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ヲススメラヂオの小説 part6 『告白』

 どうも、こぞるです。ヲススメラヂオ第6冊目で福本剛士さんに紹介していただいた、湊かなえ先生の『告白』について書いていきたいなと思います。
 ラジオは以下のリンクから別ページに行くとありますので、先に聞くと、よりこれを書いている奴が何を言いたいのかがわかりやすくなるかと思います。30分なので、課題や作業のおともにいかがでしょうか。

-作品内容-
「愛美は死にました。しかし事故ではありません。このクラスの生徒に殺されたのです」我が子を校内で亡くした中学校の女性教師によるホームルームでの告白から、この物語は始まる。語り手が「級友」「犯人」「犯人の家族」と次々と変わり、次第に事件の全体像が浮き彫りにされていく。

 夜中に読んでズーン…となっていたところ、偶然知人から急に褒めメールをいただけて、救われました。
 胸に残るものの威力がすごいです。 

作者の勇気

 ラジオで事前に、湊かなえ先生が、教育現場で教師をしていたという話を聞いた上で、この本を読んで、一番最初に思い浮かべあ人物像が、その勇敢さです。
 本作の第一章「聖職者」は、中学校の女性教師が淡々と言葉を紡いでくことで話が展開していくのですが、その言葉の中には、教師による学生への様々な赤裸々な想いがつめこまれています。

 例えば、先生が学生たちがどれぐらい先生の話を真面目に聞いていないと考えているか。自分が働く学校のシステムについて、そしてそれへの批判。さらに、仕事外で学生と接触したときの負の感情。
 これらは、放課後の教員室や、飲み会では話題に出ることがあっても、およそ学生の前ですべきではないという意見が多いのではないでしょうか。

 多くの読者は、作品とその作家の人間性を同一視します。
 もし、あなたが雪山で殺人事件に出くわし、生存者の中にミステリー作家がいたら、おそらく疑うのではないでしょうか?ミステリー作家だからって、殺人事件を起こしたいというわけではないのに。これはちょっと、大袈裟ですが、例えば他にも、登場人物の1人の演説を読むことで、それが作者の考えだと思ってしまうことなんかも、往々にしてあるでしょう。

 もし自分の先生や、元先生が書いた本に、上記のようなことが赤裸々に書いてあったら、学生はどのように思うでしょうか。

 それは自分の周りへの信頼なのか、小説かとして生きていく覚悟なのか。
 どちらにせよ、すごい勇気です。

『告白』とあのコンビのコント

 私はこの作品の面白い特色として2点が挙げられると思っています。
 そして、その一つ目はやはりモノローグです。

 特に、先ほども述べた、デビュー作でもある第一章の「聖職者」で顕著なのですが、この章の中では、女性教師の話す言葉がすべて地の文で書かれています。「」が使われるのは、女性教師が他の人の言葉を引用するときになります。こういう風に。

なんですか?前川さん。「知らないから説明してほしい?」では、あまり気乗りしませんが簡単に。

 地の文が私で進められる物語というのは数多くありますが、話の全てが1人の発話によって進んでいき、他の人物の言動もその人物に依るというのは、やはり面白い特色です。これによって、読者である私たちも1人の学生と同じ立場であるかのように没入し、その話に聞き入ってしまいます。

 それからもう一つの特色は、感情のズレです。
 前述の通り、モノローグで物語が進むので、その章の中の他人の感情や考えというのは、その章のモノローグを行っている人物の勘や推測に依ります。なので、Aさんがある状況で見て思ったBさんの感情や考えと、実際にBさんがそのときの状況を語る際のそれらには大きなズレがあります。
 なので、章を読み進めるごとに、実はこうだった。本当はこう思っていたというのが判明し、謎が解けるような爽快感があります。
 ミステリーの世界では、読者への挑戦状といった、読んでいる人に謎解きのチャンスを与える手法や、叙述トリックと呼ばれる読者を騙すための謎が存在しますが、この『告白』はそれらの面白さを人間に心理描写のみに見事落とし込め、表現したものと言えるかもしれません。

 モノローグによる他者表現や物語の進行と、気持ちや考えのズレによる面白さ。
 これら2つの特色を考えた時に、「あれ?これってアンジャッシュじゃないか?」となりました。
 アンジャッシュってご存知ですかね?ご存知ですよね、おそらく。最近色々お騒がせニュースもありましたし。
 彼ら個人のパーソナリティなんかはどうでもいいのですが、かれらの作り出すコントが私はすごく好きだったのですが、それに含まれる重要な要素として先ほど『告白」の特色であげた2点が含まれています。面白くないですか?
 
 これで言いたいのは、別に『告白』がアンジャッシュの二番煎じだ!とかそんなことでは決してなくて、同じ要素を含みながらも、これだけ違った面白い作品が生まれるという創作・表現の素晴らしさと、全く新たな物語なんて生み出されないと言われながらも、毎年面白い作品が様々な媒体で登場する理由はこういうところにあるんだなという実感です。

あくまでエンターテイメイント

 この作品を取り上げる時、どうしてもそのテーマの暗さや、取り上げられている社会問題なんかに視点が向きがちになります。それはもちろん間違い無いですし、受け止めるべき点です。しかし、そんな中でもさらに素晴らしいと思うのは、それでもなお、この本がエンターテイメントとして成立していることです。
 ただ、重く警鐘を鳴らすだけの作品では、これほどまでの大ヒットにならなかったでしょうし、まして本屋大賞に選ばれることもなかったでしょう。
 暗く重いテーマをエンターテイメント化し、さらにその胸にくるダメージも薄れさせない。これはとてつもない作品のパワーが必要です。

さいごに

 本屋大賞に選ばれてから、読みたいなよみたいなと思いつつも、私のこことの中に巣食う天邪鬼な中学生にこの手を押さえつけられていたのですが、やはり読んだら面白い!胸に残ったダメージも含めて楽しむことができる作品でした。
 ラジオにて紹介してくださった福本剛士さんに、もう一度ここで感謝を述べさせていただきます。オススメしてくださり、ありがとうございました。

 置いていない本屋の方が珍しい作品だと思いますので、まだ読んでいない方も、ぜひ手にとてみってください。kindle版もありますし。


それでは。







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