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絵本ナビで書評が掲載されました。

絵本ナビさんで、絵本『いぬとふるさと』の書評(みどころ)が掲載されました。

https://www.ehonnavi.net/ehon/162390/%E3%81%84%E3%81%AC%E3%81%A8%E3%81%B5%E3%82%8B%E3%81%95%E3%81%A8/

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「わたしはいま おじさんとくらしている」
「大きく大地がゆれて さいたま にひなんしてきた」

そんな犬の語りからはじまる本書は、犬から見た被災地の「過去」と「現在」のありのままの姿。

福島県双葉町での原発事故の後、ひとりぼっちになってしまった犬の「わたし」は、おじさんに引き取られ、埼玉に避難してきました。そこから10年‥‥‥。ある日、おじさんと共に「ふるさと」へとやってきます。

犬が目にするのは、なつかしい潮のかおりと潮かぜ、高くて青い空、緑の木々、大空を飛ぶ鳥。豊かな自然の風景は以前とまったく変わっていないようです。けれども、だんだんおかしなものが目に入ってきます。倒れて荒廃した家屋、空っぽになったあいつの犬小屋、突然出現する「この先帰還困難区域につき通行制限中です」の看板、人がいなくなった場所に住みついた「いのしし」や「さる」の姿、黒いふくろの山‥‥‥。そしてかつてお気に入りの場所だった広いたんぼへ走って向かったその先に、犬が見たものとは?

「ごめんな むかしもいまも ぼくらはここの電気をつかってきたんだ」
というおじさんのことばが重く胸に響きます。

本書を開いて驚くのは、自然豊かに描かれる絵の美しさ。目に飛び込んでくる青と緑の色彩はとても鮮やかで美しく、気持ち良く感じられます。しかし同時に目に入るのは、その美しい風景にはそぐわないものたち。描かれる風景が美しければ美しいほど、そのギャップが際立ち、失ったものの大きさを感じずにはいられません。巻末には、絵になった実際の場所の写真と解説が収録されているのですが、絵本の中の絵と同じ風景の写真を見比べることで、絵本の中の出来事が実際に存在しているんだ、ということが強く実感されます。

作者の鈴木邦弘さんは、2015年から原発事故後の福島県双葉郡の取材を開始され、現地を「歩く」ことにこだわり、これまでに帰還困難区域をふくめ、のべ250kmを踏破されたのだそうです。被災地に何度も足を運び、歩きながら取材を重ねたからこその、リアルな真実がこの本には込められているように感じました。

さらに特筆すべき大きな魅力は、犬の目線で見た風景を犬が語っているというところにあるでしょう。
東日本大震災を知らない小さな子どもたちや、10年前には幼かった子どもたちが、あらためて震災のことを知ろうとする時、もしかしたら何か怖い印象を持つことがあるかもしれません。そんな時、この絵本はやんわりと、だけどしっかりと、大切なことを教えてくれるのです。

表紙の真ん中にある「原子力明るい未来のエネルギー」と書かれた看板。現在は解体され、双葉町にある原子力災害伝承館テラスに設置されることが決まったそうですが、この絵本の表紙を目にするたびに、この看板の意味するところを真剣に考えるきっかけとなることでしょう。子どもたちと一緒に、この先大切に読み継いでいきたい1冊です。

(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)

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