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いまの政治を考える|西田亮介さん選書フェア@ブックファースト新宿店

 このたび、ブックファースト新宿店さんにて『ぶっちゃけ、誰が国を動かしているのか教えてください』の刊行を記念したフェアを開催いただくことになりました。

 『ぶっちゃけ、誰が国を動かしているのか教えてください』は、昨今揺らいでいる民主主義の価値や、政治家やメディアに対する不信感などについて、コストとインセンティブの観点から論じた一冊です。

 本稿では、西田亮介さんの選書をコメント付きで紹介していきます。選書は『ぶっちゃけ、誰が国を動かしているのか教えてください』の「次に読む本」、「いま考えたい命と価値」、「最近のメディアと政治について」の3つの視点で構成いただきました。ぜひ、みなさんが書店で本を選ぶ際の参考としてご活用ください。

フェアによせて

 入門書は当然わかりやすく書くのが定番ですが、一歩間違えると「子どもだましの綺麗事」にとどまってしまいがちです。そうなるとつまらないのですが、入門書のページをちょっとめくってみればそんな本ばかり。

 それに対して、本書『17歳からの民主主義とメディアの授業 ぶっちゃけ、誰が国を動かしているのか教えてください』は、むしろ、大人が躊躇してしまうような素朴な好奇心、たとえば「自民党ってすごいの?」「マスメディアはどこか信じられないの?」といった政治やメディア、民主主義にかかわる問いに、前提知識不要で読めるようにしつつも可能な限り具体的にぼくなりの回答を試みています。「自民党はすごい」と理由とともに言い切っています(ぜひ理由は本書を読んで考えてみてください)。

 しかしよく考えれば「自民党がすごい」ことをいったん認めなければ、自民党を倒すこともできないのではないでしょうか。大人も、学校の授業もこうした問いから逃げ、中立であろうとしすぎているように感じてしまいます。何かを選ぶとき、とくに選挙で投票するということは誰かを選ぶことで、何らかの意見や立場に偏ることであるにもかかわらず、です。とはいえ、本書は奇妙奇天烈な逆張りではありません(たぶん)。

 この選書は、本書で直接言及したり、言及しなかったものの、ぼくの考え方に影響を与えた本をいくつか集めてみました。コンセプトは「本書の次に読んでほしい本」「命の価値を考える本」「現代のメディアを知るための本」です。もちろんほかにも読んでほしい本はたくさんあるのですが、ひとまず教科書(的な本)、比較的読みやすい本、ちょっと難し目の本を見繕ってみました。

 ぱらぱらと手にとっていただき、本書とともにお買い上げいただければ週末の読書と、本書からさらにもう一歩豊かな知の世界に踏み込むことができるはずです。

西田亮介

『ぶっちゃけ、誰が国を動かしているのか教えてください』の次に読む本

『もういちど読む山川日本戦後史』老川 慶喜 著
『もういちど読む山川世界現代史』木谷勤 著
(ともに山川出版社)

 本書のなかでも言及したように、多くの現代の社会問題、政治問題には文脈が存在します。それらがアイデンティティや根源的価値と結びついている場合には補償や経済的手段では解決できないことがあります。政治的な選択も同様です。
 社会問題や政治を考える大前提ですが、日本の教育では受験事情などの都合で、戦後史、現代史が日本史、世界史ともに不足しています。またネットで安易に目につく、不確かな知識も蔓延しています。議論の大前提として、日本と世界の戦後史の基本的な知識を補うべきと考えます。そのような目的に適うオーソドックスな2冊。

『社会学講義』橋爪大三郎/大澤真幸 著(筑摩書房)
 
最近、社会学は評判があまりよくありません。学問としての体系の弱さは弱点でもありますが、最近はむしろ強みでさえあるという指摘もなされているのです。
 「社会(秩序)とはなにか?」を問う社会学と隣接分野の動向、そして連字符社会学(都市社会学など)を大掴みにできる入手可能な新書のなかでは
かなりよくまとまっている一冊。ネット言説でも社会学批判をよく見かけますが、一歩立ち止まって「そもそも社会学ってなに?」を知ってほしい。

『民主主義の死に方』スティーブン・レビツキー/ダニエル・ジブラット 著/濱野大道 訳(新潮社)
 
橋爪/大澤『社会学講義』にもあるように、社会的非拘束性に対する懐疑を向けるのが社会学のひとつの役割だとすれば、理論/現実の「民主主義」は、いったいどのような前提条件のもとで成立するのでしょうか?
 現代アメリカのトランプ政権下における混乱を取り上げながら、筆者らは「柔らかいガードレール」に注目します。アメリカにおけるそれと、日本における「柔らかいガードレール」は必ずしも合致しないでしょう。後者はいったいどのようにして可能なのかということを考えながら読みました。

