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語手。【NME Japan編集長がちょっと思っていること 第243回】

今週は1月24日に東京ドームで開催されたビリー・ジョエルの一夜限りの来日公演にうかがうことができました。2008年以来の16年ぶりの来日公演ということで当然大きな期待が寄せられていたわけですが、直前には2月1日に17年ぶりとなる新曲“Turn the Lights Back On”をリリースすることも発表されました。10年近くにわたって続けてきたマディソン・スクウェア・ガーデンでの毎月の公演を今年7月に終了することを発表したこともあり、キャリアの締めくくりへと向かう雰囲気を感じていたのですが、むしろ活動は精力的となっていて、2月4日に開催される第66回グラミー賞授賞式でパフォーマンスを行うことも発表されています。

ベートーヴェンの交響曲第9番のイントロからの“My Life”で幕を開けたライヴは当然のことながら名曲のオンパレードになったわけですが、自分にとって印象的だったのは「僕はミック・ジャガーじゃない」と言いながら披露した“Start Me Up”のカヴァーに続いて演奏された“An Innocent Man”で、1983年発表のこの曲を紹介する時に髪がなくなった自分についての冗談を飛ばしながら、30代の時に高音を失っていったと自ら語りつつも、実際の演奏では渾身のハイトーンを見せつけたところでした。ビリー・ジョエルというソングライターが希代のストーリーテラーであることは言うまでもないわけですが、こうしたユーモアやパフォーマンス一つとってもフリが効いているというか、スタジアム全体を自分の物語に引き寄せてみせる圧倒的な力を感じました。

もう一つ、今回のビリー・ジョエルの来日公演で感じたのは、人間のパフォーマーにしかできない演奏の力でした。ポップ・ミュージックは制作現場を初めとしてエレクトロニックが浸透して、ライヴでもエレクトロニックがそのまま使われる機会が増えましたが、ビリー・ジョエルのライヴは彼のウェルメイドなポップ・ミュージックをあくまで人力で演奏することが徹底されていて、“An Innocent Man”のブレイクを再現したトライアングルを始めとして、マイケル・デルジュディスによる“Nessun dorma”は言うまでもなく、“Uptown Girl”のハーモニーなど、名曲が人間の手で披露された時のえも言われぬ感覚が醍醐味となっていて、そうしたものはこうしたクラシックなアーティストのライヴでしかなかなか体験できないものになってきています。

あと、今週はレディオヘッドのトム・ヨークとジョニー・グリーンウッドによるザ・スマイルがセカンド・アルバムをリリースしたほか、リアム・ギャラガーとザ・ストーン・ローゼズのジョン・スクワイアはアルバムを3月1日にリリースすることを発表しています。テーム・インパラとのコラボレーションを含む2曲が公開されたジャスティスの新作『ハイパードラマ』も楽しみです。

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