読書紹介 ミステリー 編Part10 『七回死んだ男』
どうも、こぞるです。
今回ご紹介する作品は、西澤保彦先生の『七回死んだ男』です。
まず、タイトルがいいですよね。どこかの猫に比べるとはるかに少ないですが、こちらの男は、なんと一日に七回も死んでいます。
ー作品内容ー
同一人物が連続死!恐るべき殺人の環。殺されるたび甦り、また殺される祖父を救おうと謎に挑む少年探偵。どうしても殺人が防げない!? 不思議な時間の「反復落し穴」で、甦る度に、また殺されてしまう、渕上零治郎老人――。「落し穴」を唯一人認識できる孫の久太郎少年は、祖父を救うためにあらゆる手を尽くす。孤軍奮闘の末、少年探偵が思いついた解決策とは!
どうでしょう?わかりましたか?わかりせんよね?
私が、これだけで分かれと言われたらキレます。
All You Need is Live
小説でも最初期に書かれているので、ネタバレではないと信じて書きますが、いわゆる「ループもの」です。
主人公は生まれつき特異な「体質」を持っていて、それは、無作為に、自分だけの認識の中で、ある一日が九回ループするというものです。いつ、どんな日になるかは全くわからないため、能力ではなく「体質」と主人公は呼んでいるのですが、それによって彼は人の倍近くを体感で生きているため、実年齢よりも、態度や考え方が老けていると周りからよく言われてしまいます。
そんな能力を持った彼が、たまたま祖父が死んでしまう日にループが起きてしまったことによって、上記の作品内容の通り、祖父を救おうと奮闘します。
All You Need is Killならぬ・・・ってことですね。
豪速変化球
と、まあ、この西澤保彦先生は「SF新本格の雄」と呼ばれたりするように、本格ミステリー作品に、SF的な要素をこれでもかってぐらいに面白く組み込むことで知られています。
そのことについて、あとがきで「直球があってこその変化球だが、変化球を量産している」といった、自信を卑下するかのようなコメントを残されていますが、その変化球が猛スピードでコーナーギリギリに決まって、三振の山を築いているのであれば、もはや自慢です。ストレートがキャッチャーに届かないこちらからすれば羨ましい限りですね。
ですので、今作においても、上述の「体質」は、ただのアクセントであったり、おもしろ要素に止まらず、見事にミステリーに取り入れているという凄さがあります。
例えば、よくミステリー小説なんかで、聞き込みをした時に「いや、この人たち、過去の会話とかちゃんと覚えすぎでしょ!」ってなることありますよね?でも、このループという仕組みを使うことでそれは一部解消されます。実際に、その時間のその場所で主人公が聞いてしまえばいいのですから。
また、「ループもの」というと、同じシーンが何度も繰り返されるので、飽きやすくなりがちですし、本作ではそれのループが九回もあるのですが、実際描写として重なっているところはあまり多くありません。これも、本作の上手なところで、何かを上達しようとか、敵を倒そうではなく、謎を解かなければならないので、毎日同じ行動をしていられないのです。
謎の現象X
それからこの作品、タイトルと表紙に比べて、内容や文体がめちゃめちゃポップです。っていうか、ノベルスも文庫も表紙が不気味すぎます。なぜ?
たまにありますよね。逆に、めっちゃ可愛い表紙なのに、主人公の考え方がハードボイルドだったり。
まあ、それは置いておいて。
今作の主人公とヒロインについて、個人的にはとても好きなのですが、この体質で何本も書けないってのもあるでしょうが、シリーズものではないんですよね。他作品(匠千暁シリーズ『仔羊たちの聖夜』)にチラッとゲスト出演はあるそうですが、それのみです。
なぜか、ミステリーとかで「このキャラクターいいな!」って思った時に限ってノンシリーズなことが多いんですが、この現象に何か名前はないのでしょうか。本屋に入ったらトイレに行きたくなる現象にすら名前があるのだから、これにも名前をつけてもいいのではないでしょうか。
さいごに
私は、ファンタジーの中に謎解きがあったり、SFの中にミステリーを混ぜ込む作品が好きなので、どストライクでした。
また、変化球と書きましたが、じゃあ、ミステリー初心者には難しいかというと、全くそんなことはなく、むしろいい意味での文体の軽さもあるため非常に読みやすく楽しめる作品となっています。
kindleでも500円そこらで売っていますので、もし興味が出れば気軽にお手に取れる作品だと思います。
それでは、このへんで。
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