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クチャ王降臨


最近、席運がすこぶる悪い。

いやそもそも全体的に運は悪い方なのだが、中でも際立って席運、つまり電車などで何かしら良くない席に座ってしまいがちなのだ。

ついこの前も電車でちょっとした騒動に巻き込まれてしまった(詳しくはYouTubeの最新回を見て下さい)

なるべく何も無さそうな席に座ろうと心がけてはいるのだが、こればかりはどうしようもない。

いくら気を付けたって何かしら起こる時は起こってしまうのだ。


というわけで昨日の夜。

バイトが終わり、僕は猛烈に豚キムチが食べたくなった。

この前、最近観てるドラマ「飯を喰らひて華と告ぐ」の豚キムチ回を観たからである。

あれを観てからずっと豚キムチが食べたかったのだ。

これはもう今日豚キムチを食べるしかないと僕は最寄駅の中華料理チェーン店に足を運んだ。


そこの店はよく行く店で好きなのだが、難点が一つだけあり、カウンター席がやたら狭いのだ。

人と人の間が非常に詰まっており、絶賛おデブちゃんである僕にはかなり厳しいものがあるのだ。

空いてる時は2人席に案内されたりするのでいいのだが、休日などの混んでいる時はもちろんカウンター席になるので、その時は僕みたいな人は注意が必要なのである。

ただ、カウンター席にもL字型の左部分に一席だけ独立した席があり、そこは大当たりなのだ。

僕は自分の中で密かにその席を「アリーナ席」と呼んでいる。

いくら混んでいてもアリーナ席に当たりさえすれば、悠々と座る事が出来るのである。

僕はアリーナ席が空いてる事を願い、店の中を覗いた。

すると、、、


もちろん埋まっていた。


うん。

何となく予想は出来てた。

最近こういう事で上手いこといった事ないしな。

40歳になってからというもの、色々険し過ぎるで。

しかし、これどうしたもんか。

外から見た所、割とシビアな席しか空いてへんで。

今日はやめとくか?

いや、ただ猛烈に豚キムチが食べたい。

我慢できん。

行くしかない。


僕は店に突撃した。

「カウンター席にどうぞー」と案内され、僕の目の前に2つのカウンター席が現れた。

これのどちらかに座らないといけないのである。

1つは今まさに定食をモリモリ食べてる活きが良さそうなおじさんの横。

もう1つは料理の到着を待っているメガネをかけたおとなしそうな大学生っぽい男の子の横。

このどちらかである。

僕は迷わず大学生っぽい男の子の横を選んだ。

当たり前である。

これはサービス問題だ。

こんな簡単な2択はない。

いや2択と言いながらもはや1択の方は無いも同然。

ここでわざわざ活きが良さそうなおじさんの横を選ぶやつはいない。

昔から活きが良さそうなおじさんというのは何かしら起こすもんなのだ。


そんな超絶偏見をぶちかましつつ、僕は大学生っぽい男の子の横に座った。

今日は平穏に定食がいただけそうだ。

「もろたで工藤」と思いながら僕は豚キムチ定食を注文した。


しばらくするとまず、横のおとなしそうな大学生の元に「肉チャーハン」が到着した。

非常に美味しそうである。

大学生は「いただきます!」と結構大きな声で言いながらレンゲを手にした。

僕はおっと思った。

なかなかこんなにちゃんと「いただきます」と言う人はいない。

いただきますは大事である。

ちゃんと言うに越した事はない。

この人、見た目がおとなしそうなだけで中身はハツラツとした元気な人なのかもしれない。

やはり人は見た目で判断してはいけない、、、

と、その瞬間である。


「クチャクチャクチャ!!!」


咀嚼音の爆音が鳴り響いた。

僕は戦慄した。

こ、この人、、、

ク、、、ク、、、


クチャラーや!!!


