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セルジュの舌/あるいは、寝取られた街【3/13】

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 カーテンを締め切った部屋で、和男は毛布にくるまっていた。

 まるで凍えているかのように頭からすっぽり毛布を被り、顔を出さない。
 部屋には生臭い異臭が立ちこめている。
 
 複雑な異臭だった。
 10代男子の、活発な新陳代謝の匂い。
 なにかが腐ったような匂い。

 そして……なにか恵介にとってもなじみ深い匂い。

 部屋は静まり返っていて……和男がカチカチと神経質そうに噛み合わせる音だけが聞こえる。

 和男はベッドから降りようともしない。
 恵介はコンビニから失敬してきたプリンをカバンに忍ばせていたが、とてもそれを取り出す気分にはなれなかった。

「何だよ? 一体なにがあったんだよ? ……友里江に聞いたんだけど……」

 と、いきなり…………

 それまでどんな声を掛けても反応しなかった和男の顔が、毛布の隙間から鳩時計のように飛び出した。

「友里江? おまえ、友里江と話したのか? あいつ、何かおまえに言ったのか?」

「か、和男……お、お前っ……」

 恵介が言葉を失ったのも当然だ。
 毛布から出てきた顔は、4日前の昼休みに見た和男の顔とはまるで違っていた。

 
 頬はこけ、健康的だった肌の色も、彼らの学校の山﨑教頭のように土気色だ。
 落ちくぼんだ目。
 その下にはくっきりと隈が浮いている。

 3日間一睡もしていないのかも知れない。

 もしくはこの3日間、この部屋で絶え間なくオナニーを続けていたらこんな感じなるのだろうか……?
 そういえば……この部屋にたちこめてるこの異臭は……ひょっとすると……

「何て言ってたんだよ? おれのこと、あの女、なんて言ってたんだよ?」

 見開いた和男の目は、真っ赤に充血している。

「お、落ち着けよ……どうしたんだよ急に?」

「どこまで話したんだよ? あの女、お前にどこまで話したんだ?」

 毛布をマントのように羽織ったまま、和男はベッドから這い降りてくる。

 恵介は思わず尻で床を後ずさった。
 しかし、和男はずんずんと迫ってくる。

 まるで、日本の有名ホラー映画に出てくる女の幽霊のように。

 あっという間に恵介は、部屋の壁まで追い詰められていた。

 
「な、なんも聞いてねえよ……よ、よくわかんねえから、おまえんとこに来たんだよ……おまえ、セルジュの家にコンクリートブロック投げ込んだんだって? ……い、一体なんでそんなこと?」

「それ以外は? それ以外のこと、友里江はなんか言ってたか?」

 和男の両手が恵介のシャツの襟を掴む。
 ものすごい力だった。

 そして……ものすごい異臭。

 やはり恵介にとっても馴染み深い、あの異臭だ。

「落ち着けっ! 落ち着けって……それ以外のことは何も聞いてねえよ! おれはお前がなんでそんなことをしたのか聞きにきたんだよ! ……一体、何があったんだよ!」

「裕子だよ!」

 ほとんど金切り声に近い声で、和男が叫んだ。
 

「ゆ……裕子? ……裕子がどうしたってんだ?」

「おれは見たんだ!」窪んだ目が、潤みをおびていた。「見たんだよ! あの日の夜!」

「だから何を? 何を見たんだよ?」

「裕子と、セルジュが公園でカラんでるところを見たんだ!」

「えっ…………え、ええっ?」

 公園とは……二人が通う学校にほど近いところにある小さな児童公園だ

 ジャングルジムとブランコ、コンクリートで作った小さな丘のような滑り台が一台。
 3段階に高さが違う鉄棒に、砂場。
 ベンチがいくつか。

 全国のどの町にもある、とりたてて特徴のない子供の遊び場だった。

「……あの滑り台の裏で、セルジュが、セルジュの野郎が……裕子を壁に押し付けてたんだ……いや、押し付けてた、っていうか……壁にもたれた裕子の足元に、セルジュの野郎のあのでかい図体がうずくまってて……あの野郎、裕子のスカートの中に頭を入れて……」

