西透

小説や詩を書いています。宜しくお願いします。 (*'ω'*)

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最近の記事

《小説》冬の桜

 私が最初に玲子に会ったのは、三年生向けの研究室紹介が開催された時のことだった。次から次にやってくる学生達に研究内容と活動を紹介する賑やかな二日間が終わり、元の日常に戻った頃、研究室を訪ねて来た学生がいた。話を聞くと、研究室紹介の期間に熱を出して参加できなかったので、個別で話を聞いて回っているとのことだった。夜も遅く、手の空いている学生がいなかったので、私が説明をすることになった。中に招き入れると、彼女は私について来た。椅子を持ってきて、彼女を私の横に座らせ、研究室紹介の資料

    • 《小説》私も

       近年、世界各国において死刑制度の廃止が相次いでいる。理由としては、一.死刑の残虐性。二.死刑囚が自らの罪と向き合う機会の喪失。三.死刑執行により、死刑囚の犯行動機及び思想を調査する機会が永久に失われることが挙げられる。今回の試験では、無差別大量殺人犯Aを調査対象とし、人工知能(以下AI)を利用した犯罪心理の解析を試みる。AIの共感性の高さは先行研究からも明らかになっており、カウンセラーの補助要員として、学校、省庁、および一部の企業において導入が進んでいるが、今回の試験では次

      • 《小説》青空の道しるべ

         いつからだろうな。男らしさなんて気にするようになったのは。小学校の頃は何も考えずに毎日楽しく遊んでいた。ブランコに乗って靴を飛ばしたり、消しゴムに画びょうを刺したり、教科書に落書きしたり、まあバカだったよな。女の子の方がまじめでしっかりしていて、学級委員とか放送委員とか、大事な仕事は大体女の子がやっていた。男なんて掃除もまじめにやらないし、女の子には勝てないって思っていたんだ。  何か違うって思い始めたのは中学校に上がってからだった。とにかく全員部活をやらなきゃいけない学

        • 《長詩》アスファルトに描く夢

          私には、 選ぶ権利はなかった。 それは生まれる前から決まっていた。 女の子が生まれると知って、 母は喜んだようだ。 子供の頃は、 髪を長く伸ばして、 赤いランドセルを背負った。 長く伸びた髪が目に入って、 はさみで切ったら、 母にひどく怒られた。 私の体は男と違うらしい。 少しずつ、そんなことに気づき始めた。 中学校に上がってから、 片頭痛に悩まされるようになった。 月に一度、猛烈に機嫌が悪い。 私は、 新しい命を、 生むことができる。 見えない運命に縛られているようで、

        《小説》冬の桜

          《写真詩集》ともしび

          桜の道 毎朝歩き続けたこの道 夏は汗をかき 冬は凍えながら 春になると桜が咲く かつて線路が敷かれていたこの道に 桜並木が続く 一斉に咲いた桜の下に立ち止まり 空を見上げた 桜は過去も未来も知らずに 今咲き誇る 一つの花が宙を舞う 桜の終わりが春の始まりを告げる 春風が吹いて 桜の花が流れ落ち この場所で 十年前と変わることなく 同じ時を繰り返す いつまでも いつまでも 花火 夜の闇の中に きらめく花火 一瞬だけ光を放ち消えていく その間にもうひとつ花開

          《写真詩集》ともしび

          《詩》稲穂

          私がまだ 小さな小さな子供だった時 一人で田んぼのあぜ道を走り回った 春になると紫色の花が咲いた あれはレンゲの花というのだと おばあちゃんが教えてくれた 眠れなかった夏の夜 私はふとんから体を起こした 暗闇の中から寝息が聞こえた 私は居間の灯りをつけて 椅子の上にうずくまった カーテンの間から光が漏れた 私はサンダルを履いて外に出た 白い光が私を打った 空は青く どこまでも青く輝いていた 私は誰もいない道を歩いた 目の前に田んぼが広がった 緑色の稲が果てしなく続く 朝の風

          《詩》稲穂

          《詩》抽象画

          白い紙に絵を描こう 上が青 下が白 空 地平線 地面に花を植えよう 左が白 右が青 壁 空 扉を開けて外に出よう 窓を開けて空を見よう 上が白 下が青 水平線 海 空に浮かぶ大きな入道雲

          《詩》抽象画

          《詩》三月の記憶

          1 人の作った光が 全て消えた日 夜の道を ひとり歩きながら 星の数を数えた ひとつ ふたつ 2 流れていった 街が 人が 日常が 平和が 明日が 海に流れていった 絶望も 悲しみさえも 流された その後に残された 瓦礫の山の中に 立っているのは誰 泣いているのは誰 3 消えることのない火を手にした人間は その火を封じ込めて 夜の街を照らした その日 大地が揺れ 火は解き放たれた 破片が空に舞い上がり いつか世界を焼き尽くす時が来ると 人々は恐怖に震えた

          《詩》三月の記憶

          《小説》ふたり

           まだ夏のおもかげが残る気だるい秋の日のこと、午後の授業が終わって、その日部活のない五人の女子生徒が昇降口の小さな階段を降りてきた。正門を出て神社のある角を右にまがった時に彼女たちの前を一台のバスが通り過ぎ、二人が手をふって別れ、すぐ先の停留所でバスに駆けこんだ。しばらく歩いていると、一人が突全大切な用を思い出し、そのことを告げて早足で学校に戻っていった。こうして恵と由美の二人が残された。  この二人が並んで立っている姿は見慣れない人の目には少し異様に映るかもしれない。恵は目

          《小説》ふたり

          《詩》はじまりとおわりのうた

          1 昭和20年8月15日 戦争が終わった 嘘だって私は思った 4年間も続いて何万人もの人を殺した戦争が あのラジオのパチパチした音で終わるなんて そんなことあるはずないって思った でももしそれが本当だったなら もっと早く終わってほしかったな 私のお父さんがフィリピンで死んじゃう前に 私がラジオをパチパチ鳴らして 戦争を終わらせたかったな 2 私は真っ赤な服が好きだ お父さんが買ってくれた真っ赤な服が好きだ 私のお父さんはおっきな会社のとっても偉い人で 私はそれが自慢だっ

          《詩》はじまりとおわりのうた