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善家 基(ぜんけ・もと)&華奈子/はなき農園

法人名/農園名:はなき農園(ファーム)
農園所在地:愛媛県南宇和郡愛南町
就農年:2018年〜
生産品目:河内晩柑(愛南ゴールド)、ポンカン、デコポン、はるか、甘夏、甘平など年間を通じて20種類近くの柑橘類を栽培。これらを原料にしたジュース、ゼリー、コンフィチュールなどの6次加工品の開発販売も行う
HP:https://hanakifarm.net/
SNS:https://www.instagram.com/hanakifarm/

no.222

農家の枠を超えて・・・加工品開発からキャンプ場、ラジオ番組まで

■プロフィール

 愛媛県北宇和郡鬼北町の米の兼業農家に生まれる。子どもの頃から農家に囲まれて育ったため、本人は農業を継ぐつもりはなく、宇和島東高等学校を卒業後は、松山医療福祉専門学校に進学し、介護福祉士となる。
 
 医療福祉業界に飛び込んでからは、さまざまな介護施設やグループホームなどを経験。将来的には介護業界で起業することを見据えて、他業種の営業なども経験。

 知人の紹介によって知り合った妻の華奈子さんも介護福祉士の資格を持っていたので、2人で第二種自動車免許を取得して、自力で移動が難しい人向けの送迎を行う介護タクシー業を立ち上げることを夢見て、準備資金を貯蓄していた。
 
 ところが2018年、愛南町で50年以上の歴史がある、ミカン園を営む妻の父が作業中の事故で他界。起業を考えていた矢先ということもあって、「これまで50年続いた園地を守っていこう! 守り、そして進化させていこう!」と、農園を継ぐことを決意。
 
 「農家の枠を超えて」「農家っぽくないこと」をテーマに、趣味のオートバイや旅、愛猫や愛犬についてSNSに投稿したり、2ヘクタールの農園を使った1日1組限定の貸切キャンプ場なども運営している。
 
 また妻の華奈子さんと一緒に、WEBラジオ「ゆめのたね」で「農家の枠を超えて」という番組のパーソナリティーをつとめる。
 
 2023年2月には、日本最大のコミュニティ型カンファレンス「ICCサミットFUKUOKA2023」の「フード&ドリンク部門」に、河内晩柑を使った加工品を出展した。

■農業を職業にした理由

 介護福祉士としてさまざまな介護施設で勤務した後、独立して介護事業を立ち上げようと営業職なども経験。妻・華奈子さんと2人で介護タクシー事業を起業しようとした矢先に、八幡浜市と愛南町の2カ所にミカン園を所有していた妻の父が不慮の事故で他界。

 子どもの頃からミカン園に慣れ親しんできた華奈子さんにとっては、祖父母や両親が築き上げてきたものを失うのがもったいないという強い気持ちがあった。一方の基さんは農業は未経験だったものの、介護業界で新規事業を立ち上げるより、義父が残した農園を引き継ぐ方が、初期投資を押さえることができると経営的に判断して、愛南町の農園を継承することを決意。

 義父の突然の他界により、管理が行き届かなかった1年目は満足いく品質のものが作れなかったが、就農直後から事業化を視野に入れていたので、規格外品を使った加工品の企画に注力した。柑橘類を使ったジュースは、義父の代からも作ってはいたのでアイディア自体は珍しくないが、他の農家と差別化を図るため、最初の年からプロのデザイナーに依頼して、屋号やロゴのデザインにこだわった。

 大のネコ好きとして、農園のマスコットをロゴに採用し、ホームページのアイコンをはじめ、ラベルやパッケージデザインに配したところ、全国のネコ好きからも注目される結果に…。

 研修経験もなく就農したため、栽培の知識はなかったが、義父の存命中から一緒に農作業していた義弟が八幡浜市の方の農園を継いでいるので、わからないことや病害虫などの不安があれば、その都度、LINEで相談できるのも心強い味方だ。

 新規就農者向けの補助金などはあてにせず、できる限り、土壌の微生物の力を活用したバイオ農法を活用して慣行栽培で育てている。

■農業の魅力とは

 農業未経験なのにミカン園の経営だなんて、無謀だとか、不安はなかったの?と不思議に思われるかもしれません。

 会社員なら毎月一定の給料もいただけますが、自営業はすべて自己責任です。ですが、ちょうど介護タクシーの事業を始めようと準備資金を貯めていましたから、農業がダメだったら介護業界に戻ればいいと、自分のなかで保険はかけていました。