「…………」

 恵介の脳裏に、その状況が異様に鮮明な画像となって浮かぶ。
 思い浮かべてはいけない気がしたが、そう思えば思うほど、頭の中の画像は鮮明になる。

 あの裕子が……いつも儚げな印象をたたえて、学校のどんな喧騒の中にあっても、周囲に壁をつくり、その中で瞑想を続けているようなあのクールな美少女が、コンクリートの壁を背にして立っている。

 その足元には、あの薄汚いグレーのコートを着た異形の巨漢がうずくまっている。
 裕子の制服スカートのに、顔をうずめて。 

 もぞもぞとセルジュが動く音、そしてあの淫猥な水音……さっきあのコンビニで、セルジュとあのバイト店員が交わしていたキスの音がサンプリングされて再生される。

 裕子のクールな顔が歪む。
 まるで悪い夢にでもうなされているかのように。

 見るからにやわらかそうなあの唇が息継ぎをするように開き、熱い吐息を吐き、セルジュの獣のような体臭を含んだ冷たい空気を吸い込む。

 裕子があの艶やかな髪を振り乱し……あっ……と息をつくたびに、セルジュはさらに勢いづき……。

「おい……恵介ぇ…………お前、いま、ソーゾーしてるだろ……」

「えっ」

「セルジュが裕子にしてたこと、裕子がセルジュにしてたこと想像しただろ。おれが実際にこの目で見たことを想像してただろ?」

 図星だった。

「……そ……想像してねえよ」

「おれはこの目でちゃんと見たんだ……裕子がセルジュにねぶり回されて、ヨガり狂ってるところをな! 植え込みの中に隠れて、ずっと見てたんだ! あ あ見たよ! お前、マジでちゃんとソーゾーできるか? ……あの裕子が、あの学校じゃツンとすました顔して、男どものことなんか完全にムシしてる裕子が、あんな薄汚ねえ変態野郎に、スカートに顔突っ込まれて、舌でねぶり回されて、アヘアヘ言ってやがったんだよ! …………まるでエロ動画みたいに、喘いでやがったんだよ! アンアン声出し て、自分で腰振ってやがったんだよ! それも想像できるか? おれがこの目で見た以上に、想像できるか?」

 襟元を掴んだ和男にガクガクと揺さぶられる。
 和夫の目は、もう眼窩から飛び出しているように見えた。

「で、できないっ……で、できねーよ! できねーってば! だ、だから落ち着けって! マジでちょっと離せ!」

「おれの目の前で、裕子がイったんだよ! セルジュに舐められて! 俺の目の前でイったんだよ!」

「イった? ……ってつまり?」

 ……イったってつまり、オルガスムス……か、オルガズム、かなにか……に達したということだろうか。

 屋外で? 
 児童公園で?

 本来なら昼間、子供たちが集うあの場所で?
 しかもあの裕子が?

 頭の中がいくつもの疑問に納得のいく答えを求めて混乱する。
 しかし答は見つからない。

 裕子に対して積極的な興味を抱いていない自分でさえ、こんなにも混乱している……もともと裕子に強く惹かれていた和男が感じた混乱は、どれほどだっただろう?

「おれは見たんだよ! あいつが、スカートから顔を出して、裕子の太腿を、ベロベロと舐めまわすのを……」

 和男は笑っていた。
 口が吊り上がり、洗っていない黄色い歯が覗いている。
 完全にまともではない。
 少なくとも、恵介が知っている和男ではない。

「も、もうやめろよ…………た、頼むから落ち着けよ……」

「聞けっ! あいつは人間じゃない!」

「え?」

「あれは人間の舌じゃないんだ!」

「ど、どういう意味だよ……」

 和男の頭の中で、今日の昼休みに学校一のスケベ女……友里江が口にした言葉が再生される。

“まあ、病気かもねえ……だって、セルジュの舌を知っちゃったんだから”

「あいつは、4回もイかされてその場にヘタりこんじまった裕子を、肩に担ぎ上げた……まるで猫でも担ぎ上げるように、軽々と」和男が、小鼓を叩くジェスチャーでそれを表現する。「……それから、公園を出て行った」

