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荻窪のキャバ嬢と、猫と、サッポロ一番塩ラーメンと

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上京直後、新宿のバーで知り合い仲良くなったキャバ嬢の友達と、荻窪の小さな居酒屋のカウンター席で飲んでいたら、隣席の常連っぽい商社マンに絡まれ、最初のうちは我慢してたものの耐え切れず口論になり、結果、俺らサイドだけ追い出されたことがある。

なんて理不尽な街だと泣きながら店を出て、キャバ嬢と一緒にタクシーを拾って運転手さんに「世の中は腐ってる、東京はなんで俺のことを見てくれないんだ」と長渕剛のモノマネをしながら悪態をついたら「お兄さんは間違っていない、僕も若いころはそうだった」と言ってチェルシー飴を2つくれてワンメーターでどこまでも走ってくれた。

辿り着いた先は、キャバ嬢が住むマンションだった。「お客さんが買ってくれたの」と彼女は言った。

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彼女の部屋では一匹の白い猫が飼われていて、しばらくかわいがったあと、ストーブでさきいかを炙って酒をひとしきり飲み、電気を消して、一つのベッドで横になった。

僕は彼女のことは本当に友達としてしか見てなかったので、一緒に寝てても全く手は出さず、あちらからも何もアクションは起こされず。睡眠が訪れるその時まで目をつぶろうと横になっていた。そうしたら

彼女がなんか、
急に部屋の電気をつけ、
布団から出て、
「ちょっと!!!!!!!」
って叫んできまして、

「えっ、どうしたのどうしたの」
って返したら

「ちょっといつ手出してくれんのよ!!!!!!!」

ってキレてきたんですよね。

「えーっ!」
ってもう僕、びっくりしちゃって、
そういうこと、女の人言うんだ!と思って、

「いやでも君のことそんな風に見てないから!」
って返したら彼女、急に無表情になって、

「そう…」
って呟いたかとおもいきや、

再び電気を消して、
テーブルのアロマキャンドルにマッチで火を灯して、
冷蔵庫からチーズを取り出して、
火を見つめながらチーズをゆっくりとかじりだして。

「あっこの人、やばい人だ」
と思った僕は、

「ごめん、一旦落ち着こうよ、
とりあえず今日はもう遅いし、一回寝ようよ、
君も仕事あるでしょ」
と言ったら

「じゃあ今からラーメン食べようよ!!!!!!」

ってまた急に叫ばれて

えーっ!と僕思って、
ラーメンーー???!!!
どんな思考回路だと、今の会話の流れでラーメンになるのー!?
って思って、

「いやいやラーメンって笑
もういいから寝ようよ」

って返したら

「一緒にラーメン食べてくれなきゃ、大嫌いになるよ!!」
ってまた叫ばれて、
本当冗談キツイな〜と思って僕も眠くて寝ちゃって、

朝起きたら
「帰って下さい」
と言われた。

僕は素直に
「わかった」
と言って家を出て、
その日以来彼女とは会ってない。

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今あの子はなにしてるんだろう。
愛人に買ってもらったあの荻窪のマンションの一室で、
今も白い猫と一緒に暮らしてるんだろうか。

彼女は、どうしてあんなにラーメンを食べたがってたのか、
食べたかったラーメンは一体なんなのか、
家系なのか、二郎系なのか、豚骨なのか、
あっさり系なのか、貝出汁系なのか、一体なんだったのか
まだブランドをはじめようとも思ってなかった
若い頃の僕はそれだけがいつまでも謎だったけれど、

今ならわかる。


あの時彼女が食べたかったのは、そんなちゃんとしたお店のラーメンじゃなくて、なんでもないインスタント麺だ。冷蔵庫に余った卵を一ついれて、一つのお椀と、一膳の箸でシェアしながら食べる、サッポロ一番塩ラーメンだ。冬、深夜、友達と肩を寄せ合って食うインスタント麺、そいつがあったら仲直りできたし、きっと友達になれた。だから、あいつはどうしても食べたかったんだ。だからあの時、ラーメンじゃなきゃダメだったんだ。友達に戻れなくてごめん。

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僕ら、遠くを見つめなきゃ夢は追えないけど、目の前のことを見つめなきゃ助走さえもつけられない。
暗闇と色眼鏡で発症した近視と遠視に対応したレンズに出会えたとき、やっと僕ら「ありのまま」を見つめられるようになる。
外で3Dメガネつけて「世界が3Dに見える」って言うボケもたまに織り交ぜながら、また笑いあおう。


会えなくなったいつかの友へ、
いつかまたこの街新宿でビールを飲もう。



現在、
新宿マルイ本館2階でポップアップ中。


nisai 2021/5th (Fall) Collection
“終わらない服(それを愛と呼ぶことにしよう)”

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場所:新宿マルイ本館二階
日程:2021年9月3日(金)→9月12日(日)
住所:東京都新宿区新宿3丁目30−13

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