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2021年10月双葉町取材記②/伝承館へ向かう道沿いの高線量地帯

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 つい先日、10月23、24日と浪江と双葉に行って歩いてきました。去年8月の取材記録も終わってないのに、とりあえず思いつくまままとめてみたので、ご覧ください。24日の双葉取材、その2です。

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<続き>

 諏訪神社から双葉駅までは、来た道を戻ってもつまらないので当然別の道を行く。昨年8月に野菜の実証実験を見学させてもらった場所を1年2ヶ月ぶりに訪れてみたら、畑になっていた場所は原野に戻っていた。

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(耕地整理記念碑。実証実験の場は原野に戻った。)

 本当に実証実験のためだけに植えられて収穫された野菜たち。食されることもなく、検査だけされて結果も伝えられずに捨てられていった。あの日と同じアングルの耕作記念碑越しに伝承館を見つめながら、無力感とため息だけが出る。

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(植物と一体化しつつあるボルボ。住宅が数軒並ぶこのエリアだけ、空間線量は毎時1.0〜3.0μSvと高い。)

 今にも崩れそうな町工場的な場所を見つけて立ち寄る。工場内に入ると手元の線量計がけたたましく鳴り始める。見てみると常に毎時2.5μSv前後、場所によっては毎時3μSvを超えることもあった。震災から10年が経ち、もはや食品も何も干からびてカビの臭いしかしなくなった廃墟がほとんどの中で、ここだけは非常に臭い。とにかく臭い。家畜の糞の臭いしかしない廃墟に一瞬野生動物のトイレ状態なのかと思ったが、床には糞尿の類は見当たらない。よく見てみると、ここは漬物工場らしかった。

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(マジで臭い漬物工場。しかしそれは、10年経っても「生きている」ことの証でもある。)

 漬物工場を出て、少し離れた位置から撮影する。随分と傾いて、今にも崩れそうだ。東日本大震災でここまで崩れたのか、今年2月の震度6でここまで崩れたのかはわからない。しかし、その傾きっぷりに、そこに入って撮影していた自分の無鉄砲ぶりに呆れる。

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 双葉駅から伝承館をつなぐ県道254号に出てみると、それまで道路上では毎時0.2〜0.3μSvほどだった線量計の数値が0.8まで上がった。ふと見ると少し先に青年婦人会館が見える。双葉厚生病院もある。あの周囲の線量は以前歩いて毎時1μSvを超えていることを知っているが、この辺も高いのかと思い周りを見回すと、住宅地があった。周辺のほとんどの場所が解体されてる中で、そこは今まさに除染中だった。フレコンバッグが目に入ったので、撮影しようと近づいていくと、手元の線量計は一気に毎時2μSvを超えた。

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 グーグルマップを見ると、双葉町長塚谷沢町と書かれている。そういえば、ここのモニタリングポストは高い数値を示していたことを思い出した。この周辺は、東電の独身寮など、ピンポイントで毎時6μSv近い高線量の場所がある。もしやこの住宅地もそうなのかとエリア内に入ると、毎時3μSvさえ超えてしまった。地表10cmまで近づけてみると、さらにその数値は倍まで上がった。

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(伝承館へ向かう道沿いの住宅地。地表10cmでは毎時6μSvを超える。まさに除染の真っ最中だ。)

 ここは伝承館に向かう県道254号に面した場所である。駅前にはレンタサイクルが整備され、そこで自転車を借りて伝承館に行く人もいるだろう。また、駅から伝承館までの道のりは2km足らずで、歩いて行く人もいるだろう。行政は放射線や放射性物質はまるですっかりなくなったかのように、観光地のように宣伝を繰り返しているが、毎時6μSvもあると知っていたら、一体未成年の子供を持つ親が好き好んで行かせるだろうか。環境省に復興庁、そして内閣府、さらに言えば福島県に双葉町。取り返しのつかないことになった時、果たして彼らの誰が責任を取るのだろうか。

 呆れ返り怒りに満たされて再び駅へ向かうと、伝承館に行ってきたと思しき大型観光バスが2台真横にやってきた。中には当然ながら客がいる。コロナ禍でマスクをした状態で乗っている乗客を横目で睨みながら、僕は思わず大きな舌打ちをして力一杯右手で太ももを叩いた。

 駅までの道すがら、ルーティンのように正福寺とまどか保育園へ立ち寄る。ここは定点で観測する場所になった。正福寺は今年2月の地震の影響もあって、崩壊がどんどん進んでいる。震度4程度の地震で完全に倒壊するのではないだろうか。にもかかわらず、周辺のガードは非常に甘い。観光地のように人を呼び込んでおきながら、ここまで無防備に危険を放置していることに呆れる他ない。僕みたいな物好きにとっては好都合だが、それは決して喜ぶべきことではない。

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(まどか保育園)

 まどか保育園は園庭に伸びた雑草が綺麗に刈り取られていた。園舎そばのコンクリの隙間から伸びていた植物も伐採されており、もしかしたらここももうすぐ解体されるのかもしれない。震災、原発事故の悲劇を伝えてきたと思われるこの場所も、ついに解体されるのか…言いようのない虚脱感が身体を襲う。

 前回、地表1mで毎時6μSvを超えた場所に改めて立つ。数値は毎時8μSv近くまで上昇した。下がるどころか上がっている。しゃがんでみると、地表10cmで毎時13μSvを超えた。

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(敷地内で最も高い(と思われる)ホットスポット。地表1mで毎時7.96μSv。)

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(植え込みは地表10cmで毎時14μSv近い(5月訪問時は15を超えた)。)

 ここも、いずれ解体され放射性廃棄物として中間貯蔵施設に運ばれ、この場所はすっかり除染されて「復興」へのスタートをきるのだろう。かつてここに何があったか、ほとんどの人は忘れてしまうかもしれない。それを「復興」と呼ぶのなら、僕はそんな「復興」などしなくていいとさえ思う。

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(園庭に落ちていた園児の上履き。その小ささに胸が痛む。)

<続く>

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