 また祖父が始めた2カ所の農園のうち、父を手伝っていた妻の弟が八幡浜市の方を継いだので、栽培に関する疑問があれば、LINEですぐに聞ける環境なのもありがたいです。

 弟には新規就農者向けの補助金制度を申請する必要の是非などを相談していましたが、「必要ないよ!俺が全部教える」と励ましてくれました。実際、就農して2年目には「これ、イケるな」と確信を持っていました。…というのも、一般的な農家の当たり前と、自分が考える当たり前にはかなりギャップがあるように思えたからです。

 今でこそ規格外品をジュースやジャムに加工するのは一般的ですし、最初は僕も廃棄がもったいないと考えて始めましたが、最終的には"事業化"するのが目的でしたから、屋号やロゴは必要だとして、書体やイラストのデザインを発注し、それにはこだわりを持っていました。

 僕ら夫婦は2人ともネコ好きで4匹と犬も飼っています。そこでマスコットのネコをロゴのモチーフにしたところ、全国のネコ好きから注目してもらえるようになりました。でもこれも「遊び感覚」です。1日の農作業を終えた後、2人で「次はこんな加工品を作ろう」とか「こんなことしたい」と話し合うのも楽しんでやることが大事だと思います。

 ミカン農家の収入は収穫期に集中してしまいがちですから、収穫期以外にも1年を通じて商品が充実するよう、ジュースやゼリー、コンフィチュールなどのギフトセットや、最近では河内晩柑(愛南ゴールド)を使って、松山市の老舗レストランとコラボしたレトルトカレーも開発しました。また実家のある鬼北町の土地も活用して、柑橘類だけでなく、最近注目のスーパーフードである「きくいも」栽培にも挑戦しています。

 義弟には当初、夫婦2人で十分に食べていける経営規模だと太鼓判を押されていましたが、それに甘んじることなく、農業の可能性を広げたい。そのためにもさまざまなことに挑戦していきますし、従業員やアルバイト、パートさんも雇用していますが、特に法人化を検討しているわけではありません。

 私たちも法人化を目指していた時期がありましたが、法人化すると企業として利益を追求する必要があります。それに伴って、働き方も効率を重視したやり方に変えていかなければなりません。

 そうなると、従業員をコマのように動かさなければならない場面も増えますし、それは心情的に抵抗があります。僕らは一般企業での就職が難しい人たちに、生きがいを持って、自立した生活を送って欲しいと思っているので、その可能性が農業にはあると思っています。

 もちろん「農福連携」という言葉は知っています。でも商品を購入するお客さんにとっては「善家さんのジュース」だろうと「障がい者が作ったジュース」だろうと違いはありませんから、あえて”福祉”をアピールする必要はないんじゃないかな。僕らのミカンやジュースを気に入ってくれたお客さまが、後になって「実は、こんな人たち(障がい者)が作っていたんだなぁ」と理解してくれればいいと思うんです。

 僕たちは従業員やアルバイト、パートさんなど、一緒に働いてくれる一人ひとりの性質や得手不得手を生かしながら、楽しんで仕事をしてもらうのが一番重要だと思っています。

 旅行をしながら、収穫や出荷などの体験ができる「おてつたび」を受け入れたのも、2023年12月で6回目。お手伝いに来てくれる人たちは労働力として考えたら、それほど戦力にはなりませんが、社会環境が異なる人たちと出会って、その人たちの目線で意見をもらったり、コミュニケーションを交わせることが楽しい。彼らが僕らの農園や愛南町を好きになって、「また来たい」と思ってくれるようにするのが、地域への貢献だと思っています。

 WEBラジオ『農家の枠を超えて』でパーソナリティーを務めたり、SNSで発信するようになったのもそのひとつ。知らない人たちと交流する機会が増えて、全国各地に僕らのファンが増えています。

■今後の展望

 就農当初は私も法人化を目指して頑張ってきましたが、2022年に治療が難しい持病が発覚し、高いところで作業したり、力仕事することができなくなりました。

 そのころから特に、やる気さえあれば、障がい者や自分に自信がない人など、どんな事情がある人でも働ける職場を目指していきたいと考えるようになりました。

 地方には雇用の機会が少ないので、こういった事情がある人たちが生きがいを持ちながら、自分たちのペースで楽しく働けることができる場所にしたいと思っています。

 そのためにも今の目標は人材育成。病気が発覚してからは現場作業はスタッフに任せるようにして、私が関わるのは、段取りの確認などにとどめています。このまま、従業員が育って農園経営を任せられる状態に持っていきたいと考えています。

 2018年の就農からまだ6年目ですから、農業の匠のような技はありませんが、僕らが勝てる土俵で戦っていきたい。農業を通じていろいろな可能性があることを発信していくのが僕らのフィールドだと思っています。

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