[ショートショート]We are,again.
「寒……」
両肘を抱えるようにしてスリッパを履いた。
「ただいま」と言ったところで、返事はない。
あなたはあの日に出て行ってしまったまま、帰ってきてはいない。
あなたのいない部屋はしんと静まり返り、体温を忘れてしまったように物悲しい。
周りを見回して、エアコンのリモコンを見つけた。
あなたはいつだってリモコンを放置してしまうのだから。毎回片付ける身にもなってほしい。
暖房をONにして、あなたの帰りを待つ。
膝を抱えながらソファに座ると、白銀に覆い尽くされたあなたの故郷の写真が目についた。
その隣には、二人の写真が飾ってある。
いつか二人で行きたいね。
笑うあなたの写真を眺めながら、そっと呟く。
それからどれだけの時間が経っただろうか。
時計を見れば24時を回っている。窓の外を眺めれば、灯りの着いている家もだいぶまばらになっていた。
ふぅとため息を吐くと、息が白く濁る。
いつの間にかエアコンも消えていた。
寒さのあまり路地裏の片隅で生きていく子猫の様に、小さくうずくまる。
今日もあなたは来てくれなかった。
近くにあるケータイを操作し、二人で以前に行ったハワイの動画を眺める。
ふざけあって戯れあっている私たち。
ダイアモンドヘッドに登る途中で「大丈夫かよ?」と私に声をかけるあなた。「元気ですぅー」と口を尖らせて答える息切れ切れの私。
その一言は、懐かしさよりも、戸惑いを投げかける。
「なんで、死んだのよ……」
あの日から夜毎泣いている。朝目が覚めても、涙の跡が消えることはない。
いつか二人で行きたいね。
雪が積もる前に。
もう二度と会うことのないあなたとの約束が、私を待っている。
<リスペクト>
『Winter,again』GLAY
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