見出し画像

絵本『ずっとここにいた』24ページ暫定版

「有料」とありますが、基本的に全て無料で読めます。今後の取材、制作活動のために、カンパできる方はよろしくお願いします。
〜〜〜〜〜

ずっとここにいた 絵・文 鈴木邦弘

人がいなくなって
見た目は
自然の楽園となったまち

今 また 人が帰り
思いでもろとも 建てものを解体し
木を伐採し 草を刈り取り
土をひっくり返し 生きものを殺し それを「復興」と呼ぶ

モノいわぬものたちは
   ずっとみつめている ずっと 私たちをみつめている

すごい緑に おおわれている
 いっぱい空気が吸えて 気持ちいい
 置いていかれた私たちを 癒してくれる

ずっと待ってたけど
帰ってこれなかった
もうすぐ棄てられるんだ

  私たちと一緒だね ワン!

子どもたちの声が聞こえる
でも だんだん遠くなってくよ

1200年 ずっとここにいたけれど
 誰もいなくなったのは 初めてだった

たくさんの声が聞こえる
たくさんの
歴史と思いでと心が
   詰まっているんだ

私たちはずっとここにいたよ
ずっと ここで過ごしてきたんだ

ずっと寂しかった
今も待っているんだよ
でも もうだめかもしれないね

ずっとここにいた

ずっと 12年だよ
ずっと待ち続けて たくさん倒れた たくさん苦しんだ
人も 動物も
そして 別の世界が生まれた
    人のいない 別世界

そんな別世界に 人がまたやってきた
わがまま 勝手 弱いくせに 強がって

みているよ 山も川も海も空も
       みられているよ

みんな なくなったね
空が青いよ 明日も晴れるかな

ずっとここにいた

 双葉郡を取材で歩いていると、生き残った牛や野生動物はいうまでもなく、虫や植物、果ては自転車や車や家屋といった無機物に至るまで、原発事故で人が逃げてしまったあと、この地でそう過ごしていたそう過ごしていたのか気になることがある。彼らはどんな想いで人間を見ていたのか…。そして原発事故から何年も経って、今度は除染、解体といって人工物はもちろん、動物も虫も自然も何もかも、破壊し殺し尽くす。残るのは愚かな人間と、人間が作り出した放射能のみ。

 人はそれを「復興」と呼び、前向きでハッピーなことだという。それどころか、ついていけない人たちを「復興の邪魔をする」「風評加害者」とさえ罵って、人間同士でも争いを繰り返す。なんて愚かなことだろう。

 原発事故被災地は、人間の愚かさを丸裸にする。恥ずかしい姿を露わにし、生きることの根源を目の前に突きつける。双葉郡を取材し、見つめ、そしてそれを作品にすることは、修行にも似た辛い作業ではあるが、しかしそれは、この世に生を受けた「自分」とは何であるかを、見つけることでもあるのだ。

 そして僕はこれからもずっと、双葉郡を歩きながら心の中で「ごめんなさい」と叫ぶのだろう。

ずっとここにいた
2023年6月17日 暫定版発行
絵・文・デザイン 鈴木邦弘

*****

 今回公開した絵本『ずっとここにいた』は、あくまでも24ページの暫定版です。最終的にはさらに4枚絵を追加し、文章も大幅に変えて32ページ版として出版を目指します。途中の過程として、広く多くの人々にも読んでいただきたいと思い、暫定版を公開しました。また、幸いにも出版となった暁には、このページは削除される可能性があります。
 ご意見、ご感想等あればよろしくお願いします。また、投げ銭も受け付けてますので、よろしくお願いします。

ここから先は

0字

¥ 300

サポートしていただけると大変ありがたいです。いただいたサポートは今後の取材活動や制作活動等に使わせていただきます。よろしくお願いします!