薬剤師による起業への挑戦 #8 「病院薬剤師の業務」
10月に入り衣替えをしていると、以前一人の患者から貰った結婚祝いのハンドタオルと出産祝いのスタイが出てきた。
西川は長年同じ病棟で勤務していたため、そこに入退院を繰り返す患者とは「患者と医療者」の壁を越えた関係性が築かれていた。
それらを手に取ると、患者との初めて会った時の会話や、お互いの新婚旅行の話、子育ての苦労話など、これまで交わしてきた会話の全てが昨日の事のように思い出された。
日常業務
病院に所属する薬剤師の主な役割は、院内の薬剤の供給や管理、患者への投薬、薬剤情報の収集と提供などがあった。
具体的な業務内容としては、午前中は外来患者の処方箋調剤と注射薬の無菌調製業務、午後は入院患者の処方箋調剤と薬剤管理指導だった。
その中で西川はがん患者をサポートする役割を担っていた。
午前中は外来患者の中でも抗がん剤治療を行う患者への対応を行っていた。
具体的には、 医師からオーダーされたレジメンの内容がその患者にとって適切であるか、現在の検査データなどの患者背景から実施しても問題がないかなど鑑査を行い、必要であれば医師へ薬剤の減量や変更、検査の追加などを依頼した。
これらは基本的にガイドラインなどのエビデンスに基づくものであったため、提案通り処方に反映されることが多かった。
調製された抗がん剤は外来化学療法室へ運び、看護師とダブルチェックを行った上で患者に投与された。
抗がん剤の点滴中、多くの患者はテレビを観たり本を読んだりして過ごしていた。
その間に薬剤師は患者のベッドサイドへ行き、現在の副作用状況や生活上での困りごと、近況報告などを聞き取り、必要時に医師や看護師などへ聴取した内容をフィードバックして治療内容の質の向上を図った。
午後になると、西川はがん患者を含む約40名の患者が入院する病棟へ行き、薬物治療の適正化に努めた。
具体的にはエビデンスに基づいた薬物治療が行われているか、患者の状態に合った投与量であるか、相互作用や副作用が起こっていないかなどを、患者のベッドサイドへ行き確認した。
抗がん剤治療に関しては初回実施時のみ入院で行われ、それ以降は外来で行われることが多かった。
病棟で抗がん剤を実施する際も、看護師とのダブルチェックの後に投与が実施された。
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