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僕たちに絆はあるのか

今年の7月、郊外に移り住んだ。
大人の脚で駅から30分かかる郊外へ。

この地域の住民の平均年齢は
65歳を超えている。

ここでは高齢化社会は未来の話ではない。
今まさに向き合っている「最前線」だ。

ただ、住民たちは驚くほど
静かに、力強く、生活している。

その生活の根底にあるのは
住民たちの「深い絆」だ。


斜向かいに住む70代前半のおじいさんが
ある日、事故を起こした。

家にいても聞こえるほどの衝撃音に
慌てて外に出た。

自分の家の駐車場に停めようとしたら、
ブレーキとアクセルを間違えて
向かいの家の塀に激突したようだ。

第一発見者となった僕は
怪我の有無を確認して車から下ろした。
事故に驚いてしまったのか、
震えが止まらないおじいさん。
周囲の住民も慌てて駆け寄ってくる。

衝突で塀が壊れてしまった家主は
塀には見向きもせずに
おじいさんのケアにあたっている。

「警察呼びますか?」と形式的に聞くと、
みんな声を揃えて「不要」とのこと。即答だ。

この地域の住民たちは
30年来の付き合いがあるそう。
おじいさんには昔から
たくさん世話になっているからと
その家主がケアをしながら話してくれた。

思わぬハートウォーミングな展開に
心がほっこり、温かい気持ちになった。


おじいさんの駐車場に新しい軽自動車が
納車されたのは、数日後のこと。

心の奥底から湧き上がる不安と心配。

とはいえ、ここでの生活に車は必需品だ。
特に高齢者ともなれば車がなければ
日々の生活もままならない。

ブレーキとアクセルを踏み間違えて
高齢者が事故を起こすニュースを見るたびに、
「免許返納するべきだ」と本気で思っていた。

が、分かったことがある。
それは「他人事だから言える」のだ、と。

誰の世話にもならないよう
静かに、必死に、暮らしているおじいさんに
免許返納の提言は僕にはできなかった。

それは「この地域から出ていけ」という言葉と
全く同じ意味を持つからだ。


この地域は互助の心に支えられた
「深い絆」で成り立っている。

互いの存在を大切に尊重して、
地域が家族の体を成して生活を補完している。
絶妙な均衡の上にある素晴らしいコミュニティ。


ふと思う。僕らの世代はどうだろう。

隣の人と話をしたこともなければ
どんな人が住んでいるのかも知らない。
むしろ、関わりを自ら拒絶している。

僕らがおじいさんの年代になる30年後。
大変な時に助けてくれる他人は当然いない。

絆のない環境に、幸せな老後はあるのだろうか。
不安と焦り、憂いが止まらない。



エッセイシリーズ 〜バックナンバー〜


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