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ヲススメラヂオの小説 part4 『アルジャーノンに花束を』

 どうも、こぞるです。ヲススメラヂオ第4冊目で鈴木ももさんに紹介していただいた、ダニエル・キイス作『アルジャーノンに花束を』について書いていきたいなと思います。他の記事のような紹介文より、少し内容に触れたものが多いかもしれません。ご注意ください。
 ラジオは以下のリンクから別ページに行くとありますので、先に聞くと、よりこれを書いている奴が何を言いたいのかがわかりやすくなるかと思います。20分ですので、課題や作業のおともにいかがでしょうか。

 ラジオでも述べていますが、この物語は、主人公のチャーリー青年が、外科手術によってどんどんと頭が良くなっていくという過程を、彼が書く経過報告書によって見せるという手法を取っています。
 ですので、チャーリーの知性によって文が変わっていったり、彼が理解できないものはわからないものとして描かれたり、描かれすらしなかったりします。

チャーリーと怪物

 その知性が変わっていくという過程で、面白かったのは、情操との折り合いです。IQが20違うと、普通の会話が合わなくなるなんていう説を聞いたことがありますが(IQの信憑性、信頼性は置いておいて)、チャーリーは作中でそれが3倍近くになっています。それもかなり短期間に。
 自分の変化に気持ちが追いつかなくなるというのは、思春期などの時期に誰しも多少は感じたことのある感覚なのではないかと思うのですが、彼の場合は、それをギュッと濃縮して、160km/hでぶつけたみたいなことが起きています。

 少し変わって、以前に『フランケンシュタイン』の記事(こちら)を書いたのですが、あちらでは、情操のみが先行して、知性を後天的に得るという真逆の道筋を辿っているのが印象的です。
 『フランケンシュタイン』を最古のSFの1つとして捉えている方も多いとのことですが、それから150年近くたって、今作がSF作品として生まれたというのは非常に面白く感じます。

天才の責任

 圧倒的な才能というものを持つと、凡人はそれに責任を持つように投げかけてきます。芸能でもスポーツでも同じですよね?
 アメリカンコミックなどではヒーローがその責任を押し付けられています。
 これらは例外なくチャーリーも背負わされることになりますが、チャーリーはそんなものがあることを、それに対面するまで知りません。
 子供というのは経験がないため、その場その場で解決しなけらばならない。この純真さというのは第三冊目のヲススメラヂオ『夏の庭ーThe Friendsー』でも触れましたが、チャーリーの場合は、それを30代になって、大人になって一気に直面し、それをいっぺんに解決できる頭脳を持ってしまったのです。
 そこへ苦しみもがきながら立ち向かっていくチャーリーは、一見すると性格が横柄になってしまったようにも見えますが、その苦しみを想像すると、涙が止まりませんでした。

裸の大将に花束を 

 私が今回読んだのはハヤカワ文庫で2015年に発行された新版でして、こちらには翻訳者の小尾芙佐さんの訳者あとがきが数ページあるのですが、その中で、チャーリーの知能が低い時の文を訳すときに、裸の大将として知られる画家の山下清さんの放浪日記を参考にしたと書いてありました。
 それだけ下手で読みにくい日本語だけれど、だいたいの日本人は全て意味がわかるようになっています。本当にすごい。

 余談ですが、どうしてこのようなことができているかというと、統語的に正しく語が並んでいるからというのが大きいでしょうね。簡単にいうと、主語述語や動詞形容詞名詞の並びが間違っていないからです。
 例1:ぼくわ おにけわ あまり たべたんくないからたべないんだよ。
 例2:あまり ぼくわ たべないんだよないからたべたんく 
おにけわ
 上の二つだと、おそらく例1の方が読みやすいのではないでしょうか。たぶん。だといいな。 
 本当に日本語が下手な外国人の言葉はわかりにくいけど、お笑い芸人が外国人のふりをして話すのは訛っていてもわかるのと同じ理屈です。ネイティブスピーカーは子供であっても、知能指数が低くても、ここは間違えることが少ないです。
 こういう部分を踏まえつつ、見事に表現しきった小尾芙佐さんにスタンディングオベーションを送りたいものです。

さいごに

 後半、物語が佳境になり、チャーリーが苦しんでいるときに、経過報告の日付に私の誕生日が出てきて、ドキッとしました。別に何の関係もないんですけど、急に何かを掴まれた気がして、心拍があがりました。
 秋生まれの人は体験できるかも?

 読もうと思いつつ読んでいない名作が多い中、ラジオに来てくださり、名作を読む機会をくださった鈴木ももさん、本当にありがとうございました。

それでは、このへんで。







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