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ショートショート

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ちょっとした空き時間に3分程度で読める短編小説(ショートショート)をまとめています。皆様にとって、ちょっとした息抜きにでもなっていただければ幸いです。
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こちら池袋西口駅前夢置場終着地点

 鈍い音がした。  その音が響くのは、この店では日常茶飯事と言っても過言ではないだろう。  続いて怒号が聞こえてくるはずだ。 「お前! 俺の作品をゴミと言ったのか!?」  ゴミは言い過ぎだ、と私でも思う。実際にそうだとしても、作った本人に言う言葉ではない。それに、ゴミになるのはこれからだ。まだゴミではない。  怒りをぶつけた男性は、自らが倒した男性に向け暴言を吐き続ける。  殴られ暴言を突き付けられている人物こそ、この店の主である。屋内にもかかわらず着用しているダ

幻の伝記『カワワ・カ・ワカラ』

概要これは『マンガライターもり氏の好きなマンガを誰かと語りたいラジオ』にて開催された「人生に影響を与えてくれたマンガの台詞プレゼン大会」の優勝賞品としての短編小説です。 僕もプレゼンターとして参加してますので、宜しければ聞いてみてくださいね。 本編『カワワ・カ・ワカラ』「カワワ・カ・ワカラ」  1927年没。享年49歳。  その言葉を初めて聞いた時、咄嗟に思い付いたのは未開の地を探索した勇敢な冒険家の姿だった。探検家という職業柄、随分と威勢の良い男性かと思いきや、華奢

[ショートショート] ハロウィン電車は渋谷発

『こちら、渋谷のスクランブル交差点です。まだお昼過ぎですが、既に仮装姿の若者が目につくように——』  テレビやSNSではお決まりかのごとくハロウィンを楽しむ人々の様子が垂れ流されていた。  こちとら仕事終わりで疲れているというのに、世間はやたらと陽気に盛り上がっている。 「これだから渋谷がオフィスの会社は嫌なんだよ」  リモートワークなどというものは検討すらされず、いわば昭和型の古い働き方が当たり前の弊社では、いついかなる時でも出社が前提である。「人で溢れる前に早く帰

[ショートショート]バイシクルレース

 遠く向こうから雨の匂い。少し前から気付いていた。  胸のどこか奥の方が締め付けられるような感覚に、そっと涙と唾を飲み込む。  この自転車レースに出場することを決めたのは、ほんの数日前のことだ。  インターネット上のとあるサイトでは、「勝てば好きなものがなんでも手に入る」というまことしやかな噂が流れるレース。もちろんそれはあくまで噂であり、実際には地元で行われる小さな小さなしがない町興しのイベントでしかない。  それでも、胡色という孤島を気兼ねなく一周できるということで、

[ショートショート]若者のすべて

「真夏のピークが去った」  シムラくんが隣で言ってた。  夏真っ盛りだというのに、シムラくんはいったい何を言っているのだろう。  空を見上げれば、水色の絵の具をそのまま塗ったような青が輝いている。  例年よりも十日ほど早い梅雨明けだとテレビのニュースで聞いた。  入道雲は、まいにち欠かさず僕らの様子を観察している。絵日記でも付けているのかもしれない。  太陽は真っ黄色に染まり、その姿は日に日に派手になる。夏休み目前にして、既に夏休みデビューをしてしまったみたい。  シム

[ショートショート]We are,again.

「寒……」  両肘を抱えるようにしてスリッパを履いた。 「ただいま」と言ったところで、返事はない。  あなたはあの日に出て行ってしまったまま、帰ってきてはいない。  あなたのいない部屋はしんと静まり返り、体温を忘れてしまったように物悲しい。  周りを見回して、エアコンのリモコンを見つけた。  あなたはいつだってリモコンを放置してしまうのだから。毎回片付ける身にもなってほしい。  暖房をONにして、あなたの帰りを待つ。  膝を抱えながらソファに座ると、白銀に覆い尽く

[ショートショート]はじめてのニュー

 眠れない夜、決まって思い出すことがある。  あれは短い秋の終わり、冬の初めの、少しだけ息が白くなる日のことだ。  翌日はいよいよ狩りのデビューだという、10歳になる前日の夜の出来事だ。  俺たちの仕事は言うまでもなく、あの忌々しくも凶悪な魔物を狩ることだ。街や村などの傭兵として雇われ、狩りの対価として金銭や物品を受け取る。そのために特殊な訓練を受け継いだ一族である。  だが、簡単な仕事ではない。命を賭ける仕事である。  俺の兄貴は15歳にして、魔物に殺された。母も兄

