[ショートショート] 花の根
「おかーさーん。スポ根枯れちゃった」
「あら……残念だけど、もう捨てないとダメね」
高校1年生の時から3年弱育てた花が枯れた。1年持てば良い方と言われていた中でよく持った方だと思う。
毎日毎日、丁寧に丁寧に育てたスポ根だった。去年には一度大輪の花を咲かせた。黄金色に輝く美しい花。沢山のそれらと変わりないのかもしれない。それでも、私にとっては特別な花。
「……捨てないとダメかな?」
母は「私にも経験があるわ」と写真を見せてくれた。「枯らしちゃった日の写真」
私は父親似だと言われるが、写真に写る若かりし母は、私に似ている。
少しだけ小麦色に焼けた肌、ニカッと笑う白い歯。それに、少しだけ腫れぼったい赤い瞳。
今の私にそっくりだ。
テーブルで俯いていると、母がそっとホットミルクを置いてくれた。
冬の匂いと甘い香りが混ざり合い、私の記憶の中へと溶けていった。
その日、少しだけ泣いた。
春になった。
桜の花の絨毯を歩き、降り注ぐ陽の光がキラキラと眩しい。
今日の黒いスーツは堅苦しいけれど、明日からは私服で学校に通う。間違えて制服を着ないようにしないと。
それから夏が過ぎ、秋になった。
ほんの数日前までは残暑が厳しいと思っていたのに、突然、涼しげな風が吹き始めた。
カーディガン、どこにしまったっけ。
秋は好きだ。ぐーっとゆっくり背伸びをしたくなる季節だ。お芋の美味しい時期でもある。
紅葉にはまだ早いけれど、冬に向かう季節の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
ほのかに金木犀の香りが鼻腔をくすぐった。ひんやりとした空気が肺を満たす。
「今度は何を植えてるの?」
ベランダに立つ私に母が尋ねる。
「関根」
もちろん次も愛情たっぷり注ぐつもり。
今度は何色の花が咲くだろうか。
<リスペクト>
『花の名』 BUMP OF CHICKEN
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