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痴 漢 「 環 境 」 論 【6/6】

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 はじめまして。

 わたしは……本名はマズイので、触又揉男さわりまた・も みおという仮名を名乗ることを許してもらえますでしょうか……

 いわゆる、満員電車で痴漢を働いている者の一人です。

 この女性が書かれた『痴漢環境論』、とても楽しく読ませていただきました。

 わたくしども痴漢にとっても非常に新鮮で、刺激的な内容だったと思います。
 

 いや、実際のところ、わたくしも通勤電車で痴漢を始めてからはや10年になろうとしておりますが、これまでに一回も捕まったことがないのだけが 自慢、というどうしようもない男です。

 これまでにたくさんの女性を痴漢してまいりましたが、この『痴漢環境論』に書かれているような女性も、そ の中には 少なからずいらっしゃいました。

 わたしがお尻を触ろうと、スカートをめくろうと、パンツの上から触ろうと、パンツを食いこませようと、パンツの中に手を入れようと……

 まったく 何の反応も示さず、抵抗もせず、心ここにあらず、という感じで電車に揺られている女性、というのは、案外多いのですね。

 わたくしども痴漢からしてみれば、そんなふうにラクに触らせて頂けるのは大変ありがたいことです。

 ただ、『痴漢環境論』を読んで膝を打ったのは、そういう女性は、ただ単に面倒くさいからわたくしどもに無反応を通していたのだ、ということ。

 これにわたしにとっても思いが至らなかったところです。

 いやあ、わたしたちはつまり、この世に存在するありとあらゆる不快な『環境』……それこそ彼女が言っていたように、公害や夏の蒸し暑さや生ゴミの腐った匂いや、水道を捻ったら出てくるカルキ臭い水、そういう、大都会で暮らす人間にとっては無視してガマンしなければならない不快な『環境』のひとつに過ぎず、そのために徹底的に無視されていたんだ、ということに気づくことができました。

 IT化が進み、社会がますます複雑化し、それぞれの人間が持つ価値観が混迷するこの現代社会において、わたくしのような存在は『適応すべき環境のひとつ』だ、という彼女の説には、非常に感銘を受け、これまでの自分の見識の甘さを恥ずかしく思うことしきりです。

 それではここで、痴漢から2、3、コメントしておきたいことがありますので、この場を借りてお伝えしたいと思います。

 彼女も『痴漢環境論』で指摘されているように、このお話の中で登場する彼女の同僚のF子さん……あの、グラマーで頭のヌルそうな女性です……あのような女性は、わたくしたち痴漢の大好物であります。

 わたしも狙うなら、あのタイプの女性を好んで狙います。

 言うなれば痴漢は、その人間の『個』としての自己主張が薄いタイプの女性、意思というものがまるで感じられない女性をよく標的にします。

 そういう女性は、たとえば痴漢に遭ったとしても、どこまでが自分にとって『不快』な行為なのか、どこまでされると自分は『拒否』していいのかわからずに、わたくしども 痴漢の思うがままになってしまうわけです。

 痴漢からこういうアドバイスをするのは甚だ僭越ではございますが、娘さんを育てられているご両親の皆さん、できるだけ小さなうちから、娘さんがすべての 物事についてはっきり意思表示ができる、ちゃんとした『個』を持った人間に育てるように気をつけられたほうがいいかと思います。

 そうすれば、痴漢に遭いにくいだけではなく、世の中のさまざまな面において、娘さんはよりよい人生を送ることができるようになるでしょう。

 次に、この『痴漢環境論』を書かれた女性も軽く触れておられますが、痴漢体験そのものが女性にとって快感に結びつくものだ、なんて大それたことは、わたくしども痴漢は考えてはおりませんのでご安心を。

 中にはそういう思い上がった輩もいるかも知れませんが、ほ とんどの痴漢は、ただ自分が触って気持ちよくなりたいだけです。

 女性の皆さんを快楽へ導いてあげよう、とか、気持ちよくさせてあげよう、とかそういうことは、これっぽっちも考えてはおりません。

 だいたい、考えてみてください。
 電車の中で他人の身体を弄りまわして楽しむような人間です。

 そういう人間は、完全な利己主義者であり、何事も自分を中心に考えるエゴイストであります。

 あ、えっと……利己主義者とエゴイスト、同じ意味でしたでしょうか?……

 しかしまあ、世の中には変わった女性もいるもので、まったく思いやりも何もなく、めちゃくちゃにされること、好き放題に弄り回されること、強引に奪われ ること……に関して、過剰なファンタジーを抱いている女性も いらっしゃることはいらっしゃるようです。

 その方々がわたくしどもの痴漢行為で快感を感じるか どうかはわかりませんが、この『痴漢環境論』の女性のように、その痴漢体験を、お付き合いされている彼氏や、既婚女性であるならば旦那さんなど、 ステディなお相手に そっと打ち明け、男性を興奮させたうえで自分もマゾ的 な快楽を楽しむ、というのは、決して悪いことではないと思います。

  この女性も書かれていたでしょう。
  『超きもちよかった』と。

 さて最後に、これはあまりにもひどい矛盾であり、痴漢の身でありながらこんなことを発言するのは気が引けるのですが、女性の皆さん、これだけは覚えておいてください。

 電車の中で痴漢に遭ったら、ちゃんと抵抗し、『やめてください!』と はっきり意思表示をすることが大切です。

 小さな抵抗、小さな声で

 『や、やめてください……

 では、 わたくしども痴漢はますます亢奮して、調子に乗る一方ですので。

 しっかりとその痴漢の手を掴み、『この人痴漢です!』と大 声で周りの人に伝え、できたら周囲の方々の協力も得て、次の駅で引きずりおろし、駅員に突き出し、 会社をクビになるだの、一家離散するだの、痴漢がどんな泣き言を並べようとも、甘い顔を見せず、ちゃんと出るべきところに出して、報いを受けさせるほかはありません。

 『痴漢環境論』の中盤には、そうならなかった不幸なケースが挙げられていますが……いかに大都会の人間関係が希薄になっている昨今だからといっ て、ここまで不幸なケースになることはごく稀なケースである と思います。

 情けは無用です。

 それによって痴漢は、現在の職を失ったり、内定を取り消されたり、一家離散したり、親に勘当されたりするかも知れませんが、それは自業自得というもの。

 どうせ痴漢をするようなタイプの男は、すべてを失っても痴漢だけは絶対に辞められませんからね。

 わが国の恥、痴漢という『不快な環境』が完全に失 われる日のことを、願って止みません。

 それではこれをお読みの女性の皆さん。


 いつの日 か、この国のどこかの路線の、朝の満員電車でお会いしましょう。

<了>




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