マガジンのカバー画像

This is 400字小説

186
400字程度で書かれた小説たち。ライフワークであーる。 2020年4月11日より2023年12月31日まで 「なかがわよしのは、ここにいます。」(https://nkgwysn.…
運営しているクリエイター

2024年6月の記事一覧

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「生きてるって言ってみろ」友川かずき

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「生きてるって言ってみろ」友川かずき

学校の屋上の淵に生徒会副会長の長崎がぎりぎりで立っている。生徒会会長の袴木と生徒会顧問の竹田が「冷静になれ」と説得。帰宅部の小山田はただ見守ることしかできなかった。

屋上には4人しかいない。3限目の授業中。小山田は腹痛を訴えて教室を抜け出しただけ。遠くを見ながらタバコを吹かしていたので、長崎が柵を越えたのを見ていなかった。袴木と竹田が緊張感ある声で長崎の名前を叫んで、やっと小山田は事態を把握。で

もっとみる
【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「神様の宝石でできた島」MIYA&YAMI

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「神様の宝石でできた島」MIYA&YAMI

「どっちかにしてくれ」と双子のアイオとオハイオがシンクロしてそのセリフを言った。まるで漫画『タッチ』のような恋愛模様が10年間続いていたんだけれども、ウタエはアイオのアゴの右下にあるホクロも、オハイオの左ひじのカサカサも愛しかった。永遠に仲良く3人で遊んでいたかった。なんならセックスだって3人ですればいいじゃんって思ってる、言わないけど。

アニメ『鬼滅の刃』のように熱狂的にふたりのことが好き。ふ

もっとみる
【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「もう恋なんてしない」槇原敬之

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「もう恋なんてしない」槇原敬之

「打者・大谷翔平対投手・大谷翔平はどちらが勝つかなんて誰にもわかんねえよ!」

思わずヒカルは大きな声を出していた。プリクラを撮っている最中。硬式野球部のマネージャーだったアヤノは、野球女子。プリクラを撮る際にまで、野球の話を持ち出してくる。ヒカルはサッカーにしか興味がないから、うんざり。

ならば別れればいいのだが、やはりそう簡単な話ではない。アヤノは瞳がうるるしているかわいい女の子で、男ならば

もっとみる
【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「悲しみは雪のように」浜田省吾

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「悲しみは雪のように」浜田省吾

温泉の卓球台でナナミはフガジと遊んでいる。ブラウン管テレビからは画質の悪いお笑い番組が流れていて、爆笑。「浜省とか長渕とかさあ、彼らのファンに憧れるフシがある」とナナミがラリーが続くよう正確に、フガジの打ちやすいポイントに打つ。「永ちゃんとか?」とフガジは初心者なりに丁寧に返す。
「若いアイドルにハマるのとは違うし、生き様まで真似るじゃない? 羨ましい」

ピン、ポン、ピン、ポンと続くラリー。

もっとみる
【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「すばらしい日々」ユニコーン

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「すばらしい日々」ユニコーン

夫のカズヤがカラオケで『すばらしい日々』を歌って号泣。妻・ヤマカは怒ってカズヤのレモンサワーをわざと倒した。「ふたりともどうしたの?」と中学生のサヤワが動揺。「お父さんに聞いて!」とヤマカの怒りは収まらない。カズヤは歌詞に昔の彼女を重ねた、それだけのこと。でも、家族の前で歌うべきではなかった。レモンサワー7杯も飲み過ぎだ。ヤマカの癇癪も、もちろん褒められたものではない。「気分を害した」という言葉で

もっとみる
【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「15の夜」尾崎豊

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「15の夜」尾崎豊

ケイイチの経営する音楽マネジメント事務所は波に乗りきれない。自分の手腕を疑っている、そんな毎日。娘のハイヤが15歳の誕生日を迎えた夜、「これ、聴いていい?」と尋ねてきて、驚いた。手にしていたそれはLPだったからだ。「どうしたんだ?」と聴くと、ライブに学校の高等部の先輩と行った際に買ったという。フィンランドからやって来たそのミュージシャンはLPしか作らない主義だそう。その心意気にハイヤなりに感動して

もっとみる
【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「飾りじゃないのよ涙は」中森明菜

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「飾りじゃないのよ涙は」中森明菜

ミズホほど泣き虫な女はいない。30歳だというのに人前で平気で泣ける。その年で独立するのは遅い方かもしれない。『NA/MI/DA//』という水着専門のブランドを立ち上げた。父親は有名なビジネススーツ専門のデザイナー。そんな親の七光りもあり、運営は順調。

