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奥山 和宣/CRAS

法人名/農園名:株式会社CRAS
農園所在地:秋田県湯沢市
就農年数:12年
生産品目:三関せり、さくらんぼ、りんごなど。
HP:https://www.yuzawa-cras.com/

no.201

大規模集約型とは正反対の、手間暇かけた農業こそ、成果が出るし、差別化できる

■プロフィール

 1985年、秋田県湯沢市で、「三関(みつせき)せり」を栽培する農家に生まれる。大曲農業高校、秋田県立農業短期大学(現在の秋田県立大学生物資源科学部 アグリビジネス学科)に進学。

 卒業後は秋田県内のスーパーマーケットに就職。そこで農業の可能性を感じて農家になることを決意し、2011年、奥山農園の3代目となる。

 三関果樹勉強会の会長、湯沢の農業近代化ゼミナール「楽農喜族Yuzawa」の副会長を歴任した功績が認められ、2015年には秋田県青年農業士に認定。

 地域ブランド「三関せり」を守り、安定生産とより多くの担い手を育てるためには法人化すべきと考え、政府系のガバメントクラウドファンディングを利用して、2019年に株式会CRAS(クラス)を立ち上げる。

 CRAS とは、地域の特産である「Cherry・Rice・Apple・Seri(さくらんぼ、米、リンゴ、せり)」の頭文字を組み合わせ、ラテン語で「明日」を意味すると同時に、ここで「暮らす」をかけている。

 農業のイメージである3K(きつい、汚い、危険)を5K(こだわり、興味、感動、稼げる、かっこいい)に変えたいと考え、常に新たな取り組みを展開している。

■農業を職業にした理由

農業と地域の魅力に目覚めた高校時代〜
 三関せりや米、さくらんぼなどを栽培する農家に生まれたが、自身は農業とは違う「ネクタイを締めてカッコよく働き、やればやるだけ成果が得られる仕事」に就くことを望んでいた。

 高校は、野球をやるため、当時甲子園を目指せるレベルだった大曲農業高校へ…。3年生の時には生徒会長と農業クラブ会長、そして日本学校農業クラブ連盟の副会長も兼任し、高校生ながら全国に出張にいくような生活を送る。そこで全国の生徒たちと話をするなかで、地域の魅力に徐々に気づくようになり、農業を改めて見直そうと考え、秋田県立農業短期大学(当時)に進学した。
 
社会勉強と人脈作りをして、就農〜
 大学卒業後は、社会勉強のため地元のスーパーに就職。そこで、現代の農業の主流である大規模土地集約型の農業に触れる機会があったことで、それとは正反対の手間暇をかけた農業の魅力や可能性に気づかされる。

 すなわち、実家でやっていたような手作業の農業は、手をかければかけるほどいい作物ができて収益も上がる、ということを実感し、「努力が成果となる仕事」を生業(なりわい)にすることを決意。

 3年間勤めたスーパーを退職した後は、秋田の果樹試験場の研修生に。勉強と人脈作りを目的にして入った果樹試験場では、県内の若手生産者や試験場の先生との繋がりを深め、2011年に3代目として実家の農園を継ぐ。

〜法人化することで可能性を拓く〜
 父から家を継ぐと、これまでとは違うスタイルでビジネスを展開すべく、さまざまな活動に着手。産地を守るには一人では限界があり、そのためには仲間を作る必要があると考えて、三関地区の果樹勉強会(青年部)を立ち上げた。

 三関には、伝統野菜の「三関せり」や「三関さくらんぼ」のほか、良質のリンゴもある。もともとあるブランドを次世代に繋ぎたいという呼びかけに、同世代の後継者も集まり、地域の力は結集しやすかった。

 とはいえ、農業の主な担い手は高齢者が多く、10年20年後の衰退は明らか。300年続いたブランドを残すには、家族経営では限界があり、法人化が必須と考えるようになった。

 そんなおり、「湯沢市ふるさと応援大使」を務める一人の助力を得ることに…。ちょうど総務省がふるさと納税を使った起業支援事業、ガバメントクラウドファンディングを始めたタイミングだったので、それも利用して、2019年に株式会社CRASを設立した。

  法人化し、事業を展開するためには収益を上げなければならない。経営者としての仕事は増えたが、一方で加工品やセット販売を手掛けるなど、可能性も広がった。正社員を2名雇った時期もあったが、その2人をそれぞれ独立させて送り出した現在は、人員は期間雇用でまかなうようにしている。
 
未来のための人材教育〜
 社員を教育して独立させたほか、現在は地域の学校と組んで小中学生や高校生の農業教育にも取り組んでいる。さらに、法人化を支援してくれた「ふるさと応援大使」の方と協業して「農学校」という組織を作り、湯沢、厚木、ハワイの3カ所で、農薬を使わない自然栽培を学ぶ共同授業も展開。

 自らのビジネス展開を行いつつ、次世代に農業の魅力と可能性を伝え、地域と農業の活性化にも積極的に取り組んでいる若きリーダーだ。

■農業の魅力とは

 農業は、やればやるほど成果が出る職種です。作物は手をかけた分だけ良くなる、それは間違いありません。つまり、やればちゃんと結果が出せるということです。

 たとえ雨が降って作業できない日でも、そこで人より一つでも二つでも先に進めるかどうかで結果が変わります。困難なときこそが腕のみせどころ、成長のチャンスです。

 三関で取れるせりやさくらんぼ、リンゴは、どれも機械化が難しく、目で見て、触って、育ち具合を確かめ、手作業で収穫する作物ばかり。でもだからこそ、手をかける甲斐があるのです。

 それに、手作業であれば自社のカラーも出しやすい、つまり他と差別化できます。そして努力した分はちゃんと自分に返ってくる。農業は、売り方や経営次第で可能性が広がる仕事です。これは農業の魅力であり、また経営の面白さでもあります。

 そしてもうひとつ、農業には決まりがない。一つの土地で何を育ててもいい。100人いれば100通りの方法があります。その可能性は大きく、チャレンジはやりがいがある。面白い仕事です。

■今後の展望

 まずは自社の成長が第一ではありますが、同時に同じ志を持つ仲間や若手生産者を増やしていきたいと思っています。

 そうやって地域として一つの殻を破りたいし、変わっていくべきだと考えます。経営の法人化や、マーケティングをベースにした販売開拓、自然に還る安心安全な循環型農業など、開拓すべきポイントはたくさんあります。地域一丸となってこれらに取り組みたい。

 そして、もうひとつやるべきことは、教育です。子供たちに農業の魅力を伝えて、いずれは「なりたい職業」の1位に農業がなれば嬉しい。2024年には、小中学制を対象にした収穫体験を予定しています。さらに中高生には、ブランディングから商品開発、そして地元企業との連携したモデルケースの仕組みまで構築するようなプログラムにしたい。

 昨年、湯沢に「農学校」というコミュニティを作りました。神奈川の厚木に湯沢の「ふるさと応援隊」があるので、湯沢と厚木、そしてハワイにも拠点を作って3校で共同授業をしています。自分自身、たくさんの人の手を借りてここまで来ているので、今度は自分が青少年に農業と地域の魅力を伝える役割を果たしたい。

 地域の先輩から「人は人でしか磨かれない」と教えてもらいました。その通りだと思います。人との繋がりは何よりも大切。これからもこの言葉を忘れず、繋がりを大事にしながら地域全体の活性化に尽力したいと思っています。(記:沼田実季)

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