留学中のグループワークで学んだこと

イギリス大学院留学中、学期末の課題は大抵論文かプレゼンになるのですが、どちらもテーマ選びでその後の大変さが決まります。次に、個人作業かグループ作業かでも難しさが分かれるのですが、グループワークでは、誰と一緒に組むか、が難易度の決め手になるかと思います。日本の高校・大学でグループワークやグループプレゼンは何度か経験済みでしたが、イギリス大学院で経験したグループワークは日本での経験とは全く異なる貴重なものでした。

国籍の違う4人でのグループワーク

留学して最初の学期末にグループプレゼンがありました。教授がグループ訳を行い、各グループでテーマを決めてプレゼン、そしてその評価がそのまま授業の成績になる、というもので、私のグループは、ドイツ人(女)、サウジアラビア人(女)、トルコ人(男)と私の4人でした。

何度かミーティングをして、作業を詰めていくのですが、初めから前途多難を予感させる始まりでした。

打ち合わせが進まない

授業時間をプレゼンの準備に充てることはなかったので、プレゼン準備は授業外に行います。テーマを決めたら、各自の分担を決め、4人のスケジュールを調整して打ち合わせをするのですが、サウジアラビア人とトルコ人は自分担当個所についてあまり準備をしてきません。結果、打ち合わせの時間の殆どは二人の担当箇所について「ああしたら?」「こうしたら?」と提案をしたり、資料を見つけて「こういうふうに組み込もう」と形にしたりと、結局二人の分担箇所に取り組む時間ばかりがとられていきます。

発表の日が近づく中で、私の中では二人に対してだんたんイライラした感情が募り、また思ったように準備が進まないことに対する不安が大きくなっていきました。しかし「なんとか無事に終わらせないと成績が…」という気持ちから、不満はなるべく出さないようにしていました。内心は怒りがふつふつとわいていました。

終わってないけど帰りたい

発表まであと1週間くらいだったと思います。もう時間がないので次の打ち合わせではプレゼン資料が形になるまで残ってやろう、と事前に決めました。しかし、その打ち合わせの日、作業を進めてある程度する(もちろん終わっていない)と、サウジアラビア人の学生が「もうそろそろ帰りたい」と言いました。

彼女の発言に私は(え?終わってないよね?)と驚いて、何も言えませんでした。ドイツ人の学生は「今日は形にするまで残るって前に決めたじゃない。どうして今帰るっていうの?」と問い詰めます。その時のやりとりの内容はあまりよく覚えていないのですが、最終的には4人で遅くまで残って、完ぺきではなくても形にしたと思います。

その日の作業を終えてさあ帰ろう、と大学のコンピュータ室を出ました。すると、トルコ人学生が「記念に写真を撮ろう」と言ったので、ヘロヘロになっていたにも関わらず4人で自撮りをしました。「まだ終わっていないこのタイミングでなぜ?」と思ったことを覚えています。

プレゼン直前の話し合い

作業も大詰め、プレゼン資料もある程度形になり、実際に発表の練習をする段階なりました。

ここでも、サウジアラビア人とトルコ人は発表のスクリプトを準備してこないので、二人のスクリプトを4人で考える作業で時間がどんどん過ぎていきました。

数時間後、4人の発表内容がようやく固まりましたが、私たちには最後の作業が残っていました。そして、結果的に私の中ではプレゼンそのものよりも、この最後の作業がとても印象に残りました。

作業工程を振り返る

今回のプレゼンでは、プレゼンだけでなく「作業工程の振り返りを発表する」ことも要求されていました。教授たちは、留学生の多いこのクラスでは、グループワークで色々と揉めるだろうと考えており、揉めることも学習の一環だと捉えていたようです。

私たちは決して最初から順調に進んだわけでないグループだったので、この「作業工程の振り返り」も内容が濃いものになりました。

① 打ち合わせに向けての各自の準備

まず初めに話題に上ったのは、打ち合わせに向けての各自の準備に差があったこと。ドイツ人学生がサウジアラビア人とトルコ人に「二人はどうして準備をしてこないの?」と聞きます。二人曰く、打ち合わせは「集まることに意味がある」ので、自分の分担についてはなんとなく考えてはおくものの、打ち合わせにむけて自分の分担を調べて準備をしておく、という意識はなかったそうです。

一方、ドイツ人と私は打ち合わせは「各自のアイディアを出し合ってまとめる」ものと考えていました。自分の分担箇所を調べ、プレゼンでどのように組み込むか、などある程度物理的に形にして打ち合わせに臨むことが暗黙の了解でした。

② 課題の優先度合いについて

次に、プレゼン直前の作業時間について話し合いました。「形になるまで帰らない」と決めていたのにサウジアラビア人の学生が「帰りたい」といった日の事です。

サウジアラビア人の学生によるとサウジアラビアでは女性が夜遅くまで外出しているというのはあり得ないことだそうで、「形になるまで帰らない」と言っても、そんなに遅くまではやらないだろう、と思っていたそうです。

一方、ドイツ人学生と私は言葉通りに考えていたので、徹夜もあり得ると思っていました。サウジアラビア人の彼女は結局当日遅くまで残りましたが、その日は彼女の父親や兄に電話をしてかなり無理をして残ってくれていたようでした。宗教上の理由もあったかもしれず、今考えると少し可哀想なことをしてしまったな、と思います。

③ 意見を言うことについて

最後に、自分の意見をどこまで発言するか、ということについても話し合いました。ここでいう意見は相手に対する不満も含みます。私はドイツ人学生がこれまでグループの中で直接的に発言、質問をすることに対して驚き、また感心していた節もあったので、「日本では相手を非難している、と捉えられる様な直接的な発言は避けるから、私は自分が何か不満に思っていたとしても、直接言うのはあまり得意でない。」といった趣旨の発言をしました。

するとドイツ人学生は「ドイツでは思っていることを直接伝えない方が不誠実と感じると思うよ」と教えてくれました。

チャンスがあれば理由を聞く

プレゼン当日、ミスはあったものの、私たちはプレゼンと振り返りを発表し、結果的に高評価をいただくことが出来ました。評価は嬉しかったし、達成感もありましたが、今回、私たちが恵まれていたのは、作業工程を振り返り、お互いの文化の違いを知るチャンスがあったということです。

もし、今回のプレゼンがこのメンバーで行われず、「作業工程の振り返り」が無ければ、プレゼンは私の中でそれほど印象に残っていなかったと思いますし、相手の行動の理由もわからずじまいだったと思います。

もちろん、ここで書いたことがすべてのサウジアラビア人、トルコ人、ドイツ人、日本人に当てはまるわけではありませんが、プレゼンの作業を通してサウジアラビアとトルコ、ドイツと日本で物事の捉え方が近いと実感できたのはとても興味深かったです。

実生活では、問題が起こった時、なかなかここまで掘り下げることはなく、根本的な解決を図らないまま、見過ごしてしまうことも多いかと思います。しかし、今回の経験から、掘り下げることが新たな発見に繋がるということを時々思い出して行動したい、と思うようになりました。

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