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【歴史の話】どうするNHK

 2023年度のNHK大河ドラマ「どうする家康」の初回放送(2023/1/8)を視聴した感想です。


はじめに

 ひと言で言うと、面白かったです。空想力豊かなファンタジーで、ときおり入るリアリティがアクセントになっていると感じました。

リアリティ

ポイント1:あえて見せずに聞かせる演出

 ”悪い大河ドラマ”は、主人公に関係ないイベントをすべて映像で再現してしまう。
 シーンがあちこちに移動して、主人公が誰だか分からなくなる。

 それを避けようとすると、史実を無視して主人公がそのイベントの現場にいたり、当事者になったりするという、歴史の改竄かいざんが行なわれます。
 例えば、2011年度の「江 ~姫たちの戦国~」。(歴史修正主義者の方々には都合がいいかな?)

 本作の松平元康は、桶狭間おけはざまの戦いを物見からの報告で知りました。
 そのため、視聴者も元康を取り囲む三河武士の一人になったような臨場感があった。

 難点を言えば、元康は大高城内ではなく丸根まるね砦攻めの本陣にいて欲しかったところ。
 本作ではなぜか大高城に兵糧を運び入れるために同時に丸根砦を攻めましたが、史実ではまず大高城に入って、桶狭間合戦の当日に丸根砦を攻めていますから。

ポイント2:適切な時代考証

 城や砦の描写が、年々リアルになっていくように感じます。

 本作の丸根砦は、「土を掘っただけの掘」の周辺に、「木を削って組み合わせただけの柵」を立ててあるだけ。
 それでいいのです。丸根砦、鷲津わしづ砦は大高城の付け城で、金も時間もそれほどかけていないはずだから。

 桶狭間の戦いにも、細部にリアリティを感じました。
 番組後のガイド(どうする家康ツアーズ)で説明されたように、久能山くのうざんに奉納された鎧「金荼美具足きんだみぐそく」は、実際に大高城の兵糧入れで家康が着用したとする伝説があります。

 家康が爪を噛む癖の再現も、近年の大河作品ではお約束のようになってきました。
 今作でも松本潤さんは、例えば行軍中の下知直前に爪を噛んでいました。

 そして行軍中には織田方から鉄砲による奇襲を受けていますが、織田信長は数年前の村木城攻めですでに鉄砲を使っていたので、あり得る話です。
 (織田方が貴重な鉄砲隊を砦の外に出して使うかな、という疑問はさて置き。)

 ちなみに鉄砲と言えば、桶狭間当日の豪雨の中、三河衆(平岩親吉?)が「桶狭間方面から鉄砲の筒音がしたような」と発言していますが、雨天では火縄銃は使えませんので空耳でしょう。

 いずれにせよ、小和田先生、グッジョブです!

世界観

 「はじめに」で、本作は空想力豊かなファンタジーであると書きました。
 細かい点ではリアリティにこだわっているものの、基本的な世界観はデタラメで、NHKはなぜこの作品を単発作品でなくて連続ドラマにしよう思ったのか理解に苦しみます。

 連続ドラマであれば、毎回「どうする?」という見どころを作れるからでしょうか?
 ただそれだけの理由なら、全50話ある大河ドラマではなくて、10~12話程度の1シーズン向けの企画なのでは。

 いずれにせよ、徳川家康のキャラクターは、本作のメインテーマでもあるので、受け入れるしかないとします。
 しかし、本多忠勝ほんだ ただかつはひどい。あまりにひどすぎる。
 あの前田利益まえだ としますだって、もっとまともな武士だったはずです。

 ファンタジー作品として、自衛隊の戦車が出て来る映画があっても構わないし、織田信長が女性という設定のドラマだって、スポンサーがOKすれば問題ない。
 しかし、そのノリで大河ドラマをやるというのは、もしかしてNHKは「視聴者がスポンサーである」ことを忘れてませんか??

 NHKとしては80年代までの重厚路線(原作となる重厚な長編小説を忠実に再現する)からカジュアル路線(歴史ファンじゃなくても楽しめる娯楽)に移りたいのだろうな、ということは分かります。
 しかし、近年になっても、カジュアル路線の大河ドラマのどれよりも、重厚な特別ドラマ「坂の上の雲」の方が遥かに素晴らしかった、という事実が間違いなくあります。
 目新しさを出したいなら、奇抜な世界観ではなくて、最新のテクノロジーや配役で工夫して頂きたい。

配役

 個人的に、最も大河ドラマらしい大河ドラマだと思っているのは1991年度の「太平記」です。

 青年期から晩年までを演じられる若手実力派俳優が主人公の足利尊氏あしかが たかうじを演じており、楠木正成後醍醐帝、北条高時ほうじょう たかとき高師直こうのもろなお足利直義あしかが ただよしといった「敵」も素晴らしい。

 今作の初回を見た限り、家康の最初の正室築山殿つきやまどのには違和感があります。
 築山殿は気位の高い悪女のイメージがありますので、有村架純さんを起用したのはギャンブルでしょう。そしてそれは、裏目に出そうに思います。

 築山殿は前半のうちにいなくなるから配役には冒険ができるし、松本潤さんの年齢を考えると30歳前後の旬の女優を使えるので、選択肢はかなり多かったはず。

 そこをあえてこの配役というのは、築山殿のイメージを変えるつもりなのか、逆に有村さんに悪女を演じさせて新しい面を引き出したいのか。
 個人的には武井咲さんが適役だと思いますし、あえて冒険をするなら前田敦子さん、さらには唐田えりかさんでも面白かったような気がしました。

 1/14時点で配役がまだ発表されていない主要人物に上杉謙信がいます。個人的には、目新さを出すならここに天海祐希さんを起用してもらいたい!
 前述の「太平記」では、北畠顕家きたばたけ あきいえ役に当時のアイドル後藤久美子さんを、性別を無視して起用したくらいですから。
 女性説が根強い上杉謙信を、「女信長」を演じた天海さんが演じるという案は、実は奇策ではなく正攻法とも思えます。

今後への期待

 とにかく50話ある大河ドラマなのだから、次回だけでなく半年先が楽しみになるような脚本を!

 例えば、「おんな城主」井伊直虎いい なおとらはいつ登場するのか。
 ちなみにもう一人の「おんな城主」、曳馬ひきま城の|飯尾田鶴《いいお たづ》は初回から出ていて伏線を張っていますので、回収が楽しみです。

 そして、最後に一つ提案があります。
 二年後の2025年度の大河ドラマはまだ発表されていません。もう一度戦国時代の三河国を舞台に、今度は重厚路線で新 三河物語」(宮城谷昌光)を原作にしてみませんか?

 主要キャストはそのままで、小手伸也さんが演じる大久保忠世おおくぼ ただよがそのまま「新 三河物語(仮)」の主人公になったら面白いですよね!

貴重なお時間を使ってお読みいただき、ありがとうございました。有意義な時間と感じて頂けたら嬉しいです。また別の記事を用意してお待ちしたいと思います。