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「石の町ジロカストラ、99%の日本人が死ぬまでに一度も行かない国、霧と雲海と雲間の向こうへ」【アルバニア1日目】/ヨーロッパ14カ国一ヶ月旅/第五話

※このnoteは2023年1月26日にインスタグラムへ投稿した旅記録へ加筆したものです。「短く簡潔に」を意識したインスタ用記事が954字なのに対して、「よりリアルに詳細に」を意識した当noteは5700字あります。
空き時間を潰したい人、文章が好きな人、アルバニアや秘境世界遺産が好きな人、擬似的に旅体験がしたい方へ、オススメします。



1,石の町ジロカストラ。濃霧。人生初の雲海に立ち会う。


10m先も見えないような濃霧の中、山道を歩く。

山道は荒れていた。倒木、崩落した階段。
とても世界遺産とは思えないような、整備具合と、人の少なさ。

本当にこの道で合ってるのかと、不安になるような道程。
それでも信じて、歩みを進めてみる。
気温は氷点下4度。こんな山道を歩いてたら、寒さも感じなくなる。


山頂の城塞に到達する。
山頂なのに、あたり一面霧で、何も見えやしない。
そう思った瞬間、霧が晴れる。



一面に広がる、丘下に広がる数百年前からの旧市街は、まるで空に浮かんでるようで、周辺に自分以外ほぼ人がいなかったことと、時計塔の雰囲気も相まって、時間が止まってるみたいだった。


10分ほどボーっと見つめていたあと、再び周囲全体が霧に包まれた。

けれど雲海の風景を見た後だと、真っ白な視界が、「霧」じゃなく、「雲の中」にいるような感覚に変わる。

いつもアトリエの窓から見上げて、変わった形が見つかったらちょっと目で追いかけたりしてたあの雲の中に、自分は入ったのかと思ったら、不思議な感覚だった。
石と霧の町ジオカストラ、今のところ一番好きな場所。

そしてそう思えたのは、ここに来るまでの道程の緊張感と達成感も関係してるな、と思った。
その理由を、「2」に記録していく。

2,絶望の陸路・入国審査。99%の日本人が死ぬまでに一度も行かない国の試練。


北ギリシャ・イオアニナからアルバニア・ジロカストラへ、国際バスに乗って向かった。走行時間はたしか2〜3時間。山道を走る。

陸路入国だから、国境の出国ゲート・入国ゲートで、それぞれバスを降りてゲートで審査を受ける。
人生初めての陸路入国に、緊張。

こんな、外側にむき出しになった、高速のETCゲートみたいな簡素な作りなんだなと興味関心でキョロキョロする。
しかしそんな山奥の野外に数分間、あてもなく待つことが平気な気温じゃない(氷点下5度)ってことが、更に緊張感を増した。

入国審査は、日本人客が珍しいのか、英語が完璧じゃないことからか、他の乗員乗客よりも、少しチェックに時間がかかった。
パスポート以外の身分証明書はない?と聞かれ、マイナンバーカードを渡したら、ホーンみたいな、納得したような顔をしてもらえた。(これ以降も、パスポート以外の身分証を要求される入国審査のタイミングがいくつかあった。想定せずに携帯しててよかったものの一つ)

入国審査用に事前に準備した英語やりとりのメモ。

「渡航目的は?」“Purpose of travel”
→sightseeing. 30days Tour Europe. After Albania, go to Montenegro.
(観光。ヨーロッパ周遊。アルバニアの次はモンテネグロに行きます)

「滞在期間は?」"The length of stay"
→for 3 days(3日間滞在予定です)

「滞在先は?」"destination"
→ホテルの予約画面を見せる

「同行者の有無」"Presence or absence of companion"
→Just me(一人)

「帰りの航空券の有無」"Do you have a return flight ticket?"
→One way ticket only. I have not decided which European country I'll be returning from.
(片道切符のみです。ヨーロッパのどの国から帰国するか決めてません)


想定するやりとりは上記のようにメモしておいて、会話を試みる。
もしも何言ってるか聞き取れなくても、相手が聞きたいことは大抵ここらへんだろうから、いざとなったらこのメモ画面を見せればいい。
英語が話せないから海外旅は出来ないと不安な人も、こうすればいつかは先に進めるのでオススメです。

一番焦ったことは、他の乗客が全員審査を終わらせてバスに戻って自分だけが入国審査してる最中に、自分が乗ってきたバスが先に走り出していったこと。中には自分の荷物は置きっぱなし。マジで?もう乗り込んだと思われて発車した?こんな電波もない山奥に一人で置き去りに??