「そ……それでお前は……後を尾けたってことか?」

「ああ、あいつの後をつけてった……町のはずれの、あのお化け屋敷まで」

 ますます和男が顔を近づけてくる。
 あまりに顔が近いので、恵介は思わずのけぞり、後ろに倒れそうになって尻の後ろに手をついた。

 和男が恵介の下半身に体重を預けてきた。

「セ、セルジュの家まで……尾けてったのか?」

「ああ、しっかりな……見失うわけねーだろ? 190センチ以上ある汚ったねえ大男が、死体みたいにぐったりした女子中学生を肩に乗せて歩いてんだぜ?  なあ? ……あいつは、そのまま延々と歩き続けて、テメエの家に入っていきやがった……裕子を肩に担いだまま、あの“化物屋敷”に」

 あまりにも顔を近づけてくる和男の鼻息が、恵介の前髪を舞い上がらせた。
 
 生臭い、腐った臓腑から吐き出されるような鼻息だった。


「ち、ちょっと待てよ……なあ、待てってば和男……」

 和博が横坐りになっていた恵介の膝に這い上がってくる。
 ぞっとするほどその身体は熱く、湿っていた。

「セルジュの家を見たことあるか? ……みんな“幽霊屋敷”とか“お化け屋敷”とかいろいろ勝手なこと言ってるけどよ……そんなもんじゃないぜ……もっとゾッとするぜ……」

 和博は恵介を怖がらせようとしてるのだろうか?
 その顔は笑っている。
 怪談話をする人間が、ニヤニヤ笑いながら上目遣いで相手の反応を伺うように。

「……み、見たことねーけど……」

「ボロボロ の二階建ての家だ……一階にテラスがあって、六角形の塔が屋根から突き出してる……あの塔から、奴はこの町のことをずっと見張ってるんだ…………庭は広くて、門はない。ボロボロの古い外車が一台止めてあって、使い古したタイヤやら、段ボールやら、どこから盗んできたんだかわかんねー自転車 だとかが家の前に散乱してるんだ……それに…………奴は犬を飼ってる」

「い、犬?」

 背中に壁をつけた恵介をさらに追い込むように、どんどん和男が顔を近づけてくる。
 思わず恵介は逃げ場を求めて背筋を伸ばし、背中で壁にずり上がった。
 和夫が恵介の頭を挟むようにして、ドン、と壁に手をつく。

 悪夢のような『壁ドン』だ。
 相手は男子で、しかも親友。

「ああ、犬だよ…………でかくて、黒い犬だ……最初おれは、そいつを見たとき、そいつが犬だとは気づかなかった……というか、そいつが犬であるかどうかすらわから なかった……そいつはあまりにもデカすぎて、太りすぎていて、しかも飼われてこの方、一度も洗われたことがないみたいで…………何重にも脂で絡まった長い毛と、毛についたゴミで2倍はデカ く見えた……おれはビビったよ……思わず、地面にあったコンクリートブロックを拾い上げた……」

 恵介の頭の中でその情景が再生される。

 まるでホラー映画に出てきそうな、不気味な一軒家。
 惨劇と狂気の匂いのする混沌とした庭。
 そこに、まるで怪物のような異形の大きな犬がいる。

 和男がその時に感じた恐怖が、鮮明な画像のように伝わっくてくる。

 これまでセルジュの家に関して、さまざまな噂を聞いてきた。

 子供を捕まえてきては家畜のように飼っている……だの、
 家を研究所にして生物化学兵器を製造している……だの、
 日本中から変態が集まってきては夜な夜な淫蕩と破戒に塗れた乱痴気パーティーを繰り広げている……だの

 ……しかし実のところ、セルジュの家を実際 に目にした者は少なかった。

 ごく一部の小学生男子が、怖いもの見たさで近づいたことはあるかもしれないが……その中の一人が、セルジュにつかまり、3日3 晩わいせつな拷問を受けた、という噂もあった。

 でも、そんなことは有り得ない話だ。
 そんなことがあったなら、セルジュはとっくに警察に捕まっているはずだ……

 ようするに、誰もセルジュ自身について何も知らないように、セルジュの家についてもみんなも噂程度にしか知らないのだろう。
 

 和男がほとんど唇が触れ合いそうな距離まで顔を近づけて、言葉を続ける。

「そいつが、唸りながら近づいてきた……おれは、ブロックを持ってそいつを脅そうとした……その犬の目、おまえ想像できるか?」

 恵介は首を横に振った。
 親友である和男に、今の自分は怯えている。

 そんな自分が信じられなかった。

「目が、赤いんだよ……赤く光ってやがるんだ……まるで、ターミネーターみたいに……信じられなかったよ……毛の塊みたいな犬が、舌をだらりと垂らして、 真っ赤に光る目でおれに寄ってくるんだ……おれはコンクリートブロックを振り上げた。自分を守りたかったんだ……おまえだってそうするだろ? ……ああ、 ビビってたんだ、正直に言うよ……おれはビビってたんだ! でも、ふと気付いた……犬の目が赤く光ってる理由を」

