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本の記録「君が降る日」

最近、ばっさりと髪を切りました。
ショートカットではないけれど、肩くらいまで。
ここまで短いのは5年ぶりで、なんだか新鮮な気持ち。

「君が降る日」/島本理生

島本先生の本は、デビュー作のシルエットぶり。
Twitterのフォロワーさんが読んでいて、気になっての購入です。

どうして文庫が1刷しかされていないのだろうと思うほどの傑作。
いっぱい買ってほしい。いっぱい知ってほしい。

表題作「君が降る日」、「冬の動物園」、「野ばら」の中編&短編の3篇を収録した一冊でした。
ほんとうにどの作品も素晴らしく、解説で角田先生がおっしゃられているように、静かな文章を丁寧に丁寧に緻密に積み上げていると感じます。どの文章を切り抜いたとしても、その静かな世界を感じられる。そんな文章の連なりでした。

感想(ネタバレがあると思います。)

「君が降る日」 

恋人を交通事故で亡くした志保と、運転をしていた五十嵐の物語です。

何をしていても、どこにいても志保の中で降一は断片だけを降らせた。
運転をしていた親友の五十嵐は、降一の店を手伝い罪を償うように生きている。
志保と五十嵐は、もっと別の出会い方をするべきだと思いました。空っぽすぎる五十嵐には、志保が必要だった。だけれど、志保と出会ったのは降一であり、彼の死だけが2人を結びつけている。
ないより、志保にとって五十嵐は最も憎むべき対象でした。

じわじわと二人が距離を縮めていくうちに、どうしようもない事実の溝が浮き彫りになる。絶対に手を伸ばしてはいけない、届かない距離は第三者からみると、とてももどかしかった。

ラストで明かされた降一がほかの女の子に惹かれていた事実は、志保にとって最も悲しく、だけれど降一を忘れても良いという許しだと感じました。
志保はこれから少しずつ未来を取り戻していくラストとだと感じましたが、
どう未来を描いても五十嵐が幸福の中で笑っている姿を想像できませんでした。

「冬の動物園」

恋人に振られたばかりのOL美穂と、高校生の森谷くんの物語。
年の差があって、性格も真逆にみえる二人。
だけれど、森谷くんは誰よりもまっすぐな芯の通った人間だと感じました。
大人びているけれど、子どもらしい。
失礼なことを言うようで、気遣いのできる。
美穂みたいにTHE真面目&窮屈に生きている人間には、
彼みたいにどこまでも明るくまっすぐな人が良く似合うと感じました。


「野ばら」

恋人になるよりも、友達になるほうが難しい。
タイミングさえあえば、恋人だったかもしれない二人。
似た顔をしているのに何もかもが違った妹。
妹がさっそうと攫っていった好きだった彼の兄。
兄が奪っていった大切な人。

裕も佳乃も、兄や妹を憎んだってよかった。
裕は佳乃のことを憎んだってよかった。
野ばらみたいな日々だった。
綺麗で美しいけれど、決して触れることを許さない野ばらたち。
友だちでいるために、家族でいるために
棘を差しあって生きている。

読んでいてつらかった。苦しくて痛かった。




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