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400字小説

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400字程度で書かれた小説たち。ライフワークであーる。2024年1月1日午前7時オープン!
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2024年5月の記事一覧

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「To Zion」ローリン・ヒル

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「To Zion」ローリン・ヒル

放課後に黒板を消していたらエツシがひとりで戻ってきた。ハルナは驚いて、手を止めてしまう。「今日の日直、近田さんだけ?」ハルナは「ううん、村山くんもだよ」と言うのが精一杯で、息継ぎがうまく出来ない。それでいてエツシが日直の手伝いをしてくれることを期待した。

しかし、自席の引き出しから何かを取り出すと「悪いけど、サヨナラ」と言って教室を出て行こうとする。手伝ってよ、と言う図々しさをハルナは持っていな

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「Smooth Criminal」マイケル・ジャクソン

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「Smooth Criminal」マイケル・ジャクソン

眠たかった。オオタはイートインコーナーでパン食ってる。満員電車で財布をすった。犯行後すぐに降りた駅ビルのパン屋で待ってる。財布の中身を何食わぬ顔で確認。2万9000円と小銭がじゃらじゃら、悪くない。なかなか良い仕事だったなとラッキーを持ってる。いつか捕まるのはわかってる。早いか遅いかだけの違いだし、現行犯逮捕されても、釈放されれば繰り返すに決まってる。それがオオタの生き方だからだ。

仕事はできな

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「My Way」フランク・シナトラ

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「My Way」フランク・シナトラ

ラジオからシナトラが。洋一は自動車修理工場でオイルまみれになりながら、汗を流している。車の下に潜り込んている時、上司から昼休憩を取るように言われる。工具もあまり散らかすなよと、親に言われるような感覚で、少し苛立った。

誰も洋一を一緒に昼ご飯を買いに行こうと誘わない。でも洋一は気にしていないし、むしろその方が気楽。談笑しながらテーブルを囲むものも苦手。自分が声を掛けられない理由は知らないが、気には

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「夜に駆ける」YOASOBI

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「夜に駆ける」YOASOBI

カーステレオから流れる曲を聴きながらヨミは言う、赤信号。

「ヨアソビ、『夜に駆ける』が素晴らしすぎたから、そこで止まっちゃってる」

それでもYOASOBIのアルバムをヨミは全部購入したし、DVDだって持ってる。ライブには行っていない。なんとなく怖くて。

「彼氏に誕生日プレゼントもらって、嬉しいんだけど、開けるのがもったいないっていうか、怯むっていうか。あの気持ちに似ている」

ヨミの例え話は

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「Firestarter」ザ・プロディジー

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「Firestarter」ザ・プロディジー

「自殺は良くない。上島竜平とか竹内結子とか天国に行けてない」
「そんな一言で済ませられない。簡単な問題じゃない」
「いけないものはいけない」
「死にたいって思ったことないの?」

そう言われて言葉に詰まったユウジ。自宅で首を吊ろうとしたことがあったのだ。何本も繋いで作ったネクタイのロープの輪っかに首を通したまでは良かった。でも、怖くて乗っていた踏み台を蹴飛ばすことができなかった。あの時の屈辱感は忘

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「Arcarsenal」アット・ザ・ドライヴイン

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「Arcarsenal」アット・ザ・ドライヴイン

「童貞ちゃうわ!」って陽が叫んだら、騒がしかった教室が静まり返って、どか~んとウケた。こっそり付き合っているひろみは赤面してクラスを飛び出した。高校受験生だというのに、夏はまだだからか、みんなに緊張感がない。

昼休みが終わってもひろみは戻ってこなかった。陽は午後の歴史の授業を窓の外から見ながら過ごす。「波多野!」と陽は呼ばれた、3回目で気づいた。教壇の教師が「今のところ読んでみろ」と言うので「聞

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「Sabotage」Beastie Boys

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「Sabotage」Beastie Boys

授業をサボったJKを駅前でハントしているアキオはどうにか寝技に持ち込みたいと考えていた。捕まったら捕まったで書いている小説のネタになるだろうって軽率に。犯罪の味を試食してみたかった。JKはアキオを足蹴にしたが、持ち前の粘り越しで声を掛け続ける。「うざいんだよ、おっさん」なんて言葉は聞き慣れている。むしろ闘争本能に火をつけられる。「LINE交換してくださいよ~」と30歳年下に敬語で。