何を隠そう私NISSHAN、クチャラーが大の苦手なのだ。

まあ得意な人もそういないだろうが、中でも僕はズバ抜けて苦手なのだ。

もう本当に嫌なのである。

世の中の嫌いなものベスト5には入るだろう。

ちなみに他の嫌いなものは、おっさんの声に出すあくび、イキった奴が急にマジトーンで歌い出す感じ、などである。

まあとにかくクチャラーが苦手なのだが、外食してる以上仕方のない部分はある。

世の中色んな人がいるもんなのだ。

だからある程度は気にしないよう努めてたりするのだが、今回は何というかもう桁違いなのである。

クチャラーレベルMAX、最強の拒絶タイプなのだ。

もはや獣である。

だ、大学生あんた、、、そんな見た目で、、、とんでもない食い方を、、、

僕はブルブルと震えた。

いやまあ見た目と食い方は全く関係ないのだが、とにかくすんごいのである。

前の日、インスタで見た「マイクロブタのぷー子ちゃん」と全く同じ食い方なのだ。

ぷー子ちゃんはめちゃくちゃ可愛いのだが、それを人間でやられたらたまったもんじゃないのだ。

僕は思った。

だ、大学生あんた、、、

何でそんな食い方してるんや、、、

ぶー子ちゃんと全く一緒やないか。

何でブタと一緒の食い方なんねん。

今まで何を学んできたんや。

誰か止めてくれへんかったんか。

いやほんま何やその食い方。

口を閉じるという概念がゼロやないか。

すごいて。

もうクチャ"ラー"とかいうレベルやない。

クチャ王や。

あんたは今日から

クチャ王や!!!


僕は心の中で勝手に彼をクチャ王に任命した。

そうこうしていると僕の元に豚キムチ定食が到着した。

そう。

ダラダラ書いていたが、まだ豚キムチ定食は来てもなかったのだ。

これから食べないといけないのである。

このクチャクチャの嵐の中で。

いや、無理やて。

こんなん味せえへんて。

こんな時に限ってワイヤレスイヤホンの充電切れとるし。

充電切れさえなかったら行儀は悪いけど、最悪音楽でかき消しながら食べる方法もあったのに。


そう思ってるとクチャ王はチャーハンをかき込みながらコップの水をゴクゴクと飲んだ。

そして

「んはあああ!!!」


んはあああ、やないわ!

うるさいねん!

喉渇いてる時に水一気に飲んだら、んはあああってなるけど!

実際に言うな!

自由奔放か!

ここカウンターやぞ!

すぐ横に俺おるんやぞ!


そんな僕の心の声が届くはずもなく、クチャ王はチャーハンをガツガツとかき込み続ける。

するとかき込む勢いが強すぎたのか、喉の変なとこに入って

「ブフウウウウウ!!!」とチャーハンを吹き出した


えぐいて!!!

こいつチャーハン吹き出しやがった!

もうめちゃくちゃやん!

ギリギリ豚キムチにはかからんかったけど!

セーフ!!!

っやないねん!

こんなもんアウトや!

横の奴が吹き出してる時点でアウトや!

何やねんこいつ!

豪快すぎるやろ!

え、ターザンかなんかなん!?

文明1日目なん!?

あとこうなってくると最初の「いただきます」

めちゃくちゃ腹立つ!!!


吹き出した喉を落ち着かせようとクチャ王は水をゴクゴク飲む。

すると勢いよく飲みすぎたのか

「ブフウウウウウ!!!」


ええ加減にしろて!!!

お前ずっと何やってんねん!!!


何とか落ち着きを取り戻し、さらに水をゴクゴク飲んで

「んはあああ!!!」


んはあああ!!!やないて!

言うな、それ!

すぐ横に人おんねん!

んはあああ!!!は人おらんとこで言え!


「クチャクチャクチャ!!!」

「、、、んはあああ!!!」

「ブフウウウウウ!!!」


お前、天下一武道会の休憩中の時のサイヤ人か!

食い方、激しすぎるやろ!

あの豚まんみたいなやつ引っ張って食ってる時のサイヤ人やん!

常に音出てるやん!

何やねん、こいつ!

こんな奴、初めて見たって!

ていうか!

ていうかやな!!!

俺どんだけ席運悪いねん!

いくらなんでも席運無さすぎやろ!!!

ひどすぎるて!!!


こうしてクチャ王は肉チャーハンを平らげ

「ごちそうさまでした!!!」とバカでかい声で言いながら帰っていった。

いただきますとごちそうさまでしたをちゃんと言うのが逆に腹立つ。

その後、僕はようやく落ち着いて豚キムチ定食を食べる事が出来た。

めちゃくちゃ美味かった。

クチャ王が去った後の豚キムチ定食はいつもより美味く感じた。

仕事の後のビール、といった感じだろうか。

いや、違うか。

とにかく今後はアリーナ席が空いてるかどうかよりクチャ王がいるかどうか確認してから店に入ろう。

そう決意した夜だった。



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