『民主主義 〈一九四八‐五三〉中学・高校社会科教科書エッセンス復刻版』文部省 著/西田 亮介 編(幻冬舎)
 かつて、世界が冷戦という名の新たな対立が鮮明になる頃、日本に『民主主義』という名を冠する授業がありました。大江健三郎のエッセイなどにも取り上げられたことで知られています。
 世界が再び対立に向かうなか、そして日本が敗戦、民主化、再独立への途を歩むなかで、ある意味もっとも社会全体が民主主義と真剣に向き合わったし、向き合わざるをえなかった時代に、「民主主義」は教育のなかでどのように取り上げられたのでしょうか。取りまとめた尾高朝雄というユニークな法哲学者による現代の教科書では考え難い大胆な筆致、そして、投票年齢の
引き下げや「公共」「歴史総合」などによって本格化した現代日本の主権者教育とあわせて、それらの在り方を考えてみたい一冊です。

『大学教育について』J.S.ミル 著/竹内一誠 訳(岩波書店)
 
大学教育で行うべきは、教養教育か、それとも専門教育か。現代日本でも延々続く対立です。ミルは前者にこそ大学教育の要諦があると明確に言い切る名著です。
 中等教育の教科書でも必ずと言ってよいほどに名前を見かけるミルですが、実際の仕事を読んだことがあると言う人は多くはないかもしれません。自由や代議制、そして「女性の解放」について、案外、平易で理解しやすい先駆的でありながら、今、読み返しても示唆に富むビビッドな論点を含んでいます。大学教育という身近な主題についての講演録ということで、ミル入門にも適した一冊です。

『デモクラシーか 資本主義か』ユルゲン ハーバーマス 著/三島憲一 訳(岩波書店)
 
討議倫理や理想的発話状況という揺らぎを有する概念を導入しながら、理論と実践の双方に多くの仕事を積み重ねているハーバーマス。
 現実の近代に対して、「可能でありえた近代」という「理想」をモデルに時代診断を積み重ねました。 しかし、その仕事は決して浮世離れした非現実的なものではなく、NATOのユーゴ介入肯定など、理想主義的左派からは厳しく批判されるリアリティを持ったものでした。
 そんなハーバーマスの欧州観、現代観をハンディかつリーズナブルに知ることができる一冊。

『増補ハーバーマス――コミュニケーション的行為』中岡 成文 著(筑摩書房)
 あまりに多くの理論と時代診断に関わる仕事を、しかも発展させながら残しているハーバーマスですが、おそらく現代ではガイドがなければ近寄り難い存在になっています。
 いくつかの解説が出ていますが、人となり、理論の発展を比較的平易に解説しており、ガイドの一冊目になりうる著作といえます。ハーバーマスが第2世代に位置づけられるフランクフルト学派を解説する細見和之『フランクフルト学派』(中公新書)とあわせて読むと、ハーバーマスとその知的、社会的、時代的位置づけが朧気に浮かび上がってくるはずです。

いま考えたい「命と価値」について

『わが息子・脳死の11日 犠牲』柳田邦男 著(文藝春秋)
 長く続くコロナ禍で社会と人に多くの不安と不満が蓄積して、最近ではとにかくコロナ前に戻そうという機運が高まっています。
 コロナに対してどのような対応を取るべきかという規範は社会や国ごとにかなり異なることも明らかになってきました。命にかかわる、しかし世代や基礎疾患の有無によって異なるリスクに対して(どの程度)防衛的であるべきか、積極的であるかは自明ではありません。
 しかし、少なくともそこには命の優先順位付けの問題が存在していることは想起されるべきです。そしてそのとき過去のインシデントとその対策を知ることはとても重要です。近年でも、脳死、尊厳死を巡る問題、狂牛病、新型インフルエンザなど教訓の対象は少なくありませんが、一般にはすっかり忘れられています。今こそ思い起こしてみるときではないでしょうか。
 ノンフィクション作家として著名な柳田邦夫は次男が脳死状態になる経験をしています。親として、人間として筆舌に尽くし難い経験を記した本書は分量こそ薄いですが、読み応えのある一冊です。

『朽ちていった命 ー被曝治療83日間の記録ー』NHK「東海村臨界事故」取材班 著(新潮社)
 
東海村臨界事故は日本でのはじめての臨界事故でした。作業効率向上のために、安全を度外視した裏マニュアルが存在し、臨界事故が発生し、若い作業員の命が失われることになりました。当初、意識もはっきりし、外見上も大事故を経験したようにおもえない状態から、長い時間と想像を絶する苦痛を経て死に至ってしまいます。本書もまた極限状況における死、そして尊厳を考えるにあたって大きな示唆を与えてくれます。

『命の価値 規制国家に人間味を』キャス・サンスティーン 著/山形浩生 訳(勁草書房)
『最悪のシナリオ 巨大リスクにどこまで備えるのか』キャス・サンスティーン 著/田沢恭子 訳(みすず書房)
 
