にしかわ

薬剤師 / (株)Ribbons Base 創業者

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最近の記事

薬剤師による起業への挑戦 #9 「医療の質向上への個人的な取り組み」

-緩和ケアチーム設立、緩和ケアマニュアル作成- 病棟では多くのがん患者が緩和ケアを必要としていた。 しかし、海浜病院には緩和ケアに不慣れな医師が多く、診療ガイドラインの記載内容と乖離した治療が度々行われていたため、病院内で認識を共有して活用できる「緩和ケアマニュアル」が必要と考えた。 そこで、緩和ケアに熱心な医師や認定看護師を学会へ誘い、海浜病院の緩和ケアマニュアルを作成することを計画した。 このマニュアルを作成するにあたり、内容の吟味や病院全体への影響力を高めるため

    • 薬剤師による起業への挑戦 #8 「病院薬剤師の業務」

      10月に入り衣替えをしていると、以前一人の患者から貰った結婚祝いのハンドタオルと出産祝いのスタイが出てきた。 西川は長年同じ病棟で勤務していたため、そこに入退院を繰り返す患者とは「患者と医療者」の壁を越えた関係性が築かれていた。 それらを手に取ると、患者との初めて会った時の会話や、お互いの新婚旅行の話、子育ての苦労話など、これまで交わしてきた会話の全てが昨日の事のように思い出された。 日常業務 病院に所属する薬剤師の主な役割は、院内の薬剤の供給や管理、患者への投薬、薬

      • 薬剤師による起業への挑戦 #7 「病院経営の実情」

        2019年7月、西川は自宅のデスクに向かい、習慣になってきた起業アイディア手帳に今日の出来事を綴っていた。 その日、多くの職員が参加した「院長講演会」のスクリーンには、右肩下がりの棒グラフが何度も映し出された。 海浜市の人口は年々減少し、それに伴って売り上げも減少していた。 院長は海浜病院の経営状況について一通り話し終えると、 「ここにいる皆様の頑張りに懸かっています」 と講演会を締めくくった。 西川はこの出来事を振り返り、ぼんやりと天井を見上げた。 職員の頑張りはどれ

        • 薬剤師による起業への挑戦 #6 「がん治療と補完代替医療」

          がんの治療には「三大治療」と言われる、手術治療、放射線治療、薬物治療があり、その中でも薬物治療は日進月歩で急速に発展し、細分化が進んでいた。 がんの治療薬の市場規模は、2022年に1706.3憶米ドルから2030年末までに3159.5憶米ドルに拡大すると予測され、多くの製薬会社が研究開発に注力していた。 がん薬物療法の進歩に伴って、その治療効果は飛躍的に向上していた。 またこれらの治療は「標準治療」と言われ、日本では国民皆保険制度、高額療養費制度を利用することができる保

        薬剤師による起業への挑戦 #9 「医療の質向上への個人的な取り組み」

          薬剤師による起業への挑戦 #5 「がんの疫学」

          2019年6月、雨音だけが聞こえる深夜、西川は起業を意識してから定期購読を始めた薬事新聞(仮名)を読んでいた。 そこには「がん治療の飛躍的進歩」という見出しで、免疫チェックポイント阻害薬に関する内容がまとめられていた。 免疫チェックポイント阻害薬は、日本人によって開発された新たながん薬物治療の選択肢であり、2018年にノーベル生理学・医学賞の受賞で話題となった。 免疫チェックポイント阻害薬の新薬開発、適応拡大は続き、がん薬物治療の進歩に大きく貢献していた。 -がんの疫

          薬剤師による起業への挑戦 #5 「がんの疫学」

          薬剤師による起業への挑戦 #4 「データヘルス改革」

          日本は、2019年度データヘルス改革の関連予算として、721億8,000万円を計上した。 データヘルス改革は、医療、介護、個人の健康管理情報などこれまで分散していた情報を連結してビッグデータを構築し、これをもとにAI解析などを加え、データをより実効性のあるサービス提供に活かそうという政策だった。 情報通信技術を活用した健康管理・診療サービスの提供や、健康・医療・介護領域のビッグデータを集約したプラットフォームを構築していく厚生労働省の戦略であり、超高齢社会を背景に、効率的

          薬剤師による起業への挑戦 #4 「データヘルス改革」

          薬剤師による起業への挑戦 #3 「医療費の構造と診療報酬制度」

          日本の国民皆保険制度における医療費は、公費(国庫、地方)、保険料(事業主、被保険者)、患者負担の大きく3つ財源から構成されていた(資料3)。 患者負担の割合は年齢や所得によって決められており、基本的には70歳未満は3割、70歳から74歳未満は2割、75歳以上は1割とされていた。 つまり、高齢者の医療を労働人口が支えるという構成になっていた。 医療費は患者が医療機関を受診することで発生するが、その医療行為に対してどれ程の対価を支払うかについては、医療機関が決定するものではな

          薬剤師による起業への挑戦 #3 「医療費の構造と診療報酬制度」

          薬剤師による起業への挑戦 #2 「日本の医療」

          2019年5月、子供の寝かしつけを終えてリビングに戻ってきた妻に、西川は今考えていること、すなわち起業について考えている事を伝えた。 漠然とした考えではあったが、妻はその意見を尊重してくれた。 対話を重ねていくうちに、そもそも今の日本の医療の何が問題なのか、その本質は何か、もっとクリアにする必要があると思えてきた。 医療の仕組み自体を紐解くため、西川は日本の医療制度について調べ始めた。 日本の医療は国民皆保険制度のもと、国民は受診する医療機関を自由に選ぶことが可能であ

          薬剤師による起業への挑戦 #2 「日本の医療」

          薬剤師による起業への挑戦 #1 「プロローグ」

          2019年4月、西川は海浜病院(仮名)で薬剤師10年目を迎えた。 電車を降りて少し歩くと、満開の桜並木が病院までの道のりを案内してくれた。 海浜病院は静岡県海浜市(仮名)にある唯一の総合病院で、地域医療を支える役割を担っていた。 西川は10年目というひとつの節目にあたり、これまでの病院薬剤師としての勤務を度々振り返っていた。 思い返してみると、毎年のように印象的な出来事があり、多くの困難にぶつかりながらも何とか前進してきた。 特にこの1年間、西川にとって印象的な出来事が

          薬剤師による起業への挑戦 #1 「プロローグ」