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読書紹介 ミステリー 編Part3 『プレゼント』

どうも、こぞるです。
今回の作品は、若竹七海先生の『プレゼント』。文庫版の表紙が好きです。

 女探偵といわれて想像する人物っていますか?
 海外だと、ミス・マープルが一番メジャーですかね?BONESのブレナン博士みたいなドラマシリーズには女性が捜査の中心になることも多い気がします。
 日本では最近特にメディア化されるものに、女探偵が多い気がします。ビブリア古書堂シリーズ・掟上今日子シリーズ・今絶好調の屍人荘の殺人も女性が謎解きをしております。Part1で紹介した有栖川有栖先生も、空閑純という主人公を生み出していますね。

-作品内容-
ルーム・クリーナー、電話相談、興信所。トラブルメイカーのフリーター・葉村晶と、娘に借りたピンクの子供用自転車で現場に駆けつける小林警部補。二人が巻き込まれたハードボイルドで悲しい八つの事件とは――。間抜けだが悪気のない隣人たちがひき起こす騒動はいつも危険すぎる!

 この『プレゼント』に出てくる葉村晶も、そんな女探偵のうちの1人です。
彼女は一つどころで仕事をせず、かといって何か特定の目的や夢もなく転々と職を変えるフリーターなのですが、元来の好奇心の強さと、巻き込まれ気味な悪運によって、事件に幾度と出会ってしまいます。今作は、そんな彼女が登場する葉村晶シリーズの第1作となります。

 そういえば、Part3もまた、短編作品の紹介となりました。別に意識はしてなかったのですが、次は長編にしましょうかね。

 この本は全部で8つの話からなり、1話ずつメインの探偵役?が交代します。1人目は先述の葉村晶というフリーター。そしてもう1人はコロンボを思わせるような、ちょっとおかしみのある風貌と言動を持ち合わせた小林警部補(と、ペアを組む若手の御子柴くん)です。
 今作では、この2つパートが1冊となっていますが、これ以降は葉村晶シリーズと御子柴シリーズにわかれているようです。
 正直まだ読んでいないので、詳しくは言えませんが、今作がよかったので。読みたいなとは思っています。

 今作において、どちらのパートにおいても共通の魅力としては、登場する人物の精神性にあると思います。
 例えば犯人、または容疑者の1名、偶然の目撃者のおばさん。それぞれがそれぞれに、ミステリーにありきたりな役回りを押し付けられたとしても、その人物の紹介に置ける文言や、その人物のセリフの端々に、「ああ、こういうちょっと変わったところある人いるよな」という、成分が含まれています。それは、犯罪の動機においても同じように、凡百の殺人犯のように、カッとなって殺してびっくりするような密室トリックを生み出したりはせず、何か、こういう闇の部分って存在するよなと思わせてくれる重石のようなものを作中にポンと置いています。地上のもつれにようなありきたりなきっかけであっても、そのもつれが生み出された要素が把握できるのです。
 この作品性は、暗号や密室の作り方から作品を考えていては生まれない魅力でしょう。
 ただ、唯一、小林警部補に関しては、その人間性が見えづらい気がします。それも、御子柴シリーズでのお楽しみになるのかもしれませんね。

 それから、2つのパートの違った魅力としては、葉村晶パートは基本的に葉村晶の一人称で物語が進み、小林警部補パートは第三者または神の視点で物語が進みます。
 それにより、個人的には小林警部補パートの方がトリックやら事件は面白いと思っています。1つ目のお話の葉村晶パートがあっさり終わってしまったなあと思った後に、2つ目の雪山での小林警部補パートの事件でグッと掴まれたのもあるかもしれませんが、こちらのほうが、職業上、満を辞して登場し、論理を組み立てる時間が作りやすいというのもあるかもしれません。
 じゃあ葉村晶パートの何がいいかというと、まず一人称の地の文が抜群だです。この葉村晶という人間は、シニカルでクールでありつつも、うっかり墓穴を掘ったり、元彼の悪口を言ったり、同級生の情事を見てそこそこのトラウマを負ったりと、非常に人間的です。共通の面白さでも、登場人物の精神性を書きましたが、こと葉村晶に関しては、あきらかに非現実的な人間なのにリアリティを感じさせられます。すごいですね。
 本作はハードボイルドという文言が宣伝に使われていたりするのですが、会話や文体はコミカルなものも多く、上司が夏場に昨日作った麦茶を飲んでいるシーンで私は声を出して笑ってしまうほどです。
 ですが、所々にある葉村晶からした他人評や世間へのちょっとしたジョークの切れ味からして、おそらくハードボイルド的なかっこよさを一番持ち合わせているのは、作者の若竹先生なのだろうなと思います。
 そう思うと、男が弱くなったと言われて昨今の日本でハードボイルドをかっこよく描けるのって実は女性だったりするのかもしれませんね。というと差別的かな?

 それと、読み終わって調べるまで知らなかったのですが、つい最近ドラマ化していたそうですね。シシドカフカさん主演だそうです。それの第1話に、この本の最終話が使われているという情報を見て、なるほどなと思いました。1話という特性をとても活かした作品なんでしょう。もし、見たことがある人いたら、教えてください。


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