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読書紹介 そういえば読んだことない 編Part8 『ゼロの焦点』

 どうも、こぞるです。
 本日ご紹介するのは、松本清張先生による名作『ゼロの焦点』です。もう60年以上前の作品ではありますが、2009年の映画化を含め、数多く映像化されていることもあり、タイトルを聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。

ー作品内容ー
 縁談を受け、広告代理店に勤める十歳年上の鵜原憲一と結婚した禎子。本店勤めの辞令が下りた夫は、新婚旅行から戻ってすぐに、引き継ぎのため、前任地の金沢へ旅立った。一週間の予定をすぎても戻らない夫を探しに、禎子は金沢へ足を向ける。北陸の灰色の空の下、行方を尋ね歩く禎子は、ついに夫の知られざる過去をつきとめる。

 船越英一郎さんのメインポジションでも知られる崖の上ですが、あの演出の原点はこの作品だそうです。

社会派ミステリーと日常ミステリー

 この物語は、新婦である主人公の禎子が失踪した夫を追いかけ、その過程でおこる様々な事件に疑問を抱き、真相を確かめて回るという構成になっており、これは例えば宮部みゆき先生の『火車』であったり、海外ドラマの『CSI』シリーズなどのような、断続的な謎解きが魅力となっています。
 しかし、この謎解きというのは、あくまでこの作品を書くにあたって、作者である松本清張先生が実際にその時代を生きていて伝えたいと思ったテーマや思いついた疑問、そういったものを表現するためのツールとしての色が強く描かれています。社会を表現するために謎解きという「ガワ」を着せているんですね。 
 今作においては「パンパン」と作中で表記される戦後の米軍相手の娼婦たちの存在への疑問がそれにあたりますが、こういった社会の問題やズレを取りあげたミステリーというものを、そのまま社会派ミステリーと呼んでいて、その呼称自体ちょうどこの作品が世に出された時期に一般化されたようです。シリアスで重厚なイメージの作品が多いです。

 一方、日常ミステリー(日常の謎とも)というのは、殺人などの重罪は起こらないものの、普段の生活の中で生じる少しの疑問を解決するものとなっています。友達のなくし物探しといったものも含まれるため、コメディー作品も多く存在します。当アカウントの記事でも何作品か紹介していますので、お時間あればご覧ください。→これ や コレ や 此れ など。

 この相反するように見える2種類のミステリーですが、どちらにも共通するのは、その時代がみえるという部分です。筆者による世の中への視点
 舞台は1958年ごろ。この記事を読んでいる人の99%以上が知らない世界でしょう。そんな時代を見通す視点も、この作品の面白さと言えるでしょう。

作者の存在

 序盤で失踪してしまう主人公の夫である鵜原憲一は、新聞に載せたりする広告の代理店をしているのですが、松本清張先生も朝日新聞社の広告部で働いていたそうです。作中にでてくる登場人物の職業が作者の昔の仕事だったというのは、リアリティを出すためにもよく用いられますが、この作品でも広告業について細かい描写がされており、当時の仕事がわかって面白いです。

 それから読んでいると、『砂の器』では方言が謎の一部になっていたり、この作品でも「パンパン」によるスラングが混じりまくった英語に触れていたりと、作者の言語への興味も見て取れます。
 それこそ、当時は言語学者としてもしられる柳田国夫さんが朝日新聞にいたこともあるため、時世や状況によるものがあったりするのかもしれません。

焦点が0の意味

 目を引くタイトルでもある『ゼロの焦点』。作中でこの意味について明確な言及はありません
 中学生の時に凸レンズの勉強で知った方も多いのではと思いますが、焦点は光が集まるところですね。それが0であるというタイトル。
 疑問に思う方が多いようで、yahoo知恵袋にも質問があり、このような回答が取り上げられていました。他の書評ブログなんかにも引用されていますね。

https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1413738584 
より引用
「光輝いているのにその明るさは無いに等しい」という意味ですから、虚栄とか虚飾といった言葉に言い換えられます。
名誉ある立場にありながら、それを打ち消すような恥ずかしい過去がある登場人物を、このタイトルで表現したかったのでしょう。

 すごく素敵な解釈で一理ありますが、私としてこれ以外にも、0=始まる前という意味も込められているのではないかと感じました。
 光り輝く焦点へ出発する前の0地点、そこに全ては起因した。といったような。
 0って言葉には色々な意味が含められるので、人によった解釈が見られそうですよね。「こういうのどうですか?」ってのがあれば、ぜひお聞きしたいです。

さいごに

 何となく、映画のCMなどで、堅苦しく重たい文章を想像して、敬遠していたのですが、わりかし読みやすく、物語もポンポンと進み且つ、謎の解説も丁寧です。
 やはり日本の戦後推理小説の黎明期だからか、時折出てくる今はあまり使わないような語彙であったり(あまり多くないですが)に慣れてしまえば、推理小説初心者にもオススメできる作品となっております。
 私と同じような理由で手にとっていない方がいれば、それは杞憂になるかと思いますので、ぜひ、お手に取ってみてください。

それでは。




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