するうちに、熱い情熱を持つ若者に感化され、自分にも何かできないか?と模索するようになったのがきっかけです。

 地方の問題は「担い手になる人がいない」こと。在日米軍基地が集中する沖縄は、地域経済が米軍や国の振興予算に依存する一方、貧富の格差や主力産業が少ないなどさまざまな課題を抱えています。

「沖縄でカカオ、沖縄でチョコレート」という発想は、地元産業と競合せず、オンリーワンの存在になることで、地元経済の自立に貢献できると考えた結果です。

 いくつかの文献を見ると、国内ではカカオの栽培は困難だと書かれていましたが、私は何年も継続することでカカオが育って実をつけるはず、と信じて挑戦しました。そのため、新規就農者が受けられる就農準備資金や経営開始資金などの支援は受けていません。

 2016年に2,000鉢から栽培を始めてから5年経って、ようやく少しずつ収穫できるようになりましたが、「カカオをやりたい」なんて、よそ者の私が言ったことを5年間も温かく見守ってくれた大宜味村の人たちは懐が深いと本当に感謝しています。

 まだまだ、チョコレートを安定して製造する量には足りないため、今は海外産カカオを原料に、沖縄の食材を組み合わせることで、地域のブランドとして販売しております。

 カカオの実を収穫するのがゴールではなく、事業は継続させることが大切。私の仕事は、沖縄県をイメージするさまざまな食材の魅力を掘り起こし、世界の共通言語であるチョコレートと組み合わせてあげることで、沖縄の魅力を広く知ってもらうことだと思っています。

■今後の展望

 2025年には、国際的なチョコレートの見本市であるパリの「サロン・デュ・ショコラ」に出品したいと言う目標を持っていて、沖縄産チョコレートのブランド確立を目指しています。

 そのためには「OKINAWA CACAO」の価値を高め、安定した流通システムに載せていかなければなりません。弊社単独にこだわらず、他企業との連携も視野に入れています。

 弊社ではパティシエやショコラティエは雇用しておらず、社員は、カカオの栽培から、チョコレートの製造、販売、材料の仕入れ、商談まで全工程を担当しています。それが嫌だと言う人は向いておりません。

 前職で人材育成のコンサルタントをしていた経験から、パティシエなどの専門職を雇用すると、分業体制が一般的になって、それ以外の業務をしないというスタッフが現れるのを防ぎたいからです。

 事業全体を一緒に成長させていくことが楽しいという仲間を育て、OKINAWA CACAOの世界ブランド化に向けて突き進んでいく人材を増やしたい。そのためにも収穫量を今の10倍以上に増やさなければなりませんから、生産面積も大幅に拡大する必要があります。2023年末には、自分たちが育てたカカオ豆のチョコレートを数量限定で販売したいと計画しています。

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