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読書紹介 ミステリー 編Part7 『クラインの壺』

 どうも、こぞるです。
 今回オススメするのは、岡嶋二人先生で『クラインの壺』です。
 どの視点から語るか悩んじゃう、1989年に出版された"岡嶋二人"先生の最終作です。

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-作品内容-
 ゲームブックの原作募集に応募したことがきっかけでヴァーチャルリアリティ・システム『クライン2』の制作に関わることになった青年、上杉。アルバイト雑誌を見てやって来た少女、高石梨紗とともに、謎につつまれた研究所でゲーマーとなって仮想現実の世界へ入り込むことになった。ところが、二人がゲームだと信じていたそのシステムの実態は……。現実が歪み虚構が交錯する恐怖!

 読後の心拍数が大変なことになりました。そのせいで、夜中に寝ずにこの記事を書き始めています。良い意味でですよ。

岡嶋二人先生って…?

 まず、上でわざわざ""こんなマークで挟んだ岡嶋二人先生について、変わった名前だなあという気がしませんか?一人でかずとさんはたまにいますが、そもそも二人さんって、なんと読むのだろうっていう。これは、もうそのまま「おかじま ふたり」と読みます。そう!その名の通り二人組みの作家さんなのです。そして、この作品が、二人での活動の最後(井上夢人さんはその後も一人で作家活動)となります。ただ、その後のインタビューなどによると、もうすでにこの本も井上夢人さんがほぼ一人で書き上げていたそうです。
 海外には言わずと知れた(ミステリー好きには)エラリー・クイーンなどもいますが、日本で共作の小説家って珍しい気がしますよね。

初代ファミコン時代

 さて、今作なのですが、まず一点取り上げたいのは、そのSF的な先見性です。この本の単行本が出版されたのは1989年。ゲームでいうとスーパーがつく前のファミコンで、「MOTHER」やら、「ダウンタウンの熱血物語」なんかが発売された年に、映画でいうアバターやらレディープレイヤー1レベルのVRゲームを細かな描写で作り出しています。ゲームに使われる容量は1ペタバイト(1000テラバイト)だそうです。単純比較はできませんが、2020年に発売されたFF7リメイクのダウンロード容量が81ギガバイトだというのですから、恐ろしいですね。
 しかし、当時のゲームの進化に向けた人々の妄想というのがどういったものだったのかはわかりかねますが、この本で描かれているVR感はこの時代を持ってしても、非常に強力な説得力を持っていいます。作家の想像力ってすごい!

コーヒーカップとドーナツは同じ…?

 次に、そもそも「クラインの壷」とはなんぞやということについて。作中でも触れられていますが、この言葉自体は数学の一分野、位相幾何学(トポロジー)の用語の一つです。位相幾何学ってのは、よくコーヒーカップとドーナツは、どちらも穴が1つなので同じものであるなんて例えで言われるやつです。詳しく説明する能力はありませんが。
 そして、クラインの壺を説明する前に、作品に倣って「メビウスの帯(メビウスの輪とも)」は知ってる方も多いのではないでしょうか?帯状の紙を半回転ひねって端と端をつなげると、表と裏がなくなるってやつです。あれは2次元の帯を3次元的にする際にねじれがおきますが、クラインの壺は3次元のものをさらに多次元にする際にねじれが起きて、表と裏がなくなるというものです・・・多分。
 まあ、簡単にいうと、表と裏の区別がない物体を数学上で作ったら、壷っぽいイメージになったよって話です。

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 それが一体なんなんだという話ですが、このイメージというものを、今作ではタイトルと成るだけのものへ落とし込んでいます。上記作品内容でいうところの”現実が歪み虚構が交錯する恐怖”っていうことです。

SFホラー作家 井上夢人

 ”現実が歪み虚構が交錯する恐怖”について、作者のうちの一人、井上夢人さんは自身でも、一人になってから本格ミステリを書いたことがないといっておられるようで、その作風はSFやホラー色が強いそうです。
 今作もまた、そういった色がしっかりと出ており、殺人鬼が出てくるようなサスペンスではありませんが、スリルとハラハラを味わい続けることになります。
 特に、このお話によるミステリ要素、謎解きはそれほど難解ではなく(面白いのはもちろんですが)、ミステリを読み慣れている人であれば中盤で真相に気づくと思いますが、今度はきづいたからこそのスリルというものが襲ってくるという仕上がりになっています。ジムキャリーのトゥルーマン・ショーを見たときの恐怖に少し近いかな?
 それにより、私はこんな夜更けに寝られずにいます。 
 ただ、いつも書いているので疑わしいかもしれませんが、文体は非常に読みやすく、テンポもいいので、500ページ弱ありますが、3時間半ぐらいで読みきれてしまうほどでした。

さいごに

 ミステリーと近未来SF、さらにサスペンスを兼ね合わせて、エンターテイメントとして十二分に出来上がっている。当初買うリストになかったのですが、本屋で偶然見つけて、手を伸ばして良かったです。こういう出会いがたまらないですよね。
 また、付け加えて、超個人的ですが、作者は私の大学の大先輩で、ペンネームの由来になった戯曲は私が大学時代に一番好きだと挙げていたもので、さらには、私もこの本を知る前にクラインの壺をしり、同名タイトルのお話を書いていたので、感じた運命は、もう、もう!って感じです。

 いつもより少し内容の芯に触れてしまった気がしていますが、実際に読んでみると、おそらくこの紹介文を読んで想像していた作品とは「あれ?違うな?」と思えるでしょうし、これによって、読後の感情が減退することはないと思っています。
 名作です。苦手なジャンルでなければ、ぜひお手に取ってみてください。

では、このへんで。


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