絶望。

その絶望の30秒後くらいにバスは停車、
走って追いかけてドアを叩いて乗り込む。

ああ怖かった!と安堵。
ただ停車位置を移動させてただけっぽかったけど、本当に本当に焦った、忘れられない瞬間だった。

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国境が変わるくらいじゃ別にそんな町並みは変わらないだろうと思っていたけど、面白いくらい顕著に、国境を抜けた瞬間から、郊外を走ってるだけの風景、建物の作り、道の雰囲気、ゴミの数、グラフィティの量などが、全く変わった。
1990年まで鎖国してた国、という事前情報を、体験で実感する瞬間だった。



そして、ギリシャで出会った大学生が「アルバニアは危ない」と言っていた訳を、少し想像する。

アルバニアは、パッと見、危なくない。
むしろ、ギリシャの方がゴミも落書きも多く汚い。
こちらの方が治安も良さそうだし、のどかだ。

ただ、隣国なのに、こんなにも文化のグラデーションがない。
国境を境に、完全に文化歴史が途切れてる。

こういうところが「隣なのに情報が入らない・知らない・相関しない国」ってことで、「なんかよくわからなくてこわい・危ない」って印象になるんだろうな、と思った。



3,ジロカストラの夜、自称ホテルオーナーにビールを奢ってもらう


ジロカストラの町に着く。バスターミナルではなく、中心地の道路にポンと降ろされた感じ。
事前に用意した国際SIMがつながらず(ヨーロッパではつながる国とつながらない国がある)ネットがつながらないので、予約したホテルの地図スクショをバスの運転手や近くに歩いていた人に見せ、道を尋ねる。

なんとなくの方角の坂道を歩いていたら、通りすがった直後、後ろをしばらくつけて歩いてくる男性。なんだよ、と思っていたら追いかけてきて、こう話しかけきた。
「日本人?あなたが予約したホテルは今日は閉まってるから別のを案内してあげる」と、話したのはジャンレノ似の男。

「ここらへん一帯のホテルは、全て自分がオーナーなんだ」と自称する男だった。

誰もいない暗い夜道だった。
そんな偶然オーナーに出会うわけない。
正直メチャメチャ怪しい。

と思いながらも、とりあえず話だけ聞いてみようと、彼が案内する方向へ着いていく。

目の前にあったカフェバーへ案内され、「KORCA」というアルバニアの伝統的なビールを奢ってもらう。
アルバニア語で乾杯を意味する「グゾア」という言葉を教えてもらう。


ジャンレノ似の男性は、自分がオンラインから予約したホテルの予約受付画面をスマホで見せてきた。
そこには、予約を受けた側の人間しか表示されないような情報が載っていて(自分の日本語表記の氏名など)
その瞬間「あ、本当にこの人オーナーなんだ。嘘つかれてなかった。自分は超、ラッキーだった。このまま歩いてたら、30分も雨の中で石段を登って、やってないホテルに到着するところだった」と、安堵と緊張の糸が切れたような疲労感がどっと出る。


https://maps.app.goo.gl/mLQJ8x51BZEADjXa9

別の案内されたホテルはシャワーのお湯が出なかった。
けれど、雨と寒さがしのげればもうなんでもいいくらい、一つの山場を乗り越えた感覚だった。

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ジロカストラ城山頂からの雲海は、そんな夜の翌日に見えた絶景だったから、より、記憶に残る風景で、特別な、忘れられない街になった。
絶景は、絶景単体じゃなくて、その前後の出来事や精神状況によって確定するものだな、と思った。

比較的温暖なこの町を、ふらふらと散歩する。猫がそこらじゅうにいたり、レンガ作りの道がでこぼこで楽しかった。

昼過ぎにはバスを探して、次の目的地、首都ティラナを目指した。

小さな乗り合いバスは辺境を旅してる風情があって、車窓からの風景は、見たこともないのどかな景色。雪が残る雄大な山、平原、農場、羊、青色の濃い川。

バス停留所には
はちみつ屋
近藤さんの家

美しい風景がいくつも通り過ぎて、今一番合うのはこの曲かもしれないとイヤホンで耳をふさぎ、ダイナソーJrの名曲「Take A Run At The Sun」を再生したら、風景との相性が本当にマッチして、涙が出てきた。旅愁が最高潮へ到達する感覚があった。

