1月の終わり、春の兆し。
昨年、知人から勧めてもらった水上勉の『土を喰う日々』は月初が近付くと毎月読み返したくなるものだった。当初は図書館で借りた水上勉全集で読んでいたが、ある時、本屋さんで文庫本として売られていることを知り、勢いで購入した。
『土を喰う日々』を初めて読んだ時は、ちょうど今期植えたカブが全滅しそうで、畑作業に対して意気消沈していた頃だった。いつ見てもカブの状況は悪くなる一方で、もはや何か行動する気すら失われていたのだ。そんな時に読んだこともあり、本書に書かれている食と土とそこで育つ野菜とそれらを調理していく過程にすごく惹かれたことを覚えている。かなり本の内容にピンときたのか、次の日からまた畑作業を再開するようになったほどだ。
畑作業自体はまだ始めて1年目だからこそ、知識や経験がない中での作業となる。夏の暑さや動物の脅威、虫の多さなど色んな事を発見しては、バタバタと調べて、駆け抜けたような印象だった。
集落のおばあちゃんからは「あんた1年目の冬か?寒いやろ~?暖かくするんやで」とありとあらゆる人から言われた。確かに、12月頃から1月は朝晩の冷え込みが凄く、あまりの寒さに心が折れそうだった。その一方で、なんとなく実家で暮らしていた時よりも健康的な暮らしをしている意識はあったので、謎に風邪を引かない自信だけはあった。まぁ柚子ジャム、みかんジャムがあるし…的な。
今年の秋ごろから近所や知り合いの人から野菜を貰う生活が続いている。貰った野菜が傷まないうちに煮たり、焼いたり、冷凍するので、自然と料理のバリエーションも増えてきた。スーパーで野菜を購入する時は、自分の頭の中にあるレシピの中からアレが必要、コレが必要と選ぶ。しかし、人から頂く野菜は、事前に選びようがないので、初めて調理するものが大半である。
1人暮らしには十分なほどの量の野菜を消費するために、職場の同僚から調理法を聞いたり、ネットで調べる。いつしか大量に常備菜として仕込んで、日々のお弁当や食卓に副菜として並ぶようになった。
その時から、私はご近所さんだったり、周りの環境に生かされているなぁ、と思うようになった。いつしか私の中で食べることは目的ではなく、野菜を消費していくための手段となっていた。
土を喰う日々とはまだまだかけ離れた生活ではあるが、なんとなく自然と共に暮らす感触に触れている日々である。
大寒の週も折り返し地点に差し掛かり、日中は5℃以上になる日も多くなってきた。日差しの強さが少し強くなり、ほのかに春の匂いがする。
近所で売り看板が出ていた土地に、今朝は草刈りをしている人がいた。不動産屋さんらしくない様子で、今まであった売り看板はなくなっていた。新しい住人だろうか?そう考えると、そろそろ私もこの集落に来て一年になろうとしている。そんな1月の終わり。
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