「な、なんだったんだよ?」

 すでに、恵介の声は掠れていた。

「犬の野郎は、俺を見てるんじゃなくて、主人のいる家の中を覗いてたんだ……振り返ると、あいつの家の一階の窓から赤い光が漏れてた……毒々しい、真っ 赤な光だ! 一体なんで、部屋を真っ赤に照らす必要なんかあるってんだ? ……おれは目の前で唸ってやがる犬のことなんか、ソッコーで忘れちまったよ…… その赤い光の中に……赤く光る窓の中に……」

 和博がそこで恵介から視線を離して、宙を見る仕草をする。
 しかし、その目はなにも見ていない。
 ぎょろり、と和博の黒目が、右から左へと早回しした月の動きのように動いた。

「何か……見たんだよな?」

「ああ、真っ赤な光の中で、女の上半身のシルエットが、くねくねと踊ってたよ……とても、人間の動きとは思えねえ…………人間の身体が、あんなふうにワカメみたいに揺れるなんて…………とても信じられなかった……でもはっきり、それはが女の上半身だとわかった」

「お、女って……」

 恵介が女のシルエットを誰のものだと思ったのか、ここまでくると恵介にも想像がついた。

「おっぱいも、その先のとんがったてっぺんも、しっかりシルエットで見えてたんだもんな! ……その女が、長い髪を振り乱して、上半身をくねらせてるんだっ! …………自分の両手で髪をかきあげて、のけぞって、またくにゃりと折れて……シルエットだけだけど……シルエットだけなのに、なんであんなにエロく見えるんだ? ……それから、声が聞こえてきた……」

 睫毛が触れそうな距離で恵介の顔を睨みつけている和博が、口をつぐんだ。
 その唇が震えている。
 怒り出しそうなのか、泣き出しそうなのかわからなかった。
 

 沈黙で、恵介が言葉を継いでくれることを求めているようにも見える。

「セルジュと……」和男の目をしっかり見ながら、唾を飲み込み……声を絞り出す「裕子の声?」

“いいっ! すごいっ! すごいよっ! すごいよセルジュっ!”
 

 和男が女の声色で喘ぐ。
 
 その顔は和男の目の前からぐん、と下がった。
 と思うと、“まるでワカメのように”、座ったまま身体をくねらせ始める。

 まるでほんとうに頭がおかしくなってしまったかのように。
 いや、ここまでくると「頭がおかしい」のリミットさえよくわからなくなってくるが。

 和男は女の声色を真似ながら、くねり、頭を振り、Tシャツをめくりあげて自分の素肌を両手で撫で回した。

 へそが見えている。
 両方の乳首も。

 体育の時間の着替えなどで、恵介は何度も和男の裸の上半身を目にしている。
 一度、二人でスーパー銭湯に行ったこともある。
 そのときは、彼の全裸も見た。

 そのときは……もちろんだが、今のような奇妙な感情にとらわれたことはなかった。

 
 しかし今は……ほとんど白痴のようになり、艶かしく半身をくねらせ、女の声色で喘ぐその姿を目にしていると……不安の暗雲に似た何かが、自分の胸の中にどんどん広がっていくのを感じる。

 少しあばらの浮いた胸に、和男の指が這い回る。

“セルジュっ! やばいっ! そこっ! もっとっ! もうっ! もうっイっちゃうよおっ!!”