彼女は優れた競泳選手だったけれど、高校2年の春に原因不明の右肩痛に悩まされるようになり、平凡な選手へと成り下がった。だから水泳はやめて、デザイン専

もっとみる
【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「ブルーでハッピーがいい」Chocolat

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「ブルーでハッピーがいい」Chocolat

ハヤトの青い車に乗っている、海に向かって。ギャンブラーのマユコは数年ぶりに帰国。「親からさ、ちゃんとした仕事に就くか、結婚しろって、言われてるんだよね」と助手席で愚痴を吐いた。「結婚する相手はいないの?」とハヤトが。「良かったらわたしとしない?」とマユコは返す。

「そんな気さらさらないくせに」
「嘘じゃないよ」
「嘘が上手じゃないとギャンブルの世界では
生きていけないでしょ、らしくない」

マユ

もっとみる
【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「The Song Of Love」谷口崇

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「The Song Of Love」谷口崇

国語の課題は「愛とは何か?」で、アヤカは照れ臭くて作文を書けなくて困った。母に聞いたら「お父さんに聞いて」。父は父で「それは生きながら学んで行くことだ」ともっともらしくはぐらかしたので大人はズルいとやはり思ってしまって。

クラスメイトたちもそれは同じで書きあぐねたらしい。ジョン・レノンの『LOVE』の歌詞をそのまんま書き写してきた男子もいて、先生に諭されていた。それで「この中で花丸をつけたのは一

もっとみる
【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「You Don't Know Me」Armand Van Helden

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「You Don't Know Me」Armand Van Helden

ジャは駅から遠いタリーズコーヒーに通い続けている。それは美人な店員がいるからで、馴れ馴れしく話しかけて、うるさいと彼女に叱られると快感だ。でも、彼女は既婚者。だからこそからかうようにうざ絡みができたのかもしれない。

そんな彼女に今日「あなたはわたしの何を知ってるの?」とキレられたのは、最高潮のうれしみだった。それは席に着こうとした時に、トレーが傾いて、朝食のスコーンごとコーヒーをぶちまけてしまっ

もっとみる
【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「カワサキZⅡ 750 Rock'n' Roll」ギターウルフ

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「カワサキZⅡ 750 Rock'n' Roll」ギターウルフ

「バイクには関心がない」ってずっと断ってるのに、しつこく誘ってくるアキにうんざり。厄介なのはアキの兄であるフユヒコに興味があること。大学の構内で頻繁にすれ違う。《ヤヨイちゃん》とフユヒコは呼んでくれるが、「弟をよろしく」という意味が込められているのをヤヨイは知っている。

アキには家がバレているから引っ越したいが、お金もないから諦めていた。昨晩、アキのバイクのドドドが聞こえたので、部屋にいたヤヨイ

もっとみる
【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「SUN MYSELF」Husking Bee

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「SUN MYSELF」Husking Bee

「《太陽》って名前が重い」が彼の口癖だった。部屋の上部にある横長の窓ガラスにはアスファルトの地面が広がっている。自転車と歩行者の足。排水溝の匂いがうっすらしている。陽光にはお目にかかれない。家賃が安かったから、部屋を借りた、マンション街の下に半分埋もれて。

太陽の彼は暗い性格で名前負けしている。彼女はいない、一度もいない。28年間を太陽自身に捧げてきた。死んだ父親が名付け親で、その理由は想像でき

もっとみる
【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「あぱんだ」吉田一郎不可触世界

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「あぱんだ」吉田一郎不可触世界

デパートの喫茶店が、アーケードの一角にて再営業、デパートが潰れたので。前の店舗でトモハルの浮気が原因で喧嘩になりユキと別れたのだが、復活したカフェブラジルにてユキと再会。「どうして男の人って別れた女に連絡してくるの?」って筆談で伝えられても、嫌味だとも勘ぐらずに笑ってた。「今まではどうしてたわけ?」とトモハルが返すと「スルーしてきたよ」とユキが書いた。「じゃあ、なんで会ってくれるのさ?」と綴ると「

もっとみる
【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「Hello」スーパーカー

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「Hello」スーパーカー

筋トレの休憩のインターバル中に「昔、『ハウ・ロー?』ってあいさつするの流行ったよね?」と秀実が弘人に聞いた。

「ニルヴァーナのあの曲? 全然流行らなかった」

時間が来てふたりは再びショルダープレスにトライセップスエクステンションを。苦しそうなうめき声がジム内に静か広がる。午後11時過ぎ、利用者はまばらだ。1分後、再びのインターバル。

「俺たち生活の余裕はあるじゃん。それって芸人として失格なの

もっとみる