[ショートショート]A BARD DAY'S NIGHT

 鳥になった夜。  いつぞやに「この大空に翼を広げ飛んでいきたい」と歌いはしたが、まさか本当に鳥になるとは思わなんだ。  鳥ってこんなに飛ぶの大変なのか……明日から鳥を見る目がわかりそうだ。鳥目だけに。  ……なんて変な駄洒落が出てしまう。  いやはや、疲れたなぁ、な夜。  丸太のようにぐっすり寝よう。  僕は鳥のように羽を休めることにした。  だが、あまりの出来事にすぐには眠れそうにない。  そう、全ては昼間のあの時から始まった。 「お前、飛ぶか?」  そう言

[ショートショート]Pool on the planet

「何が緑の星だよ」 「どこが大地の星なんだ」 「「ただの水の惑星じゃねーか」」  昨日、閃光系第5惑星ソラハルト所属ダイナ国シンマラン連隊第746番組の中尉と軍曹が地球征圧の視察に来ていたのは、皆さんには以前より説明しておりましたので、周知の事実だと思います。  ですが、皆さんの協力によって、危機は去りました。  我々の叡智を結集すれば、宇宙人の侵略から地球を守るなど造作も無いことなのです。  どうぞ、母なる惑星へとお戻りください。  全能なるAI『ゼウス』が喜びの音声を

[ショートショート]電波に乗せて

『頑張る君を、応援します』  強風にあおられたチラシが顔にへばり付いた。ぐっしょりと濡れた紙は軟体生物のようで、鳥肌が立つ。  チラシにはありきたりなキャッチコピーと共に、爽やかな笑顔の青年と優しく微笑む女性が、お互いにガッツポーズをしている写真が印刷されていた。  応援しなくても良いから、せめてまとわりつかないでほしい。 「行きは良い良い。帰りは辛い、っと」  コンビニの入り口に立ち、独り言を呟く。  人が足りないからどうにか入ってくれないか、と店長から打診を受けたコ

[ショートショート]チェリーボム

「愛してる……」  その響きだけが僕の鼓膜に飛び込んできた。  瀕死だった。  痛い、という感覚すら忘れるほどに死にかけている。  その日、東京が潰れた。  地震でもない、戦争でもない、大きな大きな生物が東京を優雅に闊歩した。それだけだった。それだけで、東京の機能は壊滅した。しかし、誰がそのような超巨大生物の存在を予期しただろうか。SF映画でもあるまい。  東京を壊した生物は「怪獣」と名付けられたと、後になって知った。  僕らの家もご多聞に漏れず、怪獣のお散歩によって半

[ショートショート]江ノ島ですか?

 埼玉のとある街のヤンキー。  喧嘩上等。唯我独尊。換骨奪胎。温故知新。中学三年生。  それが俺。夜露死苦。  今日も今日とて良い天気だ。  なので、授業なんてサボって、屋上で寝ていた。 「田中くん、ダメじゃん。授業サボっちゃ」  突然、女に起こされた。  目の前にいたのは、同クラの伊藤だった。 「んだよ。お前もサボってんじゃねぇか」  そういえば、コイツは学級委員とかなんとかのはずだったな。優等生ヅラしてる割にサボりとは、なかなかやりやがる。 「んー、私のはサボ

[ショートショート] 花の根

「おかーさーん。スポ根枯れちゃった」 「あら……残念だけど、もう捨てないとダメね」  高校1年生の時から3年弱育てた花が枯れた。1年持てば良い方と言われていた中でよく持った方だと思う。  毎日毎日、丁寧に丁寧に育てたスポ根だった。去年には一度大輪の花を咲かせた。黄金色に輝く美しい花。沢山のそれらと変わりないのかもしれない。それでも、私にとっては特別な花。 「……捨てないとダメかな?」  母は「私にも経験があるわ」と写真を見せてくれた。「枯らしちゃった日の写真」  私は

アルパカとたふるる〜第1回もり氏ラジオプレゼン大会〜

概要これは『第1回もり氏ラジオプレゼン大会』の優勝賞品としての短編小説。 勝利の女神はいったい誰に微笑むのか!? 本編 『あごたふとまるる』 いつの間にか沼へと引きずり込まれていた。  そこは偏愛の巣窟だった。右を見ても左を見ても、「普通」と言える人は一人もいない。誰もが狂気を孕んでいた。誰もが自らの愛を隠すことなく生きていた。  キャプテン翼、BLEACH、あだち充先生、日本橋ヨヲコ先生……誰もが愛という名の元に狂っていた。狂っていなければ、どうして声高に愛を叫び続け