 その声は甲高く、もはやほんものの女の声に聞こえた。
 和男はうっとりと薄目を開け、唇をだらしなく開き、舌を出し、少し涎を垂らしていた。

 普段は凛々しく、丹精な顔をしたクールな少年だ……
 しかし恵介は親友のその嬌態に、明らかに女性的なものを見た。

 実際には性経験のない恵介にとって、本来の“女性的”なものがどういうものなのかはわからない。せいぜい、ネットで見るエロ動画の中で悶えている女たちの演技を通してしか、それに触れたことがない。

 しかし、今、気がふれたように身体をくねらせ、自らの身体を撫で回している和男の姿は、妙に生々しく……
 とても恐ろしいことだが、なまめかしくも感じた。

 おそらく、何日も風呂に入っていないのだろう。
 和男から立ち込める異臭は、今やむせ返るようだった。
 まるでコンビニの店内に漂っていた、セルジュの体臭のように。

 呆然と和男の姿を眺めていたら、いきなり和男の動きが変わった。
 いきなり、部屋の床に仰向けの状態で寝転がる。

「セルジュの声も聞こえてきたよ……バッチリな! こんなふうにな!
 “エエか? このドすけべの牝ネコ……どヤ、どナイや、そんなにエエんか こコか? ココやな? ココがエエんヤな? たまラ"ンやロ"? タマラ"んのトちゃウンか? ホレ" ほレ" エエのんか?”

 
 言いながら和男は、ピョンピョンと腰だけを飛び上がらせた。
 ブリッジの状態でけいれんを起こしているように見える。
 和夫は、“らりるれろ”の部分で、あの痰を吐くようなセルジュの発音を完全にコピーしていた。

 あまりに跳躍が激しいので、床がミシミシと音を立てる。
 

「……か、和男……ちょっと……し、しっかり」

 恵介の声など、和男の耳にはまったく入っていいない様子だ。
 いきなりアクロバティックなダンサーのように腹筋を使って上半身を持ち上げ、また恵介にぐっ、と顔を近づけてくる。

「あ いつの姿は見えなかったけど、あいつがベッドか何かに仰向けになって、女を突き上げてんのはわかった……それに、あのくねくね悶え狂ってるシルエット は…………ぜったいに裕子だ! おれは……そのままブロックを頭の高さに持ち上げて、赤い窓のほうに近づいていった……」

「それで……おまえは、ブロックを窓に向かって投げ込んだんだ……んだな?」

「そうだ……それだけじゃない……そのまま、割れた窓に飛び込んでいった」

「ま、マジかよ?」

 B級ホラー映画の世界から、B級アクション映画の世界に……
 でもこれは、親友の和男が語る実際の体験らしい。
 この状態の親友が、はったりを語るとは思えない。

「飛び込んだ先は、ベッドの上だった。でも意外だったよ……ベッドに仰向けになっていたのは、確かにセルジュだった……おれは、ベッドの上に落ちたと思っていたけど、実はあいつの腹の上に落ちてたんだ……で、同じようにセルジュの腹の上に乗っ勝てた女と、モロで真正面、顔を合わせた……それが……」

「裕子じゃなく、友里江だった……ってわけか?」

 ニタ-ーーーーリ……と、ゆっくり時間をかけて不気味な笑顔をつくる和男。

「そうだ。よく知ってるなあ……そこまでは、友里江に聞いたんだな? そこから先は聞いたか?」

「い、いや……それは……」

 恵介がうつむいて言い淀んでいると、くにゃりと首を傾げた和男が、下から見上げてきた。
 思わず“ひっ”と声がでる。

「…………その部屋にはなあ…………裕子もいたんだ」

「えっ……そ、それって……まさか」

「後ろを振り向くと、裕子が素っ裸でベッドの脇に立っていたんだ! で、いきなり笑い出したんだよ!」

 いきなり、和男に足首を掴まれる。

「えっ! ちょ、ちょっと何すんだよ和男!」

 和夫は、恵介の足を信じられない力で引きずり始めた。

 不意をつかれた恵介は、床に仰向けに倒れてしまう。
 和男がヒステリックな声で叫んだ。

「そっから先は……とても口じゃ言えねえんだよ! お前も俺の気持ちをわかってくれよ!」

「や、やめっ……やめろ、イカれちゃったのかっ……?」

 次の瞬間……あまりにも予想に反することが起こった。
 和男が恵介のズボンのベルトを緩め始める。

 何だ? 一体なにが起こってるんだ?

 和男が叫ぶ。

「分けてやるよ! 分かち合ってくれよ! ……俺の経験させられたことをっ! ……恵介、俺たち友達だろっ?」


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