するとパトロ

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「Scentless Apprentice」ニルヴァーナ

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「Scentless Apprentice」ニルヴァーナ

「気が狂ってしまいたい」がオバタの口癖で、鬱病。ベビースターラーメンつまんでいる場合じゃなかった、缶チューハイ。アルコール中毒で人生破滅の危機だったのだ。「今ならまだ間に合う」と主治医に言われて、オバタは反省の弁を口にしたが、その夜には酩酊。いろんな人を裏切っていると知りながら、やめられないとまらない、カルビーかっぱえびせんだったらどんなに良かったか。

その晩、気が狂うことを選んだ。わけがわから

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「くそったれの世界」The Birthday

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「くそったれの世界」The Birthday

「ホントは死んでない」酔うと亡くなったチバユウスケのことばかりをニイミは話す。「チバよりカッコいい男はいない」と公言している。そんな気持ちが強いから、美人なのに不思議と男が寄りつかなかった。40代独身、女、女、女。

ニイミの相手をするのはユウタで、ふたりは友だち。ニイミは男女の友情は成立すると考えている派。「お前よりきれいな女はいない」とユウタもふざけて言う。いつも通り、ふたりでカラオケ、狭い個

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「Dynamite Walls」Hayden

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「Dynamite Walls」Hayden

新宿中央公園に20年くらい行っていない。夜に行為に至ったことをシゲルは今でも覚えている。夏だったなって。ユウコにはあれ以来会っていない。最後になった夏。

もしシゲルが東京へ旅に行くことになったら新宿中央公園に行くだろうか。多分、行かないとシゲルは答える、多分。東京に行ってもTDLしかいかないだろう、家族と。それにあそこは千葉。東京駅構内すらからも出ずに、東京をスルーして、旅。

妻はユウコのこと

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「BRIAN DOWN」Thee Michelle Gun Elephant

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「BRIAN DOWN」Thee Michelle Gun Elephant

「ザ・ローリング・ストーンズは結成当初はブライアン・ジョーンズっていうヤツがリーダーだったんだが、奇しくもストーンズによって葬り去られた男として有名」というような意味のことをベッドの中で裸の男に言われた。優梨はSixTONEにしか興味がないのでどうでも良かった。早く時間が来ないかとうんざりしていた。ただ天井の顔のようなシミを無で見つめている。それでも男は話すのをやめない。

「ザ・ビートルズは去年

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「ハイブリッド レインボウ」the pillows

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「ハイブリッド レインボウ」the pillows

29歳。人生を劇的に変えられるとしたら今しかないと。ユミオは新しくギターを買い、新しいエフェクターとギターアンプも買った。やめようと考えていたバンド活動は続けることに。過去最大の動員数を記録した日比谷野音以上のライブすることを目標に設定。メンバーに嫌われてもいいから、ナアナアではなく、してほしいことを言ったり、嫌な役割も引き受けて、小言も言うようになった。「お前、どうしたんだよ」って当然メンバーた

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「Born Slippy(Nuxx)」アンダーワールド

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「Born Slippy(Nuxx)」アンダーワールド

「2回鳴り終える前に全部済ませないと死が待っている」ってあずみは言われてわけがわからなかった、当然。キックの音が気持ち良かったのが救い。

でも、いつかテレビで見たときはイメージと違ってがっかりした。アレがターニングポイントだったのかもしれない。「両手を挙げて祝福のポーズを」とか「大声で叫んで祝祭の誓いを」とかってこともついでに言われて、いよいよ追い込まれた。「生きてるとわからないことばかりね」と

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【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「No Surprises」レディオヘッド

【なかがわよしのの61曲カヴァー企画】「No Surprises」レディオヘッド

「マキコちゃんがレディオヘッド好きだって言うから聴いてみたけれど、さっぱりわかんなくてさあ」

太一は洋楽を聴かない。

「別に無理して好きになろうとしなくていいんじゃね?」

要次は淡々と返す。人の恋愛には興味がないタイプ。コーヒーが苦くて顔もしかめない。続けて言う。

「恋なんてめんどいだけじゃんかよ。俺は静かに暮らせればそれでいい」
「マキコちゃん、かわいいと思わない?」
「そうだな、めんこ

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