行動経済学と法、規範の議論の端緒を開いた米憲法学の大スターの仕事。リスクの性質ごとに、政策決定者や行政担当者がどんなバイアスに引きずられがちなのか、そのバイアスへの警鐘を鳴らします。
 『命の価値』などという題名から、ともすれば「正確に計測して適切なコストベネフィットを」というような結論を想像してしまいがちですが、サンスティーンの提案はまったく異なる鮮やかな理路を示します。サンスティーンは多くの仕事を積み重ね、翻訳も多数出ているにもかかわらず日本ではあまり読まれていない印象です。もっと読まれるべきです。

最近のメディアと政治について

『フェイクニュースの生態系』藤代裕之 著(青弓社)
 ロシアのウクライナへの軍事侵攻を巡って、安全保障の文脈でも急速に偽情報、フェイクニュースへの関心が高まっています。しかし対抗的措置に主眼が置かれています。まずは偽情報とその対策について理解を深めることが重要です。
 外資系事業者が情報公開に消極的なこともあって、日本語圏におけるその対策は不透明ですが、本書は日本における偽情報、事例、課題について考えるうえでまず手に取るべき一冊といえます。

『デジタル・デモクラシーがやってくる! AIが私たちの社会を変えるんだったら、政治もそのままってわけにはいかないんじゃない』谷口将紀・宍戸常寿 著(中央公論新社)
 日本の政治学と法学それぞれの泰斗がホストになって、AIや政治行政分野におけるDXやその課題を、各分野の論者とともに検討しています。研究会のコンテンツがベースになっているので、問題の所在を広くざっくばらんに把握するのに向いた一冊です。

『メディア不信 何が問われているのか』林香里 著(岩波書店)
 情報を社会に広く流通させる役割を持つメディアですが、いつの時代もメディア不信が存在しています。
 本書が偽情報が跋扈する時代において重要なのは、情報(コンテンツ)の正確さ/不正確さと、メディア不信が別の水準に存在することを世界各国の豊富な事例とともに喝破している点です。信頼されない媒体で流通する情報はやはり信頼されないとすれば、メディア環境の大きな変化、メディアの読まれ方が変わる時代における偽情報対策はとても難しいことが容易に想像できますが、案外、丁寧に検討されていない印象です。 メディア不信を巡るコンテクスト理解の第一歩に。

『現代メディア史 新版』佐藤卓己 著(岩波書店)
 定評あるメディア史の教科書の新板。偽情報もそうですが新しい問題の対策を考えるというとき、必要なのは何も新しい技術やサービスだけではありません。
 同じような構造の問題が幾度も繰り返されてきたということを知ることもまた重要です。人の歩みとともにあったメディアと、近代以後、急速な発展を遂げたメディア研究の双方に目を向けていきます。

『AIと憲法』山本龍彦 著(日本経済新聞出版)
『AIの時代と法』小塚荘一郎 著(岩波書店)

 AI技術の開発と普及が進んでいます。自動運転、顔認識、翻訳など枚挙にいとまがありません。AIと開発過程はこれまでの社会に、個人情報、プライバシー、表現の自由などに多くの新しい倫理的、社会的、法的課題を突きつけています。
 「技術やサービスの開発はどうなされるべきか」「個人情報の収集と利用はどうあるべきなのか」といった問いは、イノベーションと人間の尊厳の両立の在り方などにも大きな影響を与えます。AIに関連する憲法的、法的課題として捉えるときに読むべき書籍です。

『NHK 新版 危機に立つ公共放送』松田浩 著(岩波書店)
 近年、公共放送の在り方が大きく揺らいでいます。これまでの幾度かのスキャンダルや受信料水準に関心が向きがちですが、そもそも公共放送の公共性とはいかなるものでしょうか。そしてNHKとはそもそもどのような存在なのでしょうか。
 NHKは近年放送を幹とする「公共メディア」という概念を提供していますが、放送法は公共「放送」であることを求めていますが、放送それ自体が縮小する時代が来るなら現代NHKが果たしている役割を将来にわたって果たしていくことはそもそも可能なのでしょうか。
 そしてもしかするとすでにそんな時代が来ているのかもしれません。他のメディアはその役割を実際に担うことはできるのでしょうか? 実は公共放送を考えることは多くのメディアの問題を考えることに繋がっています。あまりハンディな一冊が見当たらないなかで、本書は比較的その役割に向いていると考えます。

店舗情報

ブックファースト新宿店
▽アクセス
〒160-0023 東京都新宿区西新宿1-7-3 モード学園コクーンタワー
地下1階・地下2階
▽最寄り駅
JR、小田急、京王、東京メトロ、都営地下鉄「新宿駅」
▽フェア開催期間
5/21(金)~7/8(金) Eゾーン政治・社会売り場にて

 本稿を読んで、「フェアを開催したい!」となった書店員さんがいらっしゃいましたら、ぜひ日本実業出版社営業部までご連絡ください!
営業部:03-3268-5161


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