そうだ、こういう瞬間にたどり着きたくて、俺は旅に出たんだ。

4,「Dinosaur Jr./Take A Run At The Sun」和訳

Take a run at the sun when you think of the one
あの人の事を思い浮かべたなら 太陽に向かって走ろう

Brings a cloud to your eye
君の視界はボヤけているけど

Every moment you smile rain lets up for awhile
いつだって君が笑えば雨は止むんだ しばらくは

Sun starts clearing your sky
太陽が君の空を照らし始めた

Every night you cry alone, every tear a raindrop
毎晩 君は独り泣いている、涙が零れ落ちる

And every time you're on your own
独りになる度に

And you wish the hurt would stop
傷つきたくないと願っている

The sun will never hurt you, the warmth of rays will hold you
太陽は決して君を傷つけない、温かい光が君を包み込む

The littlest clouds could feel the sun shine
一番小さな雲でも太陽の光を感じられる

Give the moon a place too
月にも居場所をあげよう

You been hurt the cloud's rolling, your heart is close to broken
君は深く傷ついて、心が壊れそう

Don't want to move you're feeling down, catch the rain it's coming 'round
動こうとしないで、巡ってくる雨を受け止めよう

Let the rays come inside they'll make everything right
光を浴びよう 全てうまくいくよ

Let the sun embrace you
太陽が君を包み込む

All the feelings you hide let 'em go with the tide
隠していた気持ちも全て流されていく


「Take A Run At The Sun」は、グランジを代表するバンドニルヴァーナにも影響を与えたとされるバンド・Dinosaur Jr.が、1997年に発売した3曲入りEPのみに収録されたレア楽曲。

キャロル・キングを題材にした映画『グレイス・オブ・マイ・ハート』の劇中曲として使われた名曲だ。

この知られざる名曲は、2019年にダイナソーJrの全アルバムリマスター版が販売・配信された際に、アルバム「Hand It Over」に追加収録され、その曲の存在を知った。

たしかに、あんまり有名じゃなくてもしょうがないような、いわゆるグランジの印象が強いダイナソーJrっぽくはない、ポップな曲だ。でも、本当にいい曲だ。


5,「ジャンルを代表するもの」を意識的に遠ざけ、能動的に「誰も知らないもの」へアクセスする理由


ファッションや創作の話につなげるけれど、僕は「そのジャンルを代表するもの」だけを追いかけるような創作物への消費のし方には、いつも疑問を持ってる。

パンクなら、ピストルズ。グランジがなら、ニルヴァーナ。たしかに、どちらもファッションにまで変容・昇華された音楽ジャンルだ。そういうものを、基礎知識として知ることはいい。

でも「そのジャンルが確立される上で、一番認知された、ジャンルを代表する音楽やバンド」ってもの「だけ」しか摂取しないなんて、すごくもったいない。
グランジってファッションが気になって、そのルーツがニルヴァーナ・カート・コバーンってなんだとしたら、それ自体のルーツを辿ってみたって、面白い。

ルーツの先には、ジャンルで区分けされないような、ジャンルにまで昇華されなかったような、「その人」でしかなかったような人たちがいて、創作物がある。

そこを見つけて、好きを見出して、そこを楽しんでも、君は、誰とも楽しさを、良さを、共感・共有できないかもしれない。
けれど、そんな孤独な楽しさや良さを突き詰めた先にこそ、「君だけの感性」が、少しずつ宿ってくるんじゃないかなと思う。

周りの人は誰も聴かない。誰も興味をもたない。
でも関係なく、好きでいられるもの。好きでい続けられるもの。
それを忘れないでいたい。

受動的にいても、娯楽がどんどん押し寄せてくる時代だ。
「オススメの音楽」が提案され続けて
自分だけのコレ」を見失いがちな時代だ。
だからこそ、忘れないでいたい。そんなスタンスを。

「ジャンルを代表するもの」は、ほっといても意識の中に入ってこようとする。だから、意識的に遠ざけるくらいでちょうどいい。
能動的に「誰も知らないもの」へアクセスしていこう。

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日本人の99%が死ぬまでいかない国アルバニアを走るバスの車窓を眺めながら、そんなことを思った。

少しイヤホンを外す。

のどかな風景とは対象的に、車内スピーカーからは、
世界的にヒットしてるEDMの音楽が爆音で流れていた。

首都ティラナへ。

tips,アルバニア民族衣装の記録

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