《詩》三月の記憶
1
人の作った光が
全て消えた日
夜の道を
ひとり歩きながら
星の数を数えた
ひとつ
ふたつ
2
流れていった
街が
人が
日常が
平和が
明日が
海に流れていった
絶望も
悲しみさえも
流された
その後に残された
瓦礫の山の中に
立っているのは誰
泣いているのは誰
3
消えることのない火を手にした人間は
その火を封じ込めて
夜の街を照らした
その日
大地が揺れ
火は解き放たれた
破片が空に舞い上がり
いつか世界を焼き尽くす時が来ると
人々は恐怖に震えた
人間はもう一度火を封じ込めた
そこに海を流し込んで
そして火は燃え続ける
人が作った小さな海の中で
4
人が並ぶ
雪の降る中を
傘をさしながら
車が走る
ひび割れた道を抜けて
街を離れていく人たち
帰る所がある人たち
街に残る人たち
街と共に生きる人たち
ガラス窓に貼り出された新聞
崩れた壁
人の列
全ての上に雪が降る
5
冷たい風にまぎれて
春の風が吹いた
桜の花が舞う
まだ見えない桜の花が
この街に咲いている
桜の花よ
飛んでゆけ
住めなくなった土地の上に
拾われることのない思い出の上に
飛んでゆけ
まだ見えない春が
この街に訪れた
春の風が
通